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『日本を脱出する本』(安田修) [読書(教養)]

 「知識ゼロでも、この1冊で海外生活ができる!」
 短期滞在から永住まで、ケース毎に手続きや注意点を具体的に指南する海外移住者のためのマニュアル本。生活や仕事、医療、不動産購入、ありがちな詐欺まで情報満載。単行本(ダイヤモンド社)出版は2011年8月です。

 政治経済の閉塞感はもとより、社会の劣化、人心の荒廃、あまりの惨状に危機感つのらせてる方。将来を考えたとき、自分や子供の人生をこの島に預してよいのか悩んでいる方。どのように判断、対処するにせよ、とりあえず脱出路は確保しておきましょう。

 というわけで、日本脱出マニュアルです。予備知識のない読者を対象に、ケース別に海外移住の具体的方法と注意点を教えてくれる一冊。

 全体は6つの章に分かれています。

 まず「第1章 日本脱出は簡単にできる」は、海外移住についての概説です。海外移住に向いている人とそうでない人。移住先の選び方。必要な予算。査証・移民局・在外公館といった基礎知識。

 そして、一般永住権、就労査証、投資査証、特定永住権、リタイアメント査証、査証免除、観光査証、といった査証(ビザ)の種類ごとに分類整理した日本脱出チャートが付いています。全体の流れが一目で把握できて便利。

 この章では、「海外移住で得られるものは何か」という項目が印象的です。何しろ冒頭から「異常なストレスからの解放と幸せ感の追求」という回答。こういう感じで全体的に率直に書かれていて好感が持てます。

 「第2章 短期で海外移住する」では、とりあえず移住先の候補を選ぶ、試しに住んでみて自分との相性を確認する、本格的な移住に向けたリハーサル、などの目的で行う短期移住についての解説。

 観光査証による滞在、3カ月以内の短期移住、1年間の移住、それぞれについて具体的な手続きを説明します。「言葉の心配は不要」と断言してくれるのも嬉しい。まずは現地視察で、ここだっ、という候補地を決めておくだけでも、帰国後の生活が精神的に少し楽になるはず。

 「第3章 海外で働きながら移住する」では、海外で就職して生活費を稼ぐための方法が解説されます。法的制限、就労手続き、ワーキングホリデーなどの基礎知識。そして職業別の海外就職動向、日本にいながら海外の職探しをする方法、海外での起業、といった情報が続きます。

 就労査証詐欺、語学研修詐欺、面接詐欺など、不慣れな現地での就活不安につけこんだ典型的な悪徳商法についても教えてくれます。

 「第4章 永住権を取得する」では、日本国籍のまま現地に無期限に住むことができる永住権を獲得するための方法を解説します。一般永住権、公募永住権、特定永住権、投資永住権、婚姻永住権といった基礎知識から始まって、国別の永住権に関する規定を紹介。

 現地で結婚すれば永住権が手に入る、と気楽に考えている方。「もちろん国によって異なるが(中略)、男性と女性では、天と地ほどの大きな開きが出てくることを知っておいたほうがいいだろう」(単行本p.163-164)というわけで、特に男性は要注意。

 ここに登場する41歳女性のエピソードが素晴らしい。

 「独身である強みを生かして国際結婚という最後の手段にかけることにした。(中略)「なんとかなりました」というメールが届いたのが出発から約2カ月後のこと。メールを受け取ったほうがびっくりしてしまうほどの迅速さ。「どこで知り合ったの?」という問いかけに「到着した空港」と」(単行本p.164)

 「第5章 海外でリタイアメントする」では、退職者による海外移住を支えるリタイアメント移住制度についての解説。ここ、個人的に重要。

 基本的には現地における物価の安さを利用して年金を生活費にあてるわけですが、まだ年金がもらえない年齢であっても不動産を持っていればそれを賃貸に出して家賃で海外生活費をまかなう、あるいは海外で不動産を購入して日本と海外半々で生きる、など様々なケースがあることが分かります。

 そして国別のリタイアメント移住制度の比較がありがたい。個人的にはアジア圏でリタイアメント移住制度を実施している、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、台湾について、詳しい制度比較が役に立ちそうです。他に欧州、オセアニア、中米、南米、アフリカ、など地域別、国別の詳細が掲載されています。

 「第6章 海外生活で注意するポイント」では、不動産の購入、日本人学校、医療保険、医療水準、日本人コミュニティ、日本との連絡手段、送金システム、書類など、海外で長期生活するときに気をつけるべき点を解説。

 さらに付録として、海外ボランティア、運転免許、銀行口座開設、税金、イエローカード、税関申告、郵便、査証をはじめとする諸手続きについても簡単にまとめられています。

 全体を通読して感じるのは、とにかく移住先を選んで、そこに移住するためにしなければならないこと、そこでの生活手段を具体的に検討するだけで、たとえ実際に移住しないまでも、ずいぶん気が楽になりそうだということ。

 「日本脱出について、いろいろ迷ったり、悩んだりするときの一番の解決策は、「自分にとって一番重要なものは何か」「自分にとって一番の幸せとは何か」といった優先順位を考えること」(単行本p.45)

 「日本脱出を考え海外に目を向けるとき、誰もが自らの人生を振り返り、正面から自分自身を見つめ直したり真剣に向き合ったりする。このことから、たとえ脱出を実行しなくても、従来の生活とは異なる新たな希望や活力を見出す場合も多い」(単行本p.45)

 というわけで、海外移住に踏み切らないまでも、移住プランを具体的に検討してみることをお勧めします。それに、海外旅行に行くときも「これは観光ではなくて、移住の可能性を探る現地視察の旅」と思えば気合が入るというものです。


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