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『それはあくまで偶然です 運と迷信の統計学』(ジェフリー・S・ローゼンタール、石田 基広:監修、柴田裕之:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 統計学は素晴らしく、役に立ち、重要で、発展中の領域だ。ただし、一つだけ小さな問題がある。誰もが大嫌いなのだ。(中略)何をしているのか訊かれると、今度は、統計学者です、と答えるようになった。すると、いちばん一般的な反応は何だったか? 「統計の授業はほんとうに大嫌いでした」だった。そうなのだ。そんなことがありうるとは思えなかったけれど、ほとんどの人は、数学が大嫌いなばかりか、それに輪をかけて統計学が嫌いなのだ。(中略)
 けれど、それは残念な話だ。なぜなら、統計学は本来、たった一つの単純で直感的で重要な疑問、すなわち、それはただの運なのか、という疑問についての学問なのだから。
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単行本p.174


 珍しいと思える出来事が起きたとき、それは何らかの魔法的な力が働いた証拠なのだろうか、それとも単なる偶然なのか。それを見分けるのが統計学だ。運命の出会い、奇跡の出来事、カルマ、超能力、ジンクス、運に関する超自然的な説明を統計学でばっさばっさ斬ってゆくサイエンス本。単行本(早川書房)出版は2021年1月、Kindle版配信は2021年1月です。


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 何が原因で何が起こり、何が何も引き起こさなかったかという観点から、私がこの世界を論理的に解明しようとするときにはいつでも、私は世の中をつまらなくしていると苦情を言う人が必ずいる。
「あなたは、せっかくの楽しみに水を差しているのではないですか?」と彼らは尋ねる。
 彼らは、熱心に願えば、宝くじのジャックポットを勝ち取る助けになることを期待しているのに対して、私は無情な統計学を使って、宝くじで大当たりするよりも宝くじ券を買いに行く途中で死ぬ可能性のほうが高いなどと言う。彼らは完璧な人生の伴侶を見つけるのを「運命」が助けてくれると想像するのに対して、私は思いがけず誰かに出会う確率を冷徹に計算する。彼らは魔法のような力が自分の宿命をコントロールしていると空想するのに対して、私は人の人生は無情な自然の物理法則によって支配されていると言い張る。「それだけのことでしかないのですか?」と彼らは問う。(中略)
 これにはがっかりする人が多いことは承知している。けれど、落胆するべきではないと思う。私たちが暮らす世界は、たとえ超自然的現象が一つもないとしてもなお、すでに喜びと驚異的なもので満ちあふれていると思う。
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単行本p.386、387


〔目次〕

第1章 あなたは運を信じていますか?
第2章 ラッキーな話
第3章 運の力
第4章 私が生まれた日
第5章 私たちは魔法好き
第6章 射撃手の運の罠
第7章 運にまつわる話、再び
第8章 ラッキーなニュース
第9章 この上ない類似
第10章 ここらでちょっとひと休み──幽霊屋敷の事件
第11章 運に守られて
第12章 統計学の運
第13章 繰り返される運
第14章 くじ運
第15章 ラッキーな私
第16章 ラッキーなスポーツ
第17章 ラッキーな世論調査
第18章 ここらでちょっとひと休み──ラッキーなことわざ
第19章 正義の運
第20章 占星術の運
第21章 精神は物質に優る?
第22章 運の支配者
第23章 ラッキーな考察




第1章 あなたは運を信じていますか?
第2章 ラッキーな話
第3章 運の力
第4章 私が生まれた日
第5章 私たちは魔法好き
第6章 射撃手の運の罠
第7章 運にまつわる話、再び
第8章 ラッキーなニュース
第9章 この上ない類似
第10章 ここらでちょっとひと休み──幽霊屋敷の事件
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 投票の前日、同僚の政治学者にそそのかされて、この選挙に少額の賭けをした。もしクリントンが買ったら私が一ドル払い、もしトランプが勝ったら彼が私に二ドル払うというものだった。じつは私は、クリントンにはトランプの二倍以上の勝ち目があると踏んでいたけれど、面白そうだからというだけの理由で、その賭けをすることにした。だから、トランプが当選したとき、この結果にはがっかりだったものの、少なくとも同僚の鼻を明かして二ドル勝ったと、自分を慰めた。
 その後、なんともおかしなことが起こった。奇妙な、不快な気分になってきたのだ。その晩、眠りに落ちるときに、ひょっとしたらトランプが選挙で勝ったのは、私が彼の勝ちに賭けたからかもしれないと、知らず知らずのうちに恐れていた。私がトランプ政権の誕生を招いてしまったのかもしれない!(中略)私の馬鹿らしい賭けがどういうわけかあの驚愕の選挙結果の説明になると信じたい気持ちが、どこか私の中にあったようだ。何たる狂気。
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単行本p.73


 統計学を駆使して「それはあくまで偶然です」と説明しても、人は超自然的な原因を信じることを止めない。私たちは魔法が大好きなのだ。運に関する人間の思い込みのパターンと、そのような思い込みを招く典型的な統計学上の罠について解説します。




第11章 運に守られて
第12章 統計学の運
第13章 繰り返される運
第14章 くじ運
第15章 ラッキーな私
第16章 ラッキーなスポーツ
第17章 ラッキーな世論調査
第18章 ここらでちょっとひと休み──ラッキーなことわざ
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 私はすでに、これまでに受けてきた宝くじの確率にまつわる多くの疑問や、ジャックポットを勝ち取る可能性がとても低いこと、あれこれ違う数を選んでも勝ち目を増やせないこと、自分の可能性を高めるというさまざまな「システム」がじつは効果がないことなどを説明した。正直に言うと、途中でそうした説明に、少しうんざりしてきた。
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単行本p.224

 統計学の基本的概念を説明し、続いて統計学の威力が大いに発揮される分野、すなわち宝くじ、スポーツ、世論調査、における一般的な思い込みを覆してゆきます。




第19章 正義の運
第20章 占星術の運
第21章 精神は物質に優る?
第22章 運の支配者
第23章 ラッキーな考察
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 並外れた偶然の一致や幸運のお守り、魔法のような影響、神の介入といった奇妙で驚くべき話はどうなのか? 私はそれらが、運の罠や選択的観察、科学的原因、人間の思考で、すべて――そう、すべて――説明できると、心から信じている。これはあまり神秘的な見方ではないけれど、それでも、私たちの世界の運を先覚に要約している。それを承知したうえでなお、私たちはこの世界をありのままに受け入れ、喜びや幸せや成功を見つけられると、私は自信を持っている。
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単行本p.381


 裁判で取り上げられる証拠、占星術の有効性、超能力が存在する証拠、そういったものは本当なのだろうか。並外れた偶然の一致や珍しい出来事が生ずる確率を統計学によって分析してみると、あまり神秘的でない結論が出てくる。統計学は世の中を、凡庸でつまらない、退屈な場所にするための学問なのだろうか。運と思い込み、あるいはその否定が、私たちの世界観、宗教観に与えるものを考察します。





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