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『ぶたぶたカフェ』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

 見た目は可愛いぶたのぬいぐるみ、心は普通の中年男。山崎ぶたぶた氏に出会った人々に、ほんの少しの勇気と幸福が訪れる。「ぶたぶた」シリーズはそういうハートウォーミングな物語です。愛読者には女性が多いそうですが、私のような中年男性をも、うかうかとファンにしてしまう魅力があります。

 今回は長篇。母親の再婚をきっかけに会社を辞めた青年が、バイト先で知り合ったカフェの店長は、桜色の小さなぬいぐるみだった。自分が本当は何をしたいのか分からず悩み、ストレスで不眠症に陥り、母親との関係もこじれてゆく青年を待っていたのは、小さな癒し、人生の転機、そして素敵な出会いだった。文庫版(光文社)出版は、2012年07月です。

 今作の特徴は、何といってもパンケーキなどの食べ物の描写がおいしそうなことです。そもそも表紙からして美味しそうだし、あとがきにも、

 「私の趣味丸出しです」
 「食べ物への執着が半端ではない」
 「いつかおいしい料理を書けるようになりたい!」
 「食べ物や料理の描写を一番楽しんでいるのは、私なんだ」
 「ぶたぶたの料理を一番食べたいと思っているのも私です」

といった文章が並んでいます。プロットの展開が転換点に辿り着くたびに美味しそうな食べ物の描写が入る、というより美味しそうな料理を出すために話を進めているのではないかと思えるほど。力が入っています。

 もちろん、魅力的なのは料理だけではありません。

 ビールを飲んでいるぶたぶたの鼻に泡がついているを見て、「吹いてあげたい」から「持ちあげたい」、そして「絞りたい・・・」へと揺れ動いてゆく微妙な気持ち(文庫版p.62)。「あの鼻には、穴があるのか?」(文庫版p.100)という素朴な疑問。

 「ドアの向こうに立つぶたぶたほど、絵になるものはないと思う」(文庫版p.97)、「ちょこんとベンチに座るぶたぶたはかわいい」(文庫版p.134)、「ぶたぶたが「ん?」と言うように首を傾げる。この時、耳が揺れるのがかわいい」(文庫版p.163)。そうそう、そうなんだよー、きりきり共感。

 「ぶたぶたさんのかわいらしさについてゆっくり語り合いたい」(文庫版p.42)、「独身だったら、あたしと結婚してくれたかな」(文庫版p.208)。みんなメロメロですが、まあ、無理もないよねえ。

 というわけで、美味しそうな料理と山崎ぶたぶた氏のキュートさを堪能できる長篇作品。読むとお腹がすいてくるので、ダイエット中に読むのは避けた方がいいかも知れません。


タグ:矢崎存美
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