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『裏世界ピクニック6 Tは寺生まれのT』(宮澤伊織) [読書(SF)]

―――
「……私、いま発狂してた?」
「ちょっとね」
「ごめん」
「いいよ」
「予備動作なしで発狂しないでくれないか、ビビるから……」
 小桜が震え声で言って、胸を撫で下ろした。
「すみません……。でも、いま私なんで狂ったんだろ」
「そんな疑問文生まれて初めて聞いたわ」
――――


 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知をこえる超常現象や危険な存在、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第6巻。文庫版(早川書房)出版は2021年3月、Kindle版配信は2021年3月です。

 タイトルからも分かる通りストルガツキーの名作『路傍のピクニック』をベースに、ゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』の要素を取り込み、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。

 もともとSFマガジンに連載されたコンタクトテーマSFだったのが、コミック化に伴って「異世界百合ホラー」と称され、やがて「百合ホラー」となり、「百合」となって、ついには故郷たるSFマガジンが「百合特集」を組むことになり、それがまた予約殺到で在庫全滅、発売前なのに版元が緊急重版に踏み切るという事態に陥り、さらにはTVアニメ化され、ジュニア版が出版され、あまりのことに調子に乗ったSFマガジンが再び百合特集を組んだら発売前にまたもや緊急重版。もうストルガツキーやタルコフスキーのことは誰も気にしない。

 ファーストシーズンの4話は前述の通りSFマガジンに連載された後に文庫版第1巻としてまとめられましたが、セカンドシーズンは各話ごとに電子書籍として配信。ファイル5から8は文庫版第2巻、ファイル9から11は文庫版第3巻に収録されています。その後もファイル12から15を書き下ろしで収録した文庫版第4巻が2019年末に出版され、2020年末にも無事に第5巻が出版されました。年末には裏世界が出るという新たなにっぽんの風物詩。既刊の紹介はこちら。


2017年03月23日の日記
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-03-23

2017年11月30日の日記
『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-11-30

2018年12月17日の日記
『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-12-17

2019年12月26日の日記
『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2019-12-26

2020年12月22日の日記
『裏世界ピクニック5 八尺様リバイバル』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2020-12-22


 そして「年末新刊」というスケジュールを外してきた(おそらくTVアニメ放映中に新刊を出す必要があったと思われ)のがファイル20を収録した第6巻です。レギュラー総出演で最強の敵と戦うという、著者いわく「劇場版」、シリーズ初の長編です。


[収録作品]

『ファイル20 Tは寺生まれのT』


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 私の名前は、紙越空魚。埼玉に住む、ごく普通の大学生だ。
 そのはず、だったんだけど。
 いったい私、どうなっちゃうの……?
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――――
「問診したところ、ここにいる全員の記憶もないし、DS研の存在自体も忘れ、UBLに関連することは何も憶えていないようだった。しかし、大学や日々の生活については特に問題なく記憶している。部分的な健忘──というより、恣意的と言ってもいいくらいだ」
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――――
「真面目に考えろよ。明らかに、ただ頭打って記憶が飛んだとかじゃないからな。右目が……不活性化したとでもいうか。そんなの今まで見たこともない。何か裏世界に関係する、深刻な出来事が起こったんだ」
――――


――――
「聞いて。空魚はいま、正常な状態じゃない。記憶喪失になってるんだと思う」
「きおく、そうしつ……」
「私、空魚の敵じゃないから。信じて」
「じゃあ、あなたは……何?」
「え?」
「敵じゃないなら、あなたは私の、何なの?」
――――


――――
 今も現在進行形で、〈寺生まれのTさん〉という怪談の姿を借りた裏世界の“現象”に遭遇し続けているんだと思う。 今起こっている、この一連の出来事そのものが、人間の怪談の形式に沿った 裏世界との接近遭遇事例であり、それを認識している私への、裏世界からのアプローチなんだ。
――――


――――
 あいつの正体がなんであったにしても、一つ確実なこと。〈寺生まれのTさん〉は、私の敵だ。
――――


 やっぱり寺生まれはすごい。空魚たちの前に現れた、あらゆる怪談実話を一喝で粉砕してしまう最強の男、Tさん。

 他人を発狂させる邪眼、パートナーとの後ろ暗い共犯関係、裏世界やDS研とのヤバいつながり。そういった自らの大切なアイデンティティ(それでいいのか?)を守るために戦う決意を固める空魚。

 だが先手を打ってきたTの御祓いにより壊滅的打撃を受けるDS研。<目>、<手>、そして<声>。もちろん最後は拳。パーティを組んでそれぞれのスキルを駆使して反撃に出る、それと巻き込まれて泣きべそかいたりする、レギュラーキャラクターたち。死闘の果てに、えっ、もしかして本来のコンタクトテーマSFに回帰しちゃったりするの?





タグ:宮澤伊織
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