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『SFマガジン2012年10月号  レイ・ブラッドベリ追悼特集』 [読書(SF)]

 SFマガジン2012年10月号はレイ・ブラッドベリ追悼特集ということで、著名作品二篇、本邦初訳短篇を二篇、さらにオマージュ作品二篇を掲載してくれました。また、前号に引き続き籘真千歳さんの読み切り中篇の完結篇も掲載してくれました。

 まずは、名作として知られている『霧笛』。深夜、晩秋の海辺。濃霧に包まれた灯台から響く霧笛の音に応えるように、深海から巨大な何かが浮かび上がってくる。あまりにも有名な作品で、再読してもやはり感傷的な気分になります。

 続いて、『歌おう、感電するほどの喜びを!』。母親を亡くしたばかりの幼い子供たちのために父親が購入してくれたのは、最新式のおばあちゃんロボット。限りない愛情を注いでくれるロボットに男の子たちはすぐに夢中になるが、母親が死んだショックから立ち直れずにいる妹だけは懐こうとしない。だがあるとき、自動車に轢かれそうになった妹を、おばあちゃんロボットは自分を犠牲にして救おうとして。

 親の愛情を無条件に信じられた天真爛漫な子供時代を懐かしむ甘甘のファンタジィで、昔読んだときはちょっと辟易したのですが、再読してみると、実は幼少期を過剰に美化した妄想にしがみつくしかない哀れな老人の姿を書いた作品ではないかという気がしてきました。ああ、歳をとったなあ。

 本邦初訳短篇である『生まれ変わり』は、墓場から蘇ってきた死人が、恋人のもとに戻ろうとする話。だが恋人は変わり果ててしまった彼を受け入れようとはしてくれない。失意のまま彼は墓場に戻るのだが・・・。タイトルでネタバレしてしまうのがちょっと気になります。

 もう一本の本邦初訳短篇『ペーター・カニヌス』は、病院内に勝手に入り込んで病室を巡回するという奇妙な行動をとる犬の話。それに気づいた二人の神父は、犬のあとをつけて、病室でその犬が何をやっているのかを知るのだが・・・。回心をテーマとした短篇ですが、キリスト教の信仰を持ってないせいか、どうもぴんときませんでした。

 『祝杯を前にして』(井上雅彦)、『Hey! Ever Read a Bradbury? -- a tribute prose』(新城カズマ)の二篇は、ブラッドベリに捧げるオマージュ。いずれもブラッドベリ(に相当する存在)が登場して、書き手の人生に影響を与えるという話。

 特集とは関係なく、三分割掲載の完結編『スワロウテイル人工少女販売処/蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス(後篇)』(籘真千歳)も掲載されました。

 既刊の長篇二冊の前日譚にあたる『スワロウテイル序章/人工処女受胎』(籘真千歳)の刊行が2012年9月上旬に予定されていますが、そこに含まれる全四話の連作のうち第三話に相当する中篇、それが本作です。

 基本的には、お嬢様女子学校を舞台としたいわゆる「学園もの」です。人工妖精が通う看護学園にいた頃の若き揚羽が、変異審問官の依頼を受けて学園を内偵するうちに、学園の創立にまでさかのぼる秘密に気づいて、というような話。

 連続殺害事件の犯人との対決シーンが大半を占めています。ミスコン騒ぎの方は、あれほど盛り上げた割りには、肩すかし気味に。ラノベやアニメ的な感性が横溢しており、この歳になるとついてゆくのが難しいです。

 余談ですが、イラストでは揚羽はかなり大きなネコ耳を着けたまま戦闘していますが、「白刃が頭のすぐ上を通り、髪の毛が幾筋か断ち切られて宙を舞う」というシーンがあるので、たぶんネコ耳(および尻尾)は戦闘前に外したんじゃないでしょうかね。そういうことにこだわるのは歳のせいでしょうか。

[掲載作品]

『生まれ変わり』(レイ・ブラッドベリ)
『ペーター・カニヌス』(レイ・ブラッドベリ)
『霧笛』(レイ・ブラッドベリ)
『歌おう、感電するほどの喜びを!』(レイ・ブラッドベリ)
『祝杯を前にして』(井上雅彦)
『Hey! Ever Read a Bradbury? -- a tribute prose』(新城カズマ)

『スワロウテイル人工少女販売処/蝶と夕桜とラウダーテのセミラミス(後篇)』(籘真千歳)


タグ:SFマガジン
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