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『かめ探偵K』(北野勇作) [読書(SF)]

 人類が滅びてしまった後の世界(たぶん)で次々と起きる怪事件。さっそうと登場するのは、われらが、かめ探偵K。朝は亀体操、昼は甲羅干し、そして夕方には銭湯に。身体を温めるのは爬虫類の基本です。日本人として初のフィリップ・K・ディック賞審査員特別亀賞が期待される「いつもの北野勇作」SF最新作。文庫版(アスキー・メディアワークス)出版は2011年5月。

 先日までねじまきねじまき言ってた知人たち、早くも次の話題は『かめ探偵K』。私が読んでないと知るや、「本格SFだった」、「本格ミステリだった」、「ロボット刑事Kよりも社会派だった」、「かめくんがしゃべった」、などと口々に自慢するので、やたらと悔しい。

 あまりの悔しさに配偶者にぶつくさ言っていたら、「四の五の言わずに読めばいいでしょう」と、しごくまっとうな指摘を受けたので、それもそうだと思い、すぐに買って読んでみました。

 面白かった。あっという間に読み終えてしまいました。

 かめ探偵Kが難事件を解決する、というストーリーは確かにそうなんですが、本格ミステリとは言い難いものがあります。ジャンルとしてはSF、それも「いつもの北野勇作」というサブジャンルに属する作品といえるでしょう。ちなみに配偶者には「作者の娘さんと飼い亀の様子をありのままにえがいた自然主義リアリズム文学だった」と報告しておきました。

 さて、本書でかめ探偵Kが解決するのは二つの難事件。というか解決したわけじゃないんですけど。それをいうなら、そもそも事件でもないんですけど。まあ、細かいことはいいじゃありませんか。亀SFだし。背景世界も亀々しいし。

 さて、皆さんが異口同音におっしゃっていたように、かめくんがしゃべった、というのが何といっても衝撃的です。これ、最初は叙述トリックか何かかと思って読みましたよ。そうしたら、後半になって、かめ探偵Kを主役としたドキュメンタリー番組を撮るというエピソードが出てきて、ああ、なるほど、納得しましたね。

 つまり本書全体が、完成したドキュメンタリー番組を文字におこしたもので、かめ探偵Kのセリフは声優さんが吹き替えている、という設定なんだな、と。

 全然、違いましたけど。

 そういうわけで、たいそう紹介しにくい作品なので、結論だけ申し上げますと、まず亀SFが好きな方には絶対にお勧めです。あとは、「いつもの北野勇作」の愛読者、のんびりほんわかちょっぴりペーソスみたいな雰囲気の小説を好む方、のんびりほんわかちょっぴりペーソスな雰囲気に見せかけてけっこうおっそろしいことをさらりと書いた小説を好む方、あと自然主義リアリズム文学の信奉者にも、お勧めです。


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