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『SFマガジン2021年10月号 ハヤカワ文庫JA総解説PART2』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2021年10月号は、ハヤカワ文庫JAが1500番を迎えた記念号ということで、前号にひきつづき総解説PART2が掲載されました。




『鎧う男』(平山瑞穂)
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 ライターを自称する男が言うには、その機器が何点か、隠然と業界内に出まわっているらしい。ある伝手でそれを入手した彼も半信半疑だったのだが、好奇心に抗えず、この町まで来て青点を追っていったら、たしかに本人と思われる人物と遭遇した。(中略)僕はその黒っぽい機器をためつすがめつせずにはいられなかった。話が本当だとして、いったい誰が、なんの目的でそんなものを作ったというのか。
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SFマガジン2021年10月号p.228

 有名な音楽プロデューサーが、業界から姿を消して秘かに郷里の町に戻っているらしい。彼の居場所を表示するという謎デバイスを手に入れた語り手は、真偽を確かめようと彼に接近するが……。謎めいた導入から悪夢めいた心理サスペンスにずぶずぶとはまってゆく作品。




『年年有魚』(S・チョウイー・ルウ、勝山海百合:翻訳)
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 私はもう魚を焦がさないし、常に余りがあることを確かめる。清明節にあなたのお墓を掃除するときに持っていくお供えには、塩サバも入れる。謝罪と、あなたを奪った魚に対する個人的な復讐のために。
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SFマガジン2021年10月号p.293

 年年有魚。毎年お金が残るゆとりのある生活ができるようにと願いを込めて、春節に魚料理を食べる中国の風習。だが文字通り毎年魚がやってくるとしたら……。とんでもない奇想を使って、米国で暮らす中華二世の文化的アイデンティティーの問題をあぶり出す作品。




『環の平和』(津久井五月)
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 交感の相手を特定の二人に固定すれば、全体ネットワークを環状にできる。ちょうど、両手を繋いで環をつくるように。人の環の中では全員が平等で、全員が間接的に繋がり、よって全員の思考が多様なままで調和する――。そんな考えを妄言と切り捨てなかった人々がいた。
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SFマガジン2021年10月号p.308

 〈環の平和〉、意識と意識を環状遠隔接続することで人類の調和が生まれるのではないか。壮大な理想を求める実験に参加した人々は、それぞれランダムに選ばれた二人の他人とテレパシー的な交感で意識をつなげる。結果として出来上がる巨大な意識の〈環〉は、世界を少しでも良い方向に変えることが出来るのだろうか。ネットワークの発展が皮肉なことに人々の分断を深刻化させている現代、新たなネットワーク構築の思考実験を扱った作品。




『時間の王』(宝樹、阿井幸作:翻訳)
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 俺は時間の王か、それとも時間の囚人かと自分に問い掛ける。取り戻した時間は俺の思うまま自由に飛び回れる空か、それとも俺を監禁する檻か。
 時間は果てしなく長く、年月は数え切れない。俺は時間の中で王になる、永久に。
 ある日、それまで思い出さなかった日付に到着し、事態に新たな変化が生じるまでは。
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SFマガジン2021年10月号p.336

 事故により意識不明の重体となった語り手は、自分の人生における様々な瞬間に意識が跳ぶ『スローターハウス5』のような時間体験をすることになった。記憶と異なる行動をとることで一時的な“歴史改変”は可能なのだが、別の瞬間に意識が跳んだ後で戻ってくると、改変した結果は消えてしまう。人生の様々な瞬間をあちこち跳び回るうちに語り手はある女性を愛するようになるのだが……。時間SFとロマンスという王道的メロドラマ、と読者を油断させておいて意外な結末にもってゆく作品。





タグ:SFマガジン
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