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『オカルト「超」入門 』(原田実) [読書(オカルト)]

 UFO、UMA、超能力など、いわゆる通俗オカルトの基礎知識をコンパクトにまとめた入門書。小説、映画、コミックなどの元ネタを知って作品をより楽しめるようになるだけでなく、「通俗オカルトとそれが登場した時代背景との関わりに注目する」という歴史家の視点を手に入れることが出来る一冊。新書(星海社)出版は、2012年05月です。

 UFO、心霊、超能力、UMA、オーパーツ、フォーティアン現象、超科学、予言、陰謀論といった「通俗オカルト」の基礎知識を、新書わずか250ページで紹介してしまうという、これはすごいちからわざ。

 もちろん個々の話題についての突っ込みは浅く、オカルト好きの皆様なら先刻ご承知の情報が大半でしょうが、そこは「入門書」ということで。『インディ・ジョーンズ』や『ケロロ軍曹』を楽しむなら、せめてこれくらいは知っておいてほしい、という基本情報をきっちりまとめてくれました。試験に出る重要単語は太文字になっているので、一夜漬けの必要がある読者はそれだけでも暗記しましょう。

 「このようにして個々の事例を見ていくなら、オカルトを通じて、それが語られた社会の文化や時代背景を考察することも可能になるだろう。(中略)このような過程を経ることにより、信奉者以外には雑学と見なされがちな通俗オカルトは、世界を読み解いていくための特殊な叡智として蘇るだろう」(新書p.8)

 やたらと大上段に振りかぶった宣言から始まる本書ですが、確かに、随所に「歴史家の視点」が感じられて、思わずはっとさせられます。

 例えば、マヤ暦の円環構造が終末予言として解釈された理由を、このように解説してくれます。

 「キリスト教文化圏である欧米の予言者は、多かれ少なかれ聖書の預言の影響下にある。また、彼らが他の文化の予言を解釈する際にも、聖書の直線的時間概念に無意識のうちに合わせてしまう傾向がある」(新書p.216)

 なるほど。マヤ暦による2012年人類滅亡説についても、単に「トンデモ与太話」で済ませるのではなく、なぜそういう話が出てくるのかを考察すると、この世界のあれこれについて色々と面白いことが見えてくる、というわけです。

 「陰謀論は、この世界が明確な神の意志によって支配されているというユダヤ・キリスト教的世界観の粗悪なパロディである」(新書p.238)

 「陰謀論者にとって、陰謀の黒幕と自らの関係は聖書における神と預言者の関係にも等しい。つまり、神が預言者にその計画を教え、民に広めさせるように、陰謀論者は陰謀の黒幕がもたらすメッセージを読み解き、その陰謀を世界に広めるのである」(新書p.,238)

 こう考えれば、荒唐無稽な陰謀論を熱心に語る人の心理がよく分かります。どんなに合理的に批判されても、彼らが決して「預言者の地位」を手放そうとしない理由も。

 他にも、クトゥルー神話が「神智学の超古代文明観のパロディである」(新書p.121)という指摘はごもっともだし、フォーティアン現象データベースについての「その「真相」が判明したとしてもなお、どのような話を人は不思議と思うのか、ということを考える上で貴重なデータたりうる」(新書p.152)という評価など、さすが歴史家の視点は一味違う、と感心させられます。

 UMA(未確認動物)と妖怪、そして(ジョン・キールが提唱した)超地球人を、すべて同じカテゴリに入れてしまうという一見乱暴に見える分類も面白い。UMAは生物学ではなく民俗学の研究対象、ならば「妖怪」や「異界からちょっかいかけてくるあやかしの類」と似たようなもの、というわけですね。

 歴史家の視点から通俗オカルトと文化的社会的な時代背景との関わりを考察する、といっても堅苦しい話ばかりではなく、例えば『天装戦隊ゴセイジャー』の悪役の設定は「チュパキャブラ宇宙生物説、改造生物説を共に踏まえたものだろう」(新書p.109)と大真面目な筆致で語ったり、「きゃりーぱみゅぱみゅ氏がイルミナティ幹部で、彼女のPVは人類を洗脳する目的で作られている」(新書p.234)というアメリカ産の陰謀論を紹介したりと、まあ色々。

 というわけで、新しい情報はほとんどありませんが、沢山の(しかも高価な)オカルト本を何冊も集めないと揃わない基本情報をコンパクトにまとめてくれた入門書です。通俗オカルトについて疎い方が「とりあえず映画やコミックによく出てくる定番オカルトネタについて知っておきたい」という動機で読むとよいでしょう。

 ある程度詳しい方が「社会・文化によって規定される文化的営為」(新書p.245)として通俗オカルトをとらえ直す契機にするもよいし、オカルト同人誌の原稿締め切りが近づいているはずなのに何の音沙汰もないので不安に思っている方がネタ出し準備のために目を通す、というのもまたよしです。


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