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『SFマガジン2011年10月号 特集:SFスタンダード100ガイド PART II』(深堀骨) [読書(SF)]

 SFマガジンの2011年10月号は、「特集:SFスタンダード100ガイド PART II」および「ミリタリーSF特集」ということで、ジョン・G・ヘムリィ(ジャック・キャンベル)の短篇を掲載してくれました。また深堀骨の読み切り短篇も掲載されています。

 さて、まずはジョン・G・ヘムリィの『亀裂』です。ジョン・G・ヘムリィって誰だっけ? という方も、『彷徨える艦隊』シリーズの著者ジャック・キャンベルだといえばお馴染みかと思います。

 ある惑星で、原住民からの奇襲攻撃を受けて壊滅した人類の軍隊。生き残ったわずか数名の兵士たちが逃避行の末に辿り着いたのは、民間人と子供たちが取り残された居住区だった。

 彼らを守るべく、何の防衛設備もない建物を死守するはめになる兵士たち。敵は圧倒的な戦力で居住区を包囲しており、こちらの武器はライフルと拳銃のみ。数度に渡る攻撃で次々と死んでゆく兵士たち。だが、不思議なことに、原住民は彼らを一気に殲滅しようとはせず、攻撃と退却を繰り返し、無意味と思える犠牲を出している。

 彼らはなぜ一気にケリをつけてこないのか。そもそも、さほど攻撃的ではなく、これまで友好的だった彼らが、いきなり人類に猛攻撃を加えてきた理由は何か。彼らの動機を理解する以外に生き延びる術はない。だが残された時間はどんどん少なくなってゆく。最後の攻撃が迫っていた・・・。

 というわけで、まあネイティブアメリカンの大軍に包囲された牧場で決死のサバイバル戦という西部劇のパターンまんまのベタな話ではあります。SFとしての読み所は、異星人の宗教・神話を読み解くことで勝敗が決する、というか勝敗の意味が分かる、というプロットですが、私見ながら、さほど感心するような凄いアイデアとも思えず。まあ、アクション小説としてはけっこう楽しめました。

 さて、お待ちかね。『卵の私』(深堀骨)です。

 SFマガジン2010年10月号に『日本怪談全集』が掲載されて以来、約一年ぶりの深堀骨であります。『アマチャ・ズルチャ』の人。忘れた頃にSFマガジンにSFでも何でもない話が掲載され、SF読みを震撼させる人です。

 語り手は、卵。その「私」を構成している、殻、カラザ、黄身、白身という四人の(あるいは五人の)パーツが互いに「いがみ合っては仲直りし、癒着しては罵倒し合って」いる様が延々と書かれます。

 このまま卵内のいざこざが延々と書かれるのかと思ったら、後半になるやマクベスも真っ青の三悪婆が登場。卵を拉致して持ち帰り、「中国四阡年の血塗られた歴史を充血した秘伝のタレ」に漬けてしまう。はたして卵の運命やいかに?

 いかに、というか、何が何だか。いつものように語り口は落語のようで、奔放で、読者はまんまと弄ばれてしまいます。どこに転がるか分からない(卵だけに)話に懸命についてゆくうちに、とてつもない大嘘(最初からそうですが)に乗せられて、最後は大空に羽ばたいて世界の果てへ。そこには、シャッター商店街が。

 深堀骨のファンも、そうでない方も、はじめての方も、等しく途方に暮れさせる豪腕ここにあり。どこがSFやねん、というツッコミは無用。むしろ深堀骨に作品発表の機会を与えていることこそ日本SF界の存在意義であると断言しても、そこまで言うと過言ですが。

[掲載作]

『亀裂』(ジョン・G・ヘムリィ)
『卵の私』(深堀骨)


タグ:SFマガジン
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