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『シップブレイカー』(パオロ・バチガルピ) [読書(SF)]

 温暖化による海面上昇と資源枯渇が深刻化する近未来。廃船解体作業員(シップブレイカー)として劣悪な環境で働いていた一人の少年が、座礁した帆船を発見する。中にいたのは一人の美しい少女。彼女との出会いが自分の運命を大きく変えることを、まだ少年は知らなかった・・・。『ねじまき少女』と『第六ポンプ』の作者による第二長篇。文庫版(早川書房)出版は、2012年08月です。

 ローカス賞ヤングアダルト長篇部門を受賞した作品です。若者向けに書かれた作品だけあって、ローティーンの少年が活躍する冒険活劇になっていますが、そこはそれ、さすがバチガルピ。海面上昇や資源枯渇により危機に瀕している未来世界の描写はシビアで、主人公が置かれている状況にも容赦がありません。

 座礁したタンカーの配管ダクトに潜り込み、ケーブルの銅を回収してくる過酷な仕事。揮発した石油やアスベスト粉塵を吸い込みつつ、方向転換も出来ない狭いパイプの中で、温暖化による灼熱のような気温に焼かれながら、重いケーブルを集めてくる。

 劣悪な労働環境、というか、使い捨ての底辺労働者として働く他に生きる道のない少年が主人公となります。

 教育どころか食事すらまともに与えられず、掘っ建て小屋に戻れば父親から殴られ、集めた銅線も二束三文で買いたたかれ、今日を生き延びるだけで精一杯の希望のない人生。気の滅入るような世界を舞台に、気の滅入るような生活が書かれます。

 あまりの過酷さに、もういいです、よく分かりました、さあ早く恋と冒険の旅に出るというヤングアダルト小説らしい展開にしましょうよ。読者としてはそう願うのですが。さすが主人公に厳しいことでは定評のあるバチガルピ。最初の1/3ぐらい、延々と気の滅入る惨めな展開が続きます。

 ようやく少女との出会いがあり、さあ冒険の始まり始まり、と期待するのですが、父親が率いるならず者集団にあっさり捕まってひどい目にあい、生死の境を彷徨うことに。すでに全体の2/3近く読み終えて、まだ冒険が始まらないんですけど。

 ようやく脱出に成功する二人。そこからは危機また危機のスリルとサスペンスあふれる冒険が続きます。長かった・・・。待たされただけあって、帆船による海戦へと展開する頃にはもう大興奮。帆船同士の追跡劇、嵐の中の斬り込み戦闘、そして(お約束)父親との一騎討ち。定番パターンなのにどうにも手に汗握ってしまいます。

 というわけで、ラスト100ページ、見せ場の活劇にもってゆくために、じっくりじっくり固めてゆくタイプの作品です。バチガルピが描き出す未来社会の存在感、単純な善悪ではくくれない印象的な登場人物たちなど、読み終えてみれば、満足のゆく出来ばえ。

 辛気臭い話だと思って途中で投げないで、最後まで読むことをお勧めします。こういう話で普通に楽しませながら、まぎれもないバチガルピ作品としか言いようがない感触があるのも、いかにもだと思います。


タグ:バチガルピ
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