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『象は世界最大の昆虫である  ガレッティ先生失言録』(池内紀:編集、翻訳) [読書(教養)]

 「カエサルはいまわのきわの直後に死んだ」、「イギリスでは女王はいつも女である」。19世紀ドイツの生徒たちが書き留めたガレッティ先生の珠玉の言葉を、700篇以上も収録した抱腹絶倒の奇書。単行本(白水社)出版は、1992年06月。私が読んだ新書版(白水社)は、2005年06月に出版されました。

 ウィキペディアによると、ガレッティ先生とは次のような人物だそうです。

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ヨハン・ゲオルク・アウグスト・ガレッティ
(Johann Georg August Galletti、1750年8月19日 - 1828年3月16日)

 ドイツの歴史学者、地理学者。ギムナジウムの教授をしながら生涯に渡り多数の歴史書や教本を執筆したが、その著書は現在では顧みられることはない。一方彼が講義中に残したとされる多数の失言は彼の死後にまとめられ多くの版を重ねることになった。
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 200年近く前にドイツで教鞭をとっていたこの名物教授が残した失言の数々を収録した書籍というのが、つまり本書ということになります。収録されている失言は700以上。どれもこれも天然ボケの香ばしさに満ちていて、思わず笑ってしまいます。

 「カエサルは、いまわのきわの直後に死んだ」

 「カリラウスは生まれたとき、まだ年端もゆかない子供だった」

 「スタニスラウスは、父が生まれたとき、まだこの世にいなかった」

 「アレキサンダー大王の死は全アジアに大いなる衝撃を与えた。しかし、それはようやく彼の死後になってからのことである」

 「ナポレオンの行いは、何事につけても、すべてが極端である。たとえば、彼の最初の子供は息子であった」

 「赤髭公フリードリッヒは溺死した。もし溺死などしなかったら、もう少し長生きしたはずである」

 「ライプツィッヒの戦いが終わってのち、戦場をさまよい歩く軍馬のあるものは三本の脚を、あるものは四本の脚を、あるものはさらに多くの脚を射ち抜かれていた」

 「ロドス島の巨人像の残骸は、運ぶのに900頭のラクダを要した。1頭が200ポンドずつ運んだので、計900頭である」

 「カナエの戦いに際し、ローマ軍は3万の精鋭をそなえていた。だが、やがて2万が捕虜となり、4万が戦場に取り残され、12万が逃げ失せた」

 「もし、だれかが旧約聖書を翻訳しようと思い立ったとしよう。だが、文法書も字引もなく、さらにはテキストさえないとしたら、それはいかに困難な事業であることか」

 「これらの作品をホメロスが書いたのは、まだ文字がなかったと充分な根拠をもって断言できるほど古い時代のことである」

 「ローマの日時計は、日の出とともに整然と動き出し、日没とともにピタリと止まった」

 「キケロがここで述べなかったところは、あきらかに間違っている」

 「とりわけ短々長格の詩は難しい。それというのも、短々長格の詩といったものがこの世に存在しないからである」

 「水瓶とは、かめの一種であり、三つの際立った特徴を持っている。第一に、二つの耳がある。第二に、注ぎ口がある。以上が水瓶に特有の三つの特徴である」

 「イギリスでは、女王はいつも女である」

 「ドイツでは、毎年、人口1人あたり22人が死ぬ」

 「川の右岸と左岸とは、源までさかのぼらなければ決められない」

 「地中海の島々は例外なく、シチリア島より大きいか、小さいかのいずれかである」

 「正確にいうなら、カスピ海は海ではなく湖である。四方を水で取り巻かれているだけなのだから」

 「ピラミッドの建設のためには機械が必要であった。その機械を組み立てるために、一段、また一段と、石が積み上げられていったのである」

 「アフリカのライオンは10歳までは成長する。以後はどんどん大きくなる」

 「黒々とした森に棲む黒色の獣は黒い」

 こんな感じで700をこえる失言が並んでいます。上では引用しませんでしたが、授業に関する小言や、生徒に対する叱責、自分に関するボヤキなども収録されています。

 いったいどうやったらこんなステキな失言ができるのか。解説によると、一部に後世に作られた「贋作」が混ざっているとのことですが、それにしてもセンスの良い言葉の数々。おそらく授業内容そっちのけでガレッティ先生の失言をメモしていたであろう生徒たちの姿を想像すると、微笑ましくなります。

 というわけで、一つ読むごとに思わず吹き出しそうになる迷言集。いつも手元において、落ち込んだときなど読み返してみたくなる古典です。


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