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『テメレア戦記IV 象牙の帝国』(ナオミ・ノヴィク) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 19世紀初頭、ナポレオン戦争当時の欧州を舞台に、テメレアと名付けられた漆黒のドラゴンとその乗り手であるローレンスが活躍する人気シリーズ、『テメレア戦記』、その第4弾です。

 手堅い歴史小説に、「人類は何千年にも渡ってドラゴンを飼い馴らし空軍戦力として活用している」という魅力的な設定を持ち込んだ上で、もしも19世紀はじめに空軍が存在したとしたら、という点についてきちんと考察した知的なシミュレーション小説としても興味深く読めます。

 ナポレオンに空軍が与えられたら、どんな見事な戦略、素晴らしい戦術を見せてくれたでしょうか。大胆な空想と緻密な考察によって、まるで史実を読んでいるかのようなリアリティと説得力のある戦いが描かれます。

 「歴史小説+仮想戦記+ドラゴンファンタジー」という離れ業を軽々とやってのけた上に、単純に「テメレア可愛い!」とキャラ小説として読んでも充分に楽しめるという、お勧めのシリーズ。

 さて本書は、テメレア一行がようやく長い旅を終えて英国へ帰還するところから始まります。しかし、祖国は恐るべき災厄に襲われていました。仲間を救うため、テメレアたちは再び旅立つことになります。目的地はアフリカ。暗黒大陸の奥地で彼らを待ち受けていた試練とは。

 というわけで、今回はアフリカ探検もの。

 原住民との交渉、襲ってくる猛獣(ドラゴン含む)との戦闘、宝を発見したと思ったら未開部族に襲撃されたり、そんでもって捕まって捕虜になったり、決死の脱出作戦に挑んだり、ようやく植民地に戻ってきたら原住民による大規模攻撃、城砦に立てこもって敵ドラゴン部隊の猛攻に立ち向かうものの多勢に無勢、もはやここまでか、みたいな、お約束というか定番コースをきちんと辿りますので、安心してお読みください。

 退屈はしないのですが、やはり「今回はアフリカ探検で終わりかあ。早くナポレオン戦争に話を戻そうよ」などと思いつつ読み進めるわけですが。最後の方で、予想を超える驚くべき展開に。おおっ、そう来たかーっ。

 そして、「えっ、マジ? ここで切るの?」という悪逆非道な引きで終わり、もう続きが知りたくて知りたくて瀕死。シリーズ愛読者の方々には、本書だけは次巻が出てから読んだ方がいいかも知れません、でないと悶死しますよ、などと言いたい気もします。そんなこと言っても無駄でしょうけど。

 最初からずっと尾を引いていた奴隷貿易問題やドラゴン権利問題といったテーマがここに至って大きく浮上してくるのも魅力的だし、これまでの巻で密かに仕掛けられてきた伏線が次々と回収されてゆくのも素敵です。歴史改変も大胆になってきて、もはや「史実ではこうだから」という読みが効かなくなっています。

 というわけで、はたしてローレンスを待ち受けている運命は? ナポレオン戦争の行方は? そして純白のリエンvs漆黒のテメレアの確執はどうなるのか。早く次巻が出ますように。


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