SSブログ

『社会派ちきりんの  世界を歩いて考えよう!』(ちきりん) [読書(教養)]

 豊かさとは、文化とは、経済体制とは。おちゃらけ社会派ブロガー「ちきりん」さんが、これまで世界中を旅しながら「考えた」ことをまとめた、前著『自分のアタマで考えよう』の実践篇ともいうべき一冊。単行本(大和書房)出版は、2012年05月です。

 「おゃらけ社会派」ブロガーとして様々な社会問題や時事ネタについて独自の視点で「考えた」結果を、親しみやすく楽しい文章でアウトプットし、実に面白くて刺激的な記事に仕上げてみせる人気ブロガー「ちきりん」さん。彼女の三冊目の著書です。ちなみにブログは『Chikirinの日記』(http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/)です。

 今回は、若いころから50ヶ国を旅してきたという著者が、異国を歩きながら考えたことを教えてくれます。

 ソビエト連邦末期のロシアでは「共産主義経済のなれの果て」を目の当たりにし、インドで外貨での支払いを要求する店員を見て「自国通貨に対する信頼」について学び、欧州の美術館は国によって展示品の収集過程や展示手法が異なることを観察しそれが各国の歴史と深い関係があることに思い至る。

 貴重な文化遺産を見て、それが生み出されるために必要とされる「虫けらのように扱われる大量の人命」について想像する。物乞いの人々を見て、それが資産の社会的再分配機構であることに気づき、社会保障について考える。

 シンガポール航空のサービスがなぜ世界最高なのか、その根本的な理由を学ぶ。ベトナム難民の祖国を訪れて、メディアで報道される外国のイメージと実際の印象の間にある大きなギャップを知る。そしてアフリカのサファリで、「ただ生きる」ことの価値を感じる。

 扱われているシーンはニュースや紀行文などでよく知られていることばかりです。いわば「知識」としては読者もよく知っていること。ところが、著者は実際に各国の現場を歩き回り、それら表層的な「知識」の背後にあるものを「考えて」ゆくのです。社会がどう動いているのか、お金がどう回っているのか、人々はどのような動機で動いているのか。

 その視点は鋭く、その表現には思わず「なるほど」と膝を打つような驚きがあります。自分だって同じことを「知識」として知っていたはずなのに、いかに自分で何も考えてなかったか、いかに何も学んでこなかったか、しみじみと思い知らされることに。

 個人的に特に気に入ったのは、「第10章 豊かであるという実感」。ここでは、私たち日本人が享受している「豊かさ」について発見したことが書かれています。

 「本当に貧しくて困った状態というのは、「それがお金の問題ではなくなった時」なんだと気がつきました。(中略)食料がどんなに高くても、資源がどんなに貴重でも「お金で手に入る」のであれば、それは豊かな世界です」(単行本P.195)

 「「格差の認識」こそが、日本が豊かな社会であることを示しています。格差が当然のように存在する社会では、格差問題自体が(少なくとも当事者には)認識されないのです」(単行本P.197)

 「豊かさと貧しさを強烈に分けるのは「光」と「水」の存在でしょう」(単行本P.206)

 「彼はむしろ私に伝えようとしていたのでしょう。「家や車やお金なんて持っていても、私の生活は決して豊かとは言えない。豊かな人生というのは、あなたのように希望や自由や選択肢のある人生なんだ」と、彼は言いたかったのです」(単行本P.218)

 国が豊かであるということは、一人当たりGDPであるとか、貿易取引額であるとか、世界競争力ランキング順位であるとか、そういうことで測れるものではない、ということがよく分かります。そして日本人にとって重要なことは、ある国や地域の豊かさが「失われて」ゆくとき、何に注目すればそのことを的確に知ることが出来るか、という点でしょう。

 というわけで、単に観光ガイド、紀行文として読んでも充分に楽しめる上に、自分の体験からいかに社会について「考える」のかを学ぶことが出来る好著。前作『自分のアタマで考えよう』の実践篇ともいうべき一冊なので、そちらと合わせて読むことをお勧めします。


タグ:ちきりん
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: