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『連環宇宙』(ロバート・チャールズ・ウィルスン) [読書(SF)]

 謎の存在「仮定体」による40億年に及ぶ「時間封鎖」が解除され、他恒星系へのワープゲートが開かれた地球。いまだ社会的混乱が続く米国で、一人の少年が保護される。彼が持っていたノートには、一万年後の未来を舞台にした冒険物語と、そして仮定体の秘密が書かれていた・・・。『時間封鎖』、『無限記憶』に続く三部作完結編。文庫版(東京創元社)出版は、2012年05月です。

 あるとき突然、夜空から星がすべて消え失せる。謎の存在「仮定体」によって、地球全体が漆黒のシールド「スピン」に覆われたのだった。しかも、スピン内部の時間経過は1億分の1に減速されていることが判明。つまり、地球上で1年が経過する間に太陽系では1億年の時間が流れるということに。

 という驚くべき(一歩間違えればバカSFになりかねない)設定で読者の度肝を抜き、ヒューゴー賞、星雲賞を受賞、『SFが読みたい! 2009年版』 でぶっちぎりの得票数で海外篇ベスト1に選ばれた名作『時間封鎖』。

 時間封鎖が行われた直接的な理由は最後に明らかにされるのですが(その解答がまた、思わず笑っちゃうほどシンプルで筋が通っていて素敵)、「仮定体」とは何者で、その最終的な目的は何か、という謎が残され、読者としては先が知りたいという気持ちに。

 そして『時間封鎖』のラストから30年後、地球とワープゲートでつながれた惑星を舞台に人類と「仮定体」とのコンタクトを描いた続編『『無限記憶』が出ましたが、いよいよ仮定体との接触、というところで肩すかし気味に終わってしまい、物足りない気分が残りました。

 そして、いよいよお待ちかね、三部作完結編が出ました。それが本書『連環宇宙』です。

 本書は二つのストーリーラインから構成され、交互にカットバックしながら進んでゆきます。一方のストーリーラインは、『無限記憶』よりも少し前、時間封鎖が解除された直後の混乱期にある地球が舞台となります。

 この、いわば「現代」パート(ただし西暦40億年頃ですが)では、ある秘密を知ったことからギャングに狙われている少年を、警官と精神科医の二人が守ろうとする、というサスペンス小説となっています。

 問題はその少年が持っていた数冊のノート。そこに書かれていたのは、何と「現代」から一万年後を舞台とした冒険物語でした。なぜ少年がそんなものを持っているのか、ということが謎となります。

 もう一つのストーリーラインは、このノートに書かれていた冒険物語。舞台は「現代」から一万年後、惑星から惑星へと、ワープゲートを抜けながら数百年におよぶ巡礼の旅を続ける移動都市が舞台となります。目的地は環境破壊により荒廃した地球。そこで「仮定体」との最終コンタクトが行われるというのです。

 こちらの物語における主人公の一人は、前作『無限記憶』の主人公の一人と同一人物で、どうやら『無限記憶』のラストで「仮定体」に吸収されてから、一万年後に復活というか再構成されたらしい。

 この二つのストーリーラインは最初は独立して進みますが、途中から予想外の形で関係してきて、“果てしなき流れの果に”合流する、という仕掛け。

 設定は壮大ですが、二つのパートはじっくり書かれた手堅い「サスペンス小説」と「冒険SF」の類型で、例によって地味な家族小説になってゆくところなど、いかにもロバート・チャールズ・ウィルスン。それが、最終章でいきなり早回しで宇宙の終焉まで跳んでゆき、小松左京的に丸め込んでしまう。

 三部作完結編ということで、最終章で仮定体の正体や、時間封鎖およびアーチ(恒星系間ワープゲート)設置の目的が明らかにされます。ただし、『時間封鎖』でもかなりの部分まで示唆されていたので、さほどの驚きはありません。過度な期待は持たない方がいいでしょう。

 というわけで、SFとしてのインパクトは薄いのですが、小説としてはそれなりに面白く、『時間封鎖』には及ばないものの『無限記憶』よりは上かな、といった無難な完結編でした。


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