『ロンリー・ハーツ・キラー』(星野智幸) [読書(小説・詩)]
シリーズ“星野智幸を読む!”、その第7回。今回は、無差別心中が流行し戦時下のような殺伐とした世相に覆われた閉塞社会をえがく長篇小説。単行本出版は2004年1月、私が読んだ文庫版(中央公論新社)は2007年4月に出版されています。
この国の象徴たる「オカミ」の崩御により、社会との関係性を見失った者たちが引きこもってしまう「カミ隠し」と呼ばれる現象が広まり、社会不安を引き起こしている。そんなとき、生きているという実感が得られず社会からの疎外感にさいなまれていた若者が、大陸から吹き寄せる黄砂の嵐のなか、この世の「真実」を幻視。そのことを手記にしたためネットにアップした直後、知人を殺害して自殺する。
彼の手記はネットに広まり、その「真実」に触れた者たちが次々と無理心中事件を引き起こす。さらには、無差別心中というか、誰でもいいから目についた相手を殺して直後に自殺するという、自爆テロのような事件が続出。
誰もがいつ殺されるか分からないという不安と恐怖のなかで、先制殺害こそ正当防衛だという世論が高まり、むしろ殺される方が自己責任、という風潮が世の中を覆ってゆく。
疑似家族的な共同体、天皇制と国体、草の根ファシズムの空気など、これまでの作品にも見られた要素を散りばめながら、社会からの疎外感が引き起こす暴力をえがいた長篇。現実の世相やら言説やらを連想させる描写が多く、読んでいてちょっと気が滅入ってきますが、これまでの作品に較べて小説として面白いのも確か。
ただ、私は最新作を先に読んでいたため、どうにも『俺俺』の原型に思えて仕方ありませんでした。
第一部の主人公など『俺俺』そっくりだし(社会性が低いフリーターの若者で、疎外感に苦しみ、カメラが唯一の趣味、など)、自画像が無限に増殖してゆく「合わせカメラ」のイメージも、そのまま『俺俺』につながります。
第二部に至って、社会が崩壊して(というか、おそらく社会性が欠如した語り手たちの世界観が投影されて)、他者への不信が肥大化して殺し合いが横行する戦場のような世の中になってゆく、という展開も同じです。
そういうわけで、私のように、話題作『俺俺』を読んで感心し、星野智幸さんの小説をもっと読んでみようと思った方は、とりあえず本作から入るのがよいかと思います。あるいはむしろ『俺俺』の前に本書を読んでおいた方がいいかも知れません。最初から最後まで若い男性の殺伐とした心象風景が続く『俺俺』に較べて、若い女性が語り手となるパートが長い本書のほうが、イライラ感は若干少なめですし。
この国の象徴たる「オカミ」の崩御により、社会との関係性を見失った者たちが引きこもってしまう「カミ隠し」と呼ばれる現象が広まり、社会不安を引き起こしている。そんなとき、生きているという実感が得られず社会からの疎外感にさいなまれていた若者が、大陸から吹き寄せる黄砂の嵐のなか、この世の「真実」を幻視。そのことを手記にしたためネットにアップした直後、知人を殺害して自殺する。
彼の手記はネットに広まり、その「真実」に触れた者たちが次々と無理心中事件を引き起こす。さらには、無差別心中というか、誰でもいいから目についた相手を殺して直後に自殺するという、自爆テロのような事件が続出。
誰もがいつ殺されるか分からないという不安と恐怖のなかで、先制殺害こそ正当防衛だという世論が高まり、むしろ殺される方が自己責任、という風潮が世の中を覆ってゆく。
疑似家族的な共同体、天皇制と国体、草の根ファシズムの空気など、これまでの作品にも見られた要素を散りばめながら、社会からの疎外感が引き起こす暴力をえがいた長篇。現実の世相やら言説やらを連想させる描写が多く、読んでいてちょっと気が滅入ってきますが、これまでの作品に較べて小説として面白いのも確か。
ただ、私は最新作を先に読んでいたため、どうにも『俺俺』の原型に思えて仕方ありませんでした。
第一部の主人公など『俺俺』そっくりだし(社会性が低いフリーターの若者で、疎外感に苦しみ、カメラが唯一の趣味、など)、自画像が無限に増殖してゆく「合わせカメラ」のイメージも、そのまま『俺俺』につながります。
第二部に至って、社会が崩壊して(というか、おそらく社会性が欠如した語り手たちの世界観が投影されて)、他者への不信が肥大化して殺し合いが横行する戦場のような世の中になってゆく、という展開も同じです。
そういうわけで、私のように、話題作『俺俺』を読んで感心し、星野智幸さんの小説をもっと読んでみようと思った方は、とりあえず本作から入るのがよいかと思います。あるいはむしろ『俺俺』の前に本書を読んでおいた方がいいかも知れません。最初から最後まで若い男性の殺伐とした心象風景が続く『俺俺』に較べて、若い女性が語り手となるパートが長い本書のほうが、イライラ感は若干少なめですし。
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