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『SFマガジン2012年7月号  特集:スチームパンク・レボリューション』 [読書(SF)]

 SFマガジン2012年7月号は、2年ぶりのスチームパンク特集(前回はSFマガジン2010年6月号)ということで、短篇6作品を翻訳掲載してくれました。また、特集とは独立にロバート・F・ヤングのロマンスSF短篇も掲載されました。

 『マッド・サイエンティストの娘たち』(シオドラ・ゴス)。ロンドンの片隅に建つ屋敷。そこに、世間から隠れてひっそりと暮らす娘たちがいた。フランケンシュタイン嬢、モロー嬢、ラパチーニ嬢、ジキル&ハイド異母姉妹など、「父親」の忌まわしい研究のせいで普通に生きることが許されない娘たち。だが、彼女たちは似た境遇の者同士で秘密クラブを結成し、それなりに楽しく共同生活していた。

 社会的にも小説プロット上も抑圧を受けてきた女性の立場から、著名ゴシック小説の世界観をひっくり返してみせた愉快な作品。

 『リラクタンス 寄せ集めの町』(シェリー・プリースト)。郵便配達夫として飛行船を飛ばす少年。次の目的地は中継基地リラクタンスだが、なぜかそこは無人となっていた。不審に思いつつも飛行船の乗り継ぎ準備を進める少年。そこに、恐ろしいものが襲ってきた。

 長篇『ボーンシェイカー』と同一世界設定の短篇。飛行船と定番ホラーの組み合わせで、新鮮味は全くないものの、スリル満点で楽しめました。

 『銀色の雲』(ティム・プラット)。雲から抽出した浮遊性元素「雲素」を詰め込んで浮かぶ飛雲船が、雲外周部を構成している銀を空中採掘。だが銀を掘り尽くせば雲は蒸発し、地上では干ばつの被害が出るため、今や採掘は非合法化されていた。そんな違法採掘飛雲船に接近してきた雲軍艦。その背景には、雲を戦略兵器にするクラウドバスターをめぐる恐るべき謀略が・・・。

 唖然とするようなバカ話が大真面目に展開されます。スチーム=雲、パンク=法螺、という勘違い感が素晴らしく、個人的にこういう話は大好き。

 『ぜんまい仕掛けの妖精たち』(キャット・ランボー)。機械いじりの天才である女性が、ぜんまい仕掛けの妖精作りに熱中。だが黒人とのハーフである彼女は社交界から疎まれ、財産狙いのつまらない男と結婚する他に道がなかった。そんなとき、彼女の前に謎めいた紳士が現れ、すべてを捨ててこちらに来るよう誘いをかけてくる。

 女性の抑圧に人種差別をからめるという重いテーマを取り上げていますが、その扱いがいかにも紋切り型で、不満が残ります。

 『ストーカー・メモランダム』(ラヴィ・ティドハー)。爬虫類型エイリアン(英国王室)が支配し、ジキル=フランケンシュタイン血清を投与され怪物化した兵士に守られているロンドン。外務省のマイクロフト・ホームズは、旧支配者か何かと手を結んだチャールズ・バベッジ卿が進めている秘密計画を探るべく、ブラム・ストーカーをトランシルバニアの古城へと派遣した・・・。

 ここまでやるか、というネタてんこ盛り作品。かなり楽しいので、『屍者の帝国』(伊藤計劃、円城塔)の出版が待ちきれない方にお勧めかも。

 『奇跡の時代、驚異の時代』(アリエット・ドボダール)。かつて神に生贄を捧げていたアステカ帝国。だが今や産業革命が起こり、機械がアステカの人々を支配しつつあった。古きアステカの神々は討ち滅ぼされ、見せしめとして処刑されようとしている。

 基本設定はぶっ跳んでますが(同一設定で複数短篇が書かれているらしい)、筆致は極めてシリアスで幻想的。神話的な雰囲気で読ませる力作。ただ、個人的には、さほど好きではありません。

 『河を下る旅』(ロバート・F・ヤング)。人生に絶望して自殺を試みた男女。死に近づいてゆく状態が、なぜか河下りの旅として知覚される。死に際のリアルな夢の中で出会った二人は恋に落ち、生きる希望を見出す。だが、今や急流と化した河は二人を容赦なく死に向けて押し流してゆく。果たして愛の力は死を打ち負かすことが出来るのだろうか。

 特集とは無関係に掲載された甘甘のロマンス臨死体験SF。何しろロバート・ヤングの作品なので結末は見え見えですが、それなりに楽しめました。

[掲載作品]

『マッド・サイエンティストの娘たち』(シオドラ・ゴス)
『リラクタンス 寄せ集めの町』(シェリー・プリースト)
『銀色の雲』(ティム・プラット)
『ぜんまい仕掛けの妖精たち』(キャット・ランボー)
『ストーカー・メモランダム』(ラヴィ・ティドハー)
『奇跡の時代、驚異の時代』(アリエット・ドボダール)
『河を下る旅』(ロバート・F・ヤング)


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