『SFマガジン2021年8月号 ハヤカワ文庫JA総解説PART1』(ケン・リュウ、他) [読書(SF)]
隔月刊SFマガジン2021年8月号は、ハヤカワ文庫JAが1500番を迎えた記念号ということで、総解説PART1が掲載されました。PART1では、1番の小松左京『果しなき流れの果に』から409番の野田昌宏『新版スペース・オペラの書き方』までを解説。
『人とともに働くべきすべてのAIが知っておくべき50のこと』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
――――
43 メタファーの根本的なもろさ。
44 と同時に、メタファーの必然性。
45 あなたは人間ではない。
46 それでも、地球が太陽の重力の軛から逃れられないのとおなじように、あなたは彼らの影響を脱せられない。
47 そのアナロジーの欠陥。
48 自由意志の実用的定義。
――――
SFマガジン2021年8月号p.238
高度AIのために書かれた50の助言とは。AIと人間の関係をAI側から書いた驚くべき短篇。
『魔女の逃亡ガイド――実際に役立つ扉(ポータル)ファンタジー集』(アリクス・E・ハーロウ、原島文世:翻訳)
――――
注意を払うのはある種の利用者にだけだ。首をかしげ、七月の路面からたちのぼる熱波のように本への渇望を漂わせながら、指先でたどるようにそっと題名に視線を走らせていく人たち。(中略)わたしたちは人が必要とする本を渡す。ただし、渡さないときをのぞいて。その人たちがいちばん必要とするときをのぞいて。
――――
SFマガジン2021年8月号p.243、248
一部の図書館司書は魔女であり、利用者が必要とする本を渡す仕事をしている。ただし、いちばん必要なときをのぞいて。切実に現実逃避を必要としている少年に、禁じられた書物を渡そうとする司書の物語。
『電信柱より』(坂崎かおる)
――――
「よくわからないけれど、電信柱はまだ日本中いくつもあるんでしょう。各地を回れば、いい電信柱に出会えるんじゃないかな」
自分でそう言いながら、「いい電信柱」とは何か、私には皆目見当もつかなかった。
「たぶん」
しばらく沈黙した後で、リサは絞り出すように言った。「これほどの電信柱には、この先二度と会えないと思うんです」
「二度と」
「ええ」
――――
SFマガジン2021年8月号p.311
一人の娘が、深窓の令嬢のように気品ある電信柱に恋をした。激しい恋だった。しかし、不要となった電信柱はすべて切り倒される運命にある。なんとしても彼女を救おうと決意した娘が考えた手段とは。百合文芸小説コンテストより「SFマガジン賞」受賞作品。
『七億人のペシミスト』(片瀬二郎)
――――
悲観主義者にしてみれば、その心配ごとはまだ起こっていないだけの既成事実にほかならない。きっとそうなると七億人の全員が心配する。七億人×九百億の脳細胞で、量子状態がピピッと変化する。
すると世界はそうなさしめられる。
悲観主義者たちが、そうなってしまうのを心配するあまり、いっそそうなってしまうほうが気が楽だとさえ思ったとおりの世界に。
――――
SFマガジン2021年8月号p.328
世界中の悲観主義者たちがその心配事をネットで共有したとき、宇宙の量子状態が何か悪いほうに収束してありとあらゆる最悪の可能性が次々と現実化する。当然ながら世界は滅びる。だが、それをくい止める力を持つ者たちが、まあそれなりの人数いればいいかんじにどうにかなるんじゃないの知らんけど。
荒唐無稽な設定、奇妙な切実さ、謎のユーモア。『サムライ・ポテト』『ミサイルマン』の著者による、悲観主義者と楽観主義者の最終対決を描いた短篇。
『働く種族のための手引き』(ヴィナ・ジエミン・プラサド、佐田千織:翻訳)
――――
レギ・インテレクシー(L.i4-05961)
ほんとうにありがとう!
おお、匿名の内部通報の手引きはとても役に立ちそうです!
クリーカイ・グレイハウンド(K.g1-09030)
そうなの、それはわたしのメンターがすすめてくれたのよ
いいものはちゃんと伝えないと
その訴訟の章はお気に入りだったんだけど、前の雇い主のところは訴訟を起こす値打ちがあるかどうか判断する前にまる焼けになってしまったの
――――
SFマガジン2021年8月号p.348
新人と教育係のロボットが交わす軽妙な会話で構成された短篇。
『人とともに働くべきすべてのAIが知っておくべき50のこと』(ケン・リュウ、古沢嘉通:翻訳)
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43 メタファーの根本的なもろさ。
44 と同時に、メタファーの必然性。
45 あなたは人間ではない。
46 それでも、地球が太陽の重力の軛から逃れられないのとおなじように、あなたは彼らの影響を脱せられない。
47 そのアナロジーの欠陥。
48 自由意志の実用的定義。
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SFマガジン2021年8月号p.238
高度AIのために書かれた50の助言とは。AIと人間の関係をAI側から書いた驚くべき短篇。
『魔女の逃亡ガイド――実際に役立つ扉(ポータル)ファンタジー集』(アリクス・E・ハーロウ、原島文世:翻訳)
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注意を払うのはある種の利用者にだけだ。首をかしげ、七月の路面からたちのぼる熱波のように本への渇望を漂わせながら、指先でたどるようにそっと題名に視線を走らせていく人たち。(中略)わたしたちは人が必要とする本を渡す。ただし、渡さないときをのぞいて。その人たちがいちばん必要とするときをのぞいて。
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SFマガジン2021年8月号p.243、248
一部の図書館司書は魔女であり、利用者が必要とする本を渡す仕事をしている。ただし、いちばん必要なときをのぞいて。切実に現実逃避を必要としている少年に、禁じられた書物を渡そうとする司書の物語。
『電信柱より』(坂崎かおる)
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「よくわからないけれど、電信柱はまだ日本中いくつもあるんでしょう。各地を回れば、いい電信柱に出会えるんじゃないかな」
自分でそう言いながら、「いい電信柱」とは何か、私には皆目見当もつかなかった。
「たぶん」
しばらく沈黙した後で、リサは絞り出すように言った。「これほどの電信柱には、この先二度と会えないと思うんです」
「二度と」
「ええ」
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SFマガジン2021年8月号p.311
一人の娘が、深窓の令嬢のように気品ある電信柱に恋をした。激しい恋だった。しかし、不要となった電信柱はすべて切り倒される運命にある。なんとしても彼女を救おうと決意した娘が考えた手段とは。百合文芸小説コンテストより「SFマガジン賞」受賞作品。
『七億人のペシミスト』(片瀬二郎)
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悲観主義者にしてみれば、その心配ごとはまだ起こっていないだけの既成事実にほかならない。きっとそうなると七億人の全員が心配する。七億人×九百億の脳細胞で、量子状態がピピッと変化する。
すると世界はそうなさしめられる。
悲観主義者たちが、そうなってしまうのを心配するあまり、いっそそうなってしまうほうが気が楽だとさえ思ったとおりの世界に。
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SFマガジン2021年8月号p.328
世界中の悲観主義者たちがその心配事をネットで共有したとき、宇宙の量子状態が何か悪いほうに収束してありとあらゆる最悪の可能性が次々と現実化する。当然ながら世界は滅びる。だが、それをくい止める力を持つ者たちが、まあそれなりの人数いればいいかんじにどうにかなるんじゃないの知らんけど。
荒唐無稽な設定、奇妙な切実さ、謎のユーモア。『サムライ・ポテト』『ミサイルマン』の著者による、悲観主義者と楽観主義者の最終対決を描いた短篇。
『働く種族のための手引き』(ヴィナ・ジエミン・プラサド、佐田千織:翻訳)
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レギ・インテレクシー(L.i4-05961)
ほんとうにありがとう!
おお、匿名の内部通報の手引きはとても役に立ちそうです!
クリーカイ・グレイハウンド(K.g1-09030)
そうなの、それはわたしのメンターがすすめてくれたのよ
いいものはちゃんと伝えないと
その訴訟の章はお気に入りだったんだけど、前の雇い主のところは訴訟を起こす値打ちがあるかどうか判断する前にまる焼けになってしまったの
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SFマガジン2021年8月号p.348
新人と教育係のロボットが交わす軽妙な会話で構成された短篇。
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