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『検証 大震災の予言・陰謀論  “震災文化人たち”の情報は正しいか』(ASIOS、アンドリュー・ウォールナー) [読書(オカルト)]

 ASIOS (Association for Skeptical Investigation of Supernatural : 超常現象の懐疑的調査のための会)が、東日本大震災にまつわる様々な噂や流言を検証。アンドリュー・ウォールナー氏をゲストに迎えて、海外における報道の実態も報告されています。単行本(文芸者)出版は2011年11月です。

 東日本大震災は人為的に引き起こされたもの。この大地震は正確に予言されていた。放射性物質はヒマワリで除染できる。震災後に週刊誌やネットで流れた様々な情報のなかには、かなり怪しいものがあります。そこで、超常現象の謎解き、陰謀論の検証、をやってきたASIOSの出番というわけ。

 全体は4つの章に分かれています。

 まず「第1章 東日本大震災は人工地震だった!?」では、あの震災は地震兵器によるものだ、またもやHAARPの仕業だ、いや今度は地球深部探査船「ちきゅう」の仕業だ、など様々な陰謀論を検証します。

 「第2章 大震災後に持てはやされた“震災文化人”の主張を検証する」では、武田邦彦氏、小出裕章氏、田中優氏、苫米地英人氏を取り上げ、彼らの主張にどれほどの説得力があるのかを検証。

 「第3章 大震災後に広まったデマ・迷信」および 「第4章 大震災後に広まった予言とニセ科学」では、怪文書「原発がどんなものか知ってほしい」、震災後に外国人によるレイプ事件が多発した、原発が核爆発したことを政府や東電は隠している、あの大震災は予言されていた、ホメオパシーで放射能に対抗できる、ヒマワリで除染できる、内部被曝は玄米や味噌や乳酸菌で防げる、といった怪しげな噂を検証。

 巻末には執筆者たちによる座談会がついています。

 何しろ、超古代文明やら911テロやら宇宙人の話題に比べると、東日本大震災および原発事故の話題はあまりに身近で切実です。これまでの謎解きシリーズや陰謀論検証本と比べると、正直、読んでいて楽しい本ではありません。

 まだ地震兵器だ予言だといったネタなら苦笑する程度で済みますが、被災地の人々を苦しめたり、便乗して外国人を貶めるヘイトスピーチを流したり、いたずらに不安と混乱をまき散らしたり、そういうのは実際にツィッターなどで見聞きしているだけに、気が重くなります。

 むしろ楽しめたのは、各章の終わりに置かれているコラムです。地球深部探査船「ちきゅう」に関するインタビューは知らないことが多くて勉強になりますし、海外の“震災文化人”がどんなにいい加減なことを言いふらしているかを調べたコラムはとても興味深い。それに関連して、ゲストであるアンドリュー・ウォールナー氏による海外メディアにおけるデタラメ報道に関するコラムは力作です。

 「私が心配しているのは、こうした記事が日本にも紹介され、国内の議論を混乱させることだ。「海外の新聞記事によると・・・・・・」と誰かがネットに書く。すると「なぜ日本では報道されていないのか?」「隠蔽されているのか?」という議論と疑問が巻き起こる」(単行本p.161)

 まさに、ネットで何度も目にした展開です。政府や電力会社や日本のマスコミが信頼できないからといって、海外報道の信憑性が高いというわけではないことがはっきり理解できます。

 というわけで、私も何を信じていいやら混乱している一人ですが、本書を読むことで、「報道されない真実」とか「すっぱ抜かれた衝撃的な新事実」とか「海外では報道されているのに日本では隠蔽されている重大情報」といったものを見聞きしたときには、まずは一呼吸おいて、せめて懐疑的判断保留することにしようと思いました。


タグ:ASIOS
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『くるみ割り人形 The Nutcracker』(吉田都、英国ロイヤルバレエ) [映像(バレエ)]

 2009年末に行われた英国ロンドン公演の記録映像です。何といっても、吉田都さん引退直前に収録された、彼女が英国ロイヤルバレエで踊った最後のシュガープラム。必見です。相手役は引退公演『ロメオとジュリエット』で吉田都さんとペアを組んで喝采を浴びたスティーヴン・マックレー。

 吉田都さんは記録映像に恵まれているダンサーとは云えないのですが、なぜか『くるみ割り人形』はこれを含めて三種類が市販されています。どれも素晴らしいのですが、何といっても本作が完成版ともいうべき出来ばえ。

 その動きは正確無比にして限りなく優雅。指先や目線まで、すべてが気品と威厳に満ちています。それを支えるスティーヴン・マックレーも若いのに上品でスマートな王子を踊っていて、たいそう好感が持てます。

 二幕の後半「葦笛の踊り」のシーンに、第36回ローザンヌ国際バレエコンクール(2008年)でスカラシップ賞と観客賞をとった高田茜さんが出演しています。彼女は2009年11月に収録された『LIMEN』に出演しているのを市販映像『Three Ballets By Wayne Mcgregor』で観ることが出来るなど、出演機会が多く、映像運にも恵まれているようで、これからが楽しみ。

 そして『花のワルツ』には、崔由姫(チェ・ユフィ、Yuhui Choe)、小林ひかる、蔵健太の三名が出演しており、これまたとても嬉しい。崔由姫さんが群舞の一人という扱いなのにはちょっと不満ですが。

 ブルーレイ版なので映像は鮮明で、背景の細かい造作までくっきりと。

 というわけで、吉田都さんのファンはもとより、彼女の引退公演を観て、スティーヴン・マックレーとの共演をもっと観たいと思った方、英国ロイヤルバレエ団が好きな方など、ぜひ観ておくべき一枚。バレエ鑑賞が未経験という方にも入門用としてお勧めなので、今年のクリスマスにちょっと観てみてはいかがでしょうか。


『The Nutcracker』
収録: 2009年11月26日、12月2日。ロイヤルオペラハウス、コヴェント・ガーデン

[キャスト]

ドロッセルマイヤー: Gary Avis
クララ: lohna Loots
くるみ割り人形: Ricardo Cervera
シュガープラムの精: Miyako Yoshida
王子: Steven McRae


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『クモの網  What a Wonderful Web!』(船曳和代、新海明) [読書(サイエンス)]

 クモが織りなす様々な形の網。芸術的ともいえるその美しさに魅せられ、これまでに2000枚を超える「網の標本」を採集してきた研究者のコレクションから厳選された美麗クモ網写真集。同じく日本蜘蛛学会の専門家による解説付き。単行本(INAX出版)は、INAXギャラリーにおける「クモの網展 What a Wonderful Web!」と併せて2008年3月に刊行されました。

 というわけで、様々な種類のクモが作り出す網の標本を集めた一冊です。

 クモの網なんてものをどうやって標本にするのか。まず網に白ラッカーを吹きつけ、それから色付きダンボール紙の表面に糊を塗ったものを背後からそっとあてがって、静かにすくい取るのです。そうすると白い網がくっきりと浮かび上がって、それはそれは美しい標本が出来上がり。

 世界中にはクモが4万種、日本だけでも1300種のクモが棲息しているそうです。その半分、つまり500種を超える種が網を張るのです。種によって網の形状は様々。そのバリエーションだけでも圧倒されます。

 円形、三角形、キレ網、ドーム状、ハンモック状、二段重ね、筒状、一本釣り、さらには長さ数メートルにもなる巨大な集団円網から、蛾を転がして鱗粉をはぎ取る梯子網まで。繊細で美しいその形に魅了されてしまいます。

 一つ一つの写真には、それを作るクモの紹介と、どうしてそのような形になっているのか、その特徴とポイントを解説した、クモの専門家による短い解説記事が添えられています。クモという不思議な生き物について、色々と知ることが出来ます。

 糸に粘性がある網ばかりではなく、縦に張った網に引っかかった虫が下の横網に落ちてきたところを捕食するタイプもある。オスの網とメスの網が二段重ねになったタイプ、川に「浮き」を流して水面の虫を捕らえるタイプ、地面に向かって垂れた糸の下端に粘球があり、地面を歩く虫が接触したら支え糸が切れて空中に釣り上げるタイプ。

 「隠れ帯」と呼ばれる特殊な構造体が取り付けられた網も多く、隠れ帯の形にも、X形、棒状、丸型、ジグザグ、刺繍ステッチ風など様々なものがある。隠れ帯の目的は分かっておらず、クモが身を隠すため、鳥に警告するため、網を補強するため、網全体の張力を調整するため、紫外線を反射して餌を誘因するため、など諸説紛々。研究者の間でも議論が続いているそう。

 他にも、網の横糸が「同心円状」になっている(普通はもちろん螺旋状)クモが発見されたときには専門家たちが大騒ぎになったとか、古い網を壊してからわずか30分後につくられた新しい網を構成している糸の成分の80~90パーセントが、もとの網糸を食べて「消化吸収」したタンパク質を再利用したものだったという報告があるとか、空腹時と満腹時で網の形を変えることによって網に投資するコストを細かく調整する倹約家のクモがいるとか、興味深いエピソードでいっぱい。

 普段は邪魔者に過ぎないクモの網が、実はこんなに魅力的な研究対象だとは思いもよりませんでした。美しい自然の造形をとらえた写真集として楽しむも良し、クモに関する雑学に唸るも良し、心と頭に響く素敵な一冊です。


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『冷たい方程式』(伊藤典夫:編訳) [読書(SF)]

 名作として広く知られている表題作をはじめとして、アシモフやベスターといった巨匠たちの掌篇、シェクリィやシマックの風刺コメディなど、50年代SFの傑作9篇を集めたSF傑作選。文庫版(早川書房)出版は2011年11月です。

 1980年2月にハヤカワ文庫SFより刊行された同名のSFアンソロジーを再編集した新版ですが、共通している収録作は表題作を含むわずか数篇だけで、他は総入れ替えですから、別の本だと思って間違いありません。

 収録作はいわゆる50年代SFばかりですが、今読んでもさほど古さを感じさせないのはさすがです。

 まず、冒頭に『徘徊許可証』(ロバート・シェクリイ)、巻末には『ハウ=2』(クリフォード・D・シマック)という、いずれも風刺色の強いコメディタッチの短篇が置かれているのが嬉しい。

 前者は、牧歌的でのどかな田舎植民星に、地球から査察官がやってきて「文化的に堕落してないか厳しくチェックする」というので住民たちが大いに困惑する話。

 地球の文化に合わせるために大急ぎで税務署やら教会やら刑務所を建てたものの、凶悪犯罪者の一人もいないと「地球の文化」を守っているとは云えない。そこで主人公は、市長から直々に「犯罪者」の仕事を任命される。さあ、強盗や殺人をやるんだ。みんな期待しているぞ。

 後者は、テクノロジーの発達により仕事がなくなって暇になった人類が、ひたすら趣味に没頭して時間を潰している時代が舞台。ある男が組立式ロボットを手に入れて仕事を命じたところ、そのロボットはどんどんロボットを組み立ててゆく。庭が汚れているというと大量のロボットがわらわらと改築に取りかかり、あっという間に庭は最新鋭の武器で武装した安全な要塞に早変わり。お金が欲しいというと、どんどんお札を刷ってしまう。

 昔はこういう風刺コメディが短篇SFの主流だったような気がしてならないのですが、近頃はあまり見掛けないようです。読んでいて懐かしい気分になりました。

 超能力テーマあるいはミュータントテーマの作品が、『信念』(アイザック・アシモフ)、『オッディとイド』(アルフレッド・ベスター)、『危険!幼児逃亡中』(C・L・コットレル)と三篇も収録されているのが目を引きます。

 ベスターとコットレルの作品は、いずれも強大すぎる超能力(確率操作能力、念動力)を持った子供が世界を危機に陥れるホラー的な色彩の強い短篇。ただし、いかにも映画的な展開のコットレル、絢爛たる文章の技で読者を幻惑するベスター、印象は全く異なります。

 それに対して、空中浮遊能力に目覚めてしまった科学者が、誰に相談しても信じてもらえず苦悩するのがアシモフの短篇。超能力で世界を破滅させればいいだけの子供たちと違って、大人は色々と大変なんですよ。

 また、『ランデブー』(ジョン・クリストファー)、『ふるさと遠く』(ウォルター・S・テヴィス)、『みにくい妹』(ジャン・ストラザー)という短いファンタジー作品が三篇収録されています。いずれも古典的なテーマを扱った作品で、ちゃんとオチがあるのでご安心。

 そして、表題作『冷たい方程式』(トム・ゴドウィン)。名前と大雑把なストーリーはほとんどの方がご存じのことでしょう。

 緊急航行中の小型宇宙船の中でパイロットが密航者を発見する。燃料はぎりぎり片道分しかなく、彼女の質量が加われば、惑星降下時に充分な減速が出来ず、宇宙船は墜落して二人とも死んでしまうだろう。そして積み荷である医薬品が届かなければ、植民者たちも疫病で全滅することになる。船外破棄しか選択肢はない。たとえその密航者が、兄に会いたい一心で乗り込んだ、けなげな若い娘であっても。

 科学と人間ドラマが不可分に結びついた見事な短篇で、SFの魅力の原点を再確認するような作品です。

 まあ、改めて読むと、かなり無理のある設定ではあります。そもそも安全係数とか全く無視した「ぎりぎり燃料搭載」という運用があまりにも非現実的すぎますが、万一の事故に備えて食料や飲料水や酸素ボンベなどがそれなりの量(むろん若い娘の体重分よりはるかに重い)が積み込まれていないはずはないだろう、とか、積み荷を梱包しているコンテナの質量はどうなの、とか、ツッコミの余地は大いに。

 しかし、読んで馬鹿馬鹿しく感じられないのは、もちろん作者の筆さばきの巧みさもありますが、まさにこの瞬間にも、経済学や政治力学における「冷たい方程式」によって、世界中で大勢の、本当に大勢の子供たちが無慈悲な死に追いやられている、という事実を知っているからではないでしょうか。

 というわけで、多くのSF読者にとって故郷のような50年代SF短篇を堪能できるアンソロジーです。SF入門用に、オールドSFファンの懐古心を満たすために、あるいは表題作のタイトルは知っているけど読んだことはない方や再読してみたい方などに、お勧めします。


[収録作]

『徘徊許可証』(ロバート・シェクリイ)
『ランデブー』(ジョン・クリストファー)
『ふるさと遠く』(ウォルター・S・テヴィス)
『信念』(アイザック・アシモフ)
『冷たい方程式』(トム・ゴドウィン)
『みにくい妹』(ジャン・ストラザー)
『オッディとイド』(アルフレッド・ベスター)
『危険!幼児逃亡中』(C・L・コットレル)
『ハウ=2』(クリフォード・D・シマック)


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『一一一一一』(福永信) [読書(小説・詩)]

 『コップとコッペパンとペン』、『アクロバット前夜90°』、『星座から見た地球』といった得体の知れない不可思議な作品で多くの読者を困惑させてきた福永信さんの最新長篇。単行本(河出書房新社)出版は2011年11月です。

 印象的な登場人物が提示され、その人となりやら抱えている事情やら動機が説明され、読者の感情移入を促しつつ、結末に向けてそれなりに論理的にストーリーが展開してゆく、というような常識を、てんで無視した破天荒な小説。というかそもそも福永信さんが書くものを小説に分類してよいのか、まずそこからして悩んでしまいます。

 最新作も、タイトルからして意味不明で困ってしまいますが、何といってもこの奥付が素晴らしい。

 [初出一覧]

  一二  「文藝」平成二二年春号 「一一一一三」を改題
  一二三 「文藝」平成二〇年秋号 「一一一一」を改題、改稿
  一    「文藝」平成二一年春号 「一一一一二」を改題、改稿
  一    同上
  一    同上
  二一  「すばる」平成二二年一月号 「・・・・」を改題

  ニ〇一一年一一月一一日 初版印刷
  ニ〇一一年一一月二一日 初版発行


 もしやこれこそが「作品」で、残りは長い長い前振りなのではあるまいか、そう思わせるだけの迫力。なお、引用にあたっては、原文の「同右」を「同上」と変更させて頂きました。

 さて、その本文ですが、大部分が二人の会話によって構成されています。

 話者の一方は「こういうことなのでしょう」と相手の事情を勝手にでっち上げ、それに対して相手は「ええ」とか「はい」とか「そのとおり」などと、肯定的な、あるいは投げやりな返事をします。

 それを受けて「しかし、実はこういうことになってしまった、そうではありませんか」とさらにいい加減なことを言い出し、それに対して相手は「じつは、そうなのです」とか「そうでしょうね」とか「おそらくは」とか、肯定的な、あるいは投げやりな返事をします。

 とりあえずの設定と、思いつきだけの展開が、誰も止めてくれないのでそのまま走り続け、ぐるぐる、ぐるぐる、回ってゆく作品。ときどき以前の展開に偶然を装ってつなげてみたり、読者が忘れた頃に同じ会話が繰り返されたり、読者も、ぐるぐる、ぐるぐる、目を回すことに。

 これを二〇〇ページ以上続けたものが、すなわち本書です。

 まるで執筆開始前の作家の脳内をそのまま文章化したような作品で、小説というよりメタ小説、というかプレ小説。

 文章自体は非常に読みやすく、どの部分をとってみても局所的にはまるで筋が通っているかのように、いやむしろベタな展開で分かりやすく、円城塔さんの作品が苦手な人でも大丈夫です。たぶん。

 と思ったら、帯に円城塔さんが推薦文を寄せておられました。「悔しい。」と。


タグ:福永信
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