SSブログ

『日々のあれこれ 目白雑録4』(金井美恵子) [読書(随筆)]

 そのあまりに鋭い批評眼をもって世の中の変なあれこれを辛辣に語り倒す金井美恵子さんの最新痛烈エッセイ集。

 ワールドカップから月経に至るまで様々なテーマに沿って縦横無尽に斬る、というか皮肉る、というか酷評する、というか完膚無きまでに叩き潰す、トドメの一撃を喰らわす、一顧だにせず通り過ぎる、後からふと戻ってきて念のため踏みつけておく、そんな文章ぎっしり。単行本(朝日新聞出版)出版は2011年6月です。

 今巻には、2009年4月から2011年2月までの連載分が収録されています。ぎりぎり東日本大震災直前までですが、「あとがき」において「被害というようなものはありませんでした」とあるので一安心。

 もちろん金井美恵子さんですから、東日本大震災を語った他人の様々な言葉を引用した上で、「こうした熱烈な言説の、あふれた善意と興奮の液状化現象」(単行本p.273)と皮肉をいうのを忘れません。さらに安心感が募ります。

 サッカー、映画、煙草、病院、といった定番の話題。芸能人の覚醒剤事件、芥川賞選考委員による誤読事件、タイガーマスク現象、など時事ネタも多数。残念ながら猫の話題はほとんどありません。さらに「付録」として、連載以外の単発エッセイがいくつか収録されています。

 個人的に注目したのは、『乙女の密告』(赤染晶子)誤読事件の話題です。もっとも本文の大半は「アンネ=月経なのはなぜか問題」に費やされ、また読者からの反響もそこに集中。「アンネナプキンについては、それを使用していた世代の方たちから何通かの興味深く、いきいきした描写で語られた手紙をいただいた(中略)芥川賞とその選考の誤読についてはまったく無関心なのであった」(単行本p.203)

 いくつかの随筆は表題からして辛辣で、「「W杯日本惜敗」、でも、「日本中が一体感」」などとそれはもう嫌味たっぷり。

 強烈なルビ技も多くて、老婆心と書いて「むかつき」とルビをふったり、「乙女」と「月経」にどちらも「アンネ」とルビをふったり、「楽しい仕事」と書いて「ヒロポン」とルビをふったり。

 全体的に文学や映画に関する教養あふれる好エッセイ集ですが、特定個人に対する品のよい当てこすりや格調高い罵倒のレトリックを学ぶ教科書としても使えそうです。

 「鈍重な感性と悪い眼を持った、違いの分からない書き手というのは昔から存在していて、それもシナリオ・ライターという職業を持つ者に多いような気がしていたが」(単行本p.218)

 「自己愛の強い男の書き手特有の知ったかぶりを807字分開陳しつつ」(単行本p.221)

 うーん、実用性が高いですね。


タグ:金井美恵子
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: