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『エリア51  世界でもっとも有名な秘密基地の真実』(アニー・ジェイコブセン) [読書(オカルト)]

 ロズウェルに墜落した円盤の残骸や異星人の遺体が持ち込まれた、月着陸捏造映像の撮影場所だ、地下に秘密のトンネル網がある・・・。様々な噂や伝説に彩られたネヴァダ砂漠の軍事施設、通称「エリア51」。そこで本当は何が行われてきたのか。実際にそこに勤務していた30名以上を含む多数の関係者への取材を通じて明らかになったその驚くべき実態とは。単行本(太田出版)出版は、2012年04月です。

 「本書はノンフィクションである。ここに書かれているのはすべて実話であり、本書に登場するのもすべて実在の人物だ。本書を書くにあたってインタヴューした74人はいずれもエリア51に関する稀少な情報、すべて自らの体験に基づいた情報、を持っており、そのうち32人は実際にこの秘密基地内に住み、そこで働いた経験を持つ人々である」(単行本p.7)

 ジャーナリストが徹底的な取材を通して、「世界で最も有名な秘密基地」ことネヴァダ砂漠にあるエリア51と呼ばれる施設の秘密に迫った一冊です。核実験、キューバ危機、ベトナム戦争、朝鮮戦争、といった冷戦時代の様々な事件に、この秘密基地がどのように関わってきたのか、その「裏の歴史」が、関係者の証言によって明らかにされてゆく様には興奮させられます。

 読み所はいくつもあります。まず最初に、U-2偵察機、A-12オックスカート偵察機、F-117ステルス爆撃機といった、超高高度を超音速で飛行するステルス偵察機の開発秘話。これはシンプルに燃えます。

 「1962年4月の晴れたその日、エリア51に存在したその航空機は、ロッキード社がこれまでにCIAのために完成させた唯一のA-12オックスカートだった。(中略)U-2と異なる点は技術的に40年、時代を先行しているところだ。A-12がこれから打ち立てる記録のいくつかは次の1000年紀まで残ることになる」(単行本p.240)

 地対空ミサイルですら到達できない超高高度をマッハ3で巡行し、レーダーに写らないステルス偵察機。不可能としか思えない要求性能に挑む技術者たちの挑戦。マニュアルもない実験機を命がけで飛ばすパイロットたち。度重なる墜落事故や政治的危機を乗り越え、なおも進められる極秘開発プロジェクト。

 ソビエト連邦で、キューバで、北朝鮮で、ベトナムで。エリア51で極秘開発された偵察機がどのような作戦に従事したかが詳しく述べられ、軍事ノンフィクションとして読みごたえがあります。興奮します。

 次の読み所は、エリア51に隣接する広大な試験場における核実験の数々。ここは、はっきり言って、読んでいて気分が悪くなるような記述に満ちています。

 「105発の原爆がこの実験場の地上で、828発が地下トンネルや地底深くまで掘られたシャフト内で炸裂した」(単行本p.8)

 「1958年9月12日から10月30日のあいだに、なんと38個の核爆弾が爆発することになっていたのだ。高い塔のてっぺんで、トンネルや縦坑のなかで、地面で、さらに気球からぶら下がった状態で。(中略)どれもエリア51からほぼ30キロ以内の近さだった」(単行本p.173)

 「エリア51を襲った爆風の威力はものすごく、西側を向いた建物では金属製の扉がいくつもゆがんでしまっていた。(中略)放射能の灰が空から舞い降りていた。そのようにほとんどたえまなく放射性降下物が降り注いでいたにもかかわらず、警備上の問題が優先されたのだ。ミンガスは五ガロン容器から直接水を飲み、爆発による煙が消えるのを待った」(単行本p.170)

 「ロケットは真上に打ち上げられ、オドネルと配線・起爆チームのメンバーが作業をしていた真上で炸裂してしまうのだ。ほんとうは42キロ南で爆発しなければならないのに。驚異的な火球が上空を焼き尽くす下で、サンダルに短パン姿の男たちが身を屈めるそのときの様子が、修正の施された記録映像には鮮明に映し出されている」(単行本p.232)

 「6名のパイロットが放射能を帯びたキノコ雲とその柱の中心への飛行をおこなうという決定がくだされる。この6名はいずれも志願者だった。このほかにも、放射性降下物が発生すると予想されるゾーンの外縁部に沿って飛行するという任務を命じられたパイロットの一団が」(単行本p.302)

 「実験初期のパイロットはどれほどの放射線にさらされたのか。放射線関連の病気で亡くなったのはどのパイロットなのか。そういったことに関する記録の大部分は破棄、あるいは紛失と伝えられている」(単行本p.300)

 「高度2万5900メートルに近づくにつれ、決まって現れる小さな黒点が風防ガラスに出現しはじめた。(中略)無数の昆虫が爆発で殺され、キノコ雲に乗って2万7000メートル上空に送られ、さらに軌道に乗って循環しているのである」(単行本p.316)

 飛行しただけで風防ガラスを染みだらけにする昆虫の死骸・・・。繰り返される核実験により想像を絶する量の土砂が放射性物質とともに成層圏まで吹き上げられ、ジェット気流に乗って地球全体に散ったことがありありと分かります。

 冷戦という狂気が横溢していた時代とはいえ、これはあまりにひどい。

 被験者の同意を得ることなく人体にプルトニウムを注射する、住宅地の近くで密かに放射能漏れを起こす、原子炉をわざと破壊してどれくらいの汚染が生じるか確認する、など気が狂ったような実験を平気でやっていたそうで、しかも除染作業なし、放射能拡散は放置、というのですから、監視も予算制限もない軍事研究というものの実態を垣間見るようで、身の毛がよだつ思いです。

 エリア51の支配権をめぐるCIAと空軍の激しい権力闘争とか、米ソの諜報戦とか、他にも読み所はたっぷり。車で爆心地を突っ切るシーン、ソ連領内で撃墜されたパイロットが決死の脱出を試みるシーン、核実験の準備中に「襲撃」を受けるシーンなど、軍事スリラー小説のような手に汗握る箇所も散在しており、大いに楽しめます。

 ちなみに、UFO、墜落した円盤、異星人の遺体、といった話題についてはあまり触れられていません。ただ、最後の章でロズウェル事件の「真相」が語られるのですが、正直、これには落胆させられました。

 いくら何でもそんな与太話、信じるなよ、というような無茶な証言を大真面目に取り上げるのです。おかげで説得力のある生々しい迫真の軍事ノンフィクションである本書が、この最終章のせいで、何だかいかがわしい読後感を残してしまいます。ここは読みとばした方がいいかも知れません。

 というわけで、UFOや異星人の話を期待して読むと失望しますが、冷戦時代の軍事開発、核実験、諜報戦の歴史を知りたい方にはぴったりの一冊です。秘密基地、という言葉によってかきたてられる興奮と不安、その両方をたっぷり味わうことが出来ます。あと核兵器開発に対する嫌悪感も。


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