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『宇宙就職案内』(林公代) [読書(教養)]

 日本における宇宙産業の市場市場は、7兆8537億円(2009年度)。世界全体の市場成長率は平均11.2パーセント。「目指す」から「暮らす」、そして「使う」へと劇的な転換期を迎えている宇宙開発の現状、そして天文学者、宇宙飛行士、管制官、支援チーム、ロケットや衛星の開発者、運用者、サービス提供者、宇宙旅行業者など、「宇宙関連の仕事」を紹介してくれる一冊。新書版(筑摩書房)出版は、2012年05月です。

 「宇宙開発には大きな二つの方向性がある。「ピークを高く」、「裾野を広く」だ。未知なる世界への探求と、既に切り拓いた場所の一般利用を可能にしていくという二つの方向性だ」(新書版p.5)

 「アポロ計画の後、人類は宇宙でいったい何をしていたのだろうか。注目してほしいのは宇宙飛行をした人類の「延べ日数」だ。約3万8000日。(中略)525人が1361回宇宙飛行をした日数なので1回あたり約28日という計算になる。(中略)つまり1970年代以降、人類は「遠くの宇宙」を目指すかわりに「宇宙に暮らす」ことを選択したのだ」(新書版p.49)

 月面基地も、有人火星探査も、恒星間宇宙船も存在しない21世紀。そのことを考える度に寂しい思いをしていた。ところが、実は人類は、有人宇宙探査ではなく、宇宙に暮らし、宇宙で働き、宇宙を使ってサービスする、いわば宇宙を生活圏、商業圏に変えるという道を選んだのだ、というのです。なるほど。そう考えると、名より実を選んだ人類、さすが、という気分に。

 上のような前提のもとに、宇宙に関係する仕事を紹介してくれるのが本書。「宇宙を仕事にするとはどういうことなのか、どんなミッションの下で、どんな分担をしているのか。何が大変で、どこにやりがいを感じているのか」(新書版p.3)を分かりやすく示してくれます。

 紹介されている職業は、天文学者(観測屋、理論屋)、宇宙飛行士、管制官、支援チーム、ロケットや衛星の開発者、運用者、サービス提供者、宇宙旅行業者など。

 「1日=30時間制」で生活する観測屋。スーパーコンピュータを手作業で制作費20万円で組み立ててしまった理論屋グループ。実験モジュール打ち上げ前に1000種類を超える手順書を完備する管制官たち。時間管理担当者、健康管理担当者、訓練担当者、家族支援担当者など様々な職務から構成される宇宙飛行士サポートチーム。ロケット、衛星、そして探査機の開発者。それらの運用チーム。観測データ処理者、それによる様々なサービスを提供する企業。

 数々の興味深いエピソードに触れながら、それぞれの仕事の内容について教えてくれます。宇宙に関わる仕事、というのがこれほど幅広く存在するとは正直思っていませんでした。

 「宇宙開発は今、転換期を迎えている。「大型化から小型化へ」、「官から民へ」、「一品ものから規格品へ」。劇的な変化はますます広がっていくだろう。その変化のうねりを読み、地上にあって宇宙にないもの、王道と思われているやり方の盲点を見つけ脇道を探す。道筋は無限にあり、そこに気づいて実現した人が第一人者になれる世界だとも言える」(新書版p.183)

 市場規模、7兆8537億円(2009年度)。世界成長率、11.2パーセント。宇宙産業は大いなる活況を呈しています。そして、「大型化から小型化へ」、「官から民へ」、「一品ものから規格品へ」という流れは、まさにかつてのコンピュータ市場の黎明期を連想させます。

 特注の大型電算機から、オフコン、パソコン、ネットワーク、モバイルへ。あの革命が、今度は宇宙産業を舞台に再来するのでしょうか。斬新なアイデアと行動力があれば、生意気な若者があっという間に巨大市場を創り上げてしまう、そんな興奮に満ちた時代が。

 というわけで、価格競争ばかりが厳しい斜陽産業ではなく、これから伸びる分野に進むことを考えている若者に、一読をお勧めします。宇宙世紀を切り拓き、ついでに大金持ちになるのは君たちだ。


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