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『地球外生命9の論点  存在可能性を最新研究から考える』(自然科学研究機構:編、立花隆/佐藤勝彦ほか) [読書(サイエンス)]

 系外地球型惑星の発見ラッシュ、RNAワールド、地下生命圏、細胞内共生。「地球外生命」を共通のテーマとして、九名の研究者がそれぞれの分野における最先端のトピックについて語る知的興奮に満ちたサイエンス本。ブルーバックス新書(講談社)出版は、2012年06月です。

 自然科学研究機構による一般公開シンポジウム「宇宙に仲間はいるのか」、その第一回(平成22年10月10日開催)で発表された一連の講演を元に編集された一冊です。地球における生命の発生から、太陽系外空間における有機物の分布まで、様々な研究分野における最新トピックが並びます。

 「論点1:極限生物に見る地球外生命の可能性」(長沼毅)では、深海の海底火山のさらに地下深く広がっている地下生命圏について最新の知見が紹介されます。太陽の光はもちろん届かず、酸素もない、高温高圧の世界。しかし、そんな極限環境に棲息している微生物の総重量(バイオマス)は驚くなかれ何と3兆トンから5兆トンと見積もられており、これは私たちがこれまで知っていた全生物(植物、動物、微生物のすべて)を合わせた重量の実に数倍に達するというのですから、驚愕の他はありません。

 「いま控えめの数字をいっています。この10倍の数字と考えている人もいますし、100倍の数字をいう人さえいるのです。(中略)私には地下のほうが本体であるように思えます。地球の中にこそ本物の生物圏があったのです」(新書p.45、46)

 地球外生命より先に、私たちはまず地球内生命の全体像を発見しなければならないようです。

 「論点2:光合成に見る地球の生命の絶妙さ」(皆川純)では、でもやっぱ地表生命は凄いよ、とばかりに、「光合成」がどれほど優れたメカニズムであるかを紹介してくれます。光量に応じて自動的に調整が行われる絶妙な仕組みなど、最近の研究が明らかにした「分子レベルで見た生命活動」の精微さには感銘を受けます。

 「論点3:RNAワールド仮説が意味するもの」(菅裕明)では、地球内生命の起源に迫ります。最初にスタートした「生命」は、DNAでも蛋白質でもなく、自己複製するRNA分子だった、といういわゆるRNAワールド仮説を詳しく紹介し、それが生命の起源をめぐる議論にどのようなインパクトを与えたかを分かりやすく解説してくれます。

 「論点4:生命は意外に簡単に誕生した」(山岸明彦)では、40億年前の地球環境に関する地学研究の状況をまとめた上で、生命の誕生にかかった時間を明らかにします。結論としては、生物が存在し得る環境になってから実際に生命が発生するまでの期間は、2億年と見積もられています。

 「2億年というのはわれわれの感覚では非常に長い時間ですが、地球の年表を見れば、ごく短い時間です。そのわずかな間に、生き物が誕生してしまったのです」(新書p.107)

 「私などは「なんだ、生き物の誕生はとても簡単なのだな」と感じてしまいます。(中略)生命は別に地球でなくとも、どこで誕生してもおかしくないと個人的には思っています」(新書p.107)

 「論点5:共生なくしてわれわれはなかった」(重信秀治)では、ミトコンドリアやアブラムシを取り上げて、ある生物種の細胞内に別の生物種の細胞が入り込んでしまう「細胞内共生」というメカニズムについて語られます。

 「じつに地球上の昆虫の10パーセントほどは細胞内共生をするバクテリアを保有しているといわれています」(新書p.132)

 アミノ酸の合成経路を担当する遺伝子が、アブラムシと共生バクテリアで「分担」されているという発見は、驚異としか言いようがありません。

 「すなわち、ブフネラとアブラムシの両方の遺伝子セットがそろってはじめて、この合成経路がつながるのです。(中略)この過程が分子レベルではどのようなしくみでおこなわれているのかはまだ明らかになっていませんが、両者の共生の緊密さ、そして複雑さを、宿主・共生者の両方のゲノム解析からあぶり出したひとつの好例です」(新書p.145)

 「論点6:生命の材料は宇宙から来たのか」(小林憲正)では、生命誕生に必要なアミノ酸は隕石や彗星によって宇宙からやってきたのではないか、という話題を取り上げます。「論点7:世界初の星間アミノ酸検出への課題」(大石雅寿)では、この話題を引き継ぐ形で、星間アミノ酸分子の検出に向けた取り組みについて語られます。なお、アルマ電波望遠鏡の話もここで登場します。

 「論点8:太陽系内に生命の可能性を探す」(佐々木晶)では火星に生命が存在する可能性、「論点9:宇宙には「地球」がたくさんある」(田村元秀)では系外惑星探査の現状が、それぞれ解説されます。

 個々の論点についてのページ数はさほどでもないのですが、内容は非常に濃くまとめられており、本書だけでブルーバックス数冊分のボリュームを感じます。彗星の成分、光合成の仕組み、RNAの働きなど、教科書に載っているような事柄についてさえ、次々と新しいことが発見され、新たな疑問が生じ、あるいは従来は憶測でしかなかったことがデータとして裏付けられてゆく。最前線にいる研究者たちの沸き立つような興奮が伝わってきます。

 というわけで、地球外生命は存在するか、存在するとしてどこにいそうか、どうやったら発見できるか、といった話題に興味がある方にはもちろんのこと、理系研究者をめざす若者たちに広く読まれてほしいサイエンス本です。ハードSFまわりの読者も、最近のネタについてゆくために一読しておくとよいでしょう。


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