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『ネトゲ廃人』(芦崎治) [読書(教養)]

 オンラインゲーム依存症の患者を指す俗語、「ネトゲ廃人」。果たしてネトゲ廃人になるのはどのような人々で、彼らはどんな生活を送っているのだろうか。多数のネトゲ廃人とその家族に取材した結果から見えてくるオンラインゲーム依存症の実態。単行本(リーダーズノート)出版は2009年5月、私が読んだ文庫版(新潮社)は2012年5月に出版されています。

 ネットに接続して不特定多数のプレーヤーと遊ぶオンラインゲーム。これに熱中するあまり、実生活に支障を来すようになるオンラインゲーム依存症。そしてその患者を指す俗語、ネトゲ廃人。その揶揄する感じの軽い響きとは裏腹に、その実態はかなり悲惨なものであることが本書を読むとよく分かります。

 「こっち(現実)の世界がどうでもよくなる。寝る時間もいらない。財布の中にお金が入ってなくても、冷蔵庫に何も入ってなくても、いいやって感じ。(中略)どこかへ外出するなんて、そんなこともどうでもよくなる。とにかくゲームの中に入ってないと落ち着かない。ゲームに入ってないとイライラしてた」(文庫版p.226-227)

 「ゲームをやると高い頻度で、頭痛になる。頭が痛いから、いつも怒っていた。痛くても、ゲームはやめられない。九時間くらい、ぶっ通しでやると頭が痛くて、もうだめだと思ってお風呂に入る。ちょっと楽になるから、また始める」(文庫版p.233)

 「一睡もしないで四十時間から五十時間ぐらい続けた日が一回ありました」(文庫版p.204)

 中毒、依存症そのもの。本人の生活が破綻するだけではなく、家庭崩壊を引き起し、家族の人生まで狂わせてしまうケースもあります。

 「義父義母がどんな仕事をしているかも知らない。夫婦の会話はチャットですませる。そして喋らなくなった子ども」(文庫版p.95)

 「妻と長男の会話は、ほとんどネットゲームの話題になっていく。一蓮托生のような妻と息子、別次元の世界に、加藤も長女もついていけなくなっていった。(中略)家で食事をしなくなっていた。妻の悦子は勝手にネットゲームをやっている。加藤は遅く帰宅して、家で寝るだけという生活になっていった」(文庫版p.163-164)

 さらに、アイテム課金やRMTといった手法でお金をつぎ込むように仕向ける仕組み。

 「消費者金融からお金を借りてまで装備品を買っていた。気がついたら六百万円の借金があった。借金取りから逃れるために会社の元同僚にも会えなかった。実家にも帰れない。お金が払えないから失踪状態です」(文庫版p.39)

 「アイテムを欲しいがためにくじを月に六万円も買って、さらにリアルマネートレードでゴールドを買って、月々十万円、二十万円と使っているユーザーもいるという」(文庫版p.128)

 本書には、こうした当事者による生々しい証言が多数収録されています。個々のケースの詳細は忘れても、いかにも実感のこもった一言が印象に残ります。

 「ネットゲームにはまる前までは、物欲があったと思います」(文庫版p.27)

 「私が眠ると、みんな死んじゃう」(文庫版p.27)

 「一秒でも長くゲームができるように工夫して生活していました」(文庫版p.89)

 「ネットゲームに使ったお金は、チケットの転売で稼いだお金なので、借金はしていないですよ」(文庫版p.111)

 「自分のアバターが装備している武器だけで二百万円ぐらいかかっている」(文庫版p.128)

 他にも、ネット上での恋愛、交流、オフ会、など様々な側面について語られています。さらにゲーム中毒「先進国」である韓国における深刻な状況、そして対策についても取材しています。

 通読すると、オンラインゲーム依存症の恐ろしさがよく分かります。ただ、ゲーム運営会社への取材がないというのはちょっと残念。もしかしたら取材拒否されたのでしょうか。いずれにせよ、続編を書くのであれば、運営会社側の本音もぜひ取材してほしいと思います。また、昨今よく話題になるケータイのソーシャルゲームに関する依存症についても取材してほしいと思いました。


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