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『幻のアフリカ納豆を追え! そして現れた<サピエンス納豆>』(高野秀行) [読書(随筆)]

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 バオバブでアフリカ納豆が作られている!?
 脳天を打たれたような衝撃だった。(中略)
 なんだか三十年前、初めてコンゴの謎の怪獣モケーレ・ムベムベのことを知ったときのような気持ちになった。ムベムベは現地の人のみならず調査に行ったアメリカ人の科学者までが目撃を報告していた。でもムベムベは体長が五~十メートルにも達すると言われる巨大生物だという。もし実在するなら、もっと多くの人の目に留まっているはずだし、とっくに発見されているはずだという反論ももっともだった。
 私はムベムベの存在をむやみに信じていたわけではなく(もちろん自分が「発見」できたら理想的ではあったが)、むしろ「本当のことを知りたい」と思ってコンゴの密林へ出かけたのだ。
 バオバブ納豆はそのときの感覚を思い出させる。
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単行本p.230、231


「納豆は私が思っているより、もっと広く深く、この世界を支配しているようなのだ」(「プロローグ」より)


 アジア納豆を取材した著者が次に目をつけたのは、アフリカ納豆だった。アフリカ大陸に世界一の納豆大国がある? ハイビスカスやバオバブから納豆を作っている? さらには韓国では立入禁止の南北軍事境界線DMZ内で納豆のもとを栽培している? 次々と集まってくる怪情報に奮い立つ著者。そして納豆取材から見えてきた驚くべきビジョン。失われた納豆超大陸、そして超古代納豆文明の存在。単行本(新潮社)出版は2020年8月、Kindle版配信は2020年9月です。


 タイトルからも分かる通り、『幻獣ムベンベを追え』と『謎のアジア納豆』の続編的な一冊です。未知の納豆を求めてアフリカ大陸に向かう著者。その先に待ち構えているものとは!(いや納豆ですが)。


2008年01月16日の日記
『幻獣ムベンベを追え』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2008-01-16

2016年08月30日の日記
『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2016-08-30


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 アフリカにおける納豆は他のどこよりも秘密のベールに閉ざされている。まずアフリカ納豆(仮)の日本語での情報は乏しい。一つには西アフリカが日本人にとってあまりにも遠く、日本語の情報が全般的にひじょうに少ないこと。(中略)
 やはりこれは一度自分で現地へ行かねば始まらないと思う。ただ、そこにはまた別の大きな障害があった。
「アフリカ納豆(仮)」のエリアは、なぜかイスラム過激派が活性化している地域と重なっているのだ。
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単行本p.15、16


〔目次〕

第1章 謎のアフリカ納豆
 カノ/ナイジェリア
第2章 アフリカ美食大国の納豆
 ジガンショール/セネガル
第3章 韓国のカオス納豆チョングッチャン/DMZ(非武装地帯)篇
 パジュ/韓国
第4章 韓国のカオス納豆チョングッチャン/隠れキリシタン篇
 スンチャン郡~ワンジュ郡/韓国
第5章 アフリカ納豆炊き込み飯
 ワガドゥグ~コムシルガ/ブルキナファソ
第6章 キャバレーでシャンパンとハイビスカス納豆
 バム県/ブルキナファソ
第7章 幻のバオバブ納豆を追え
 ガンズルグ県/ブルキナファソ
第8章 納豆菌ワールドカップ
 東京都新宿区
第9章 納豆の正体とは何か
エピローグ そして現れたサピエンス納豆




第1章 謎のアフリカ納豆
第2章 アフリカ美食大国の納豆
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 なんと! セネガルはナイジェリアから優に三千キロ離れている西アフリカの西の端。そんな土地でアフリカ納豆(仮)が食されていることも驚きだったが、名前がネテトウ?
 日本語そっくりじゃないか。納豆の語源はセネガルだったのか!!
 ……まあ、そんなわけはないと思うが、迷ったら面白そうな方向に進むのが私の流儀だ。
 かくして、私たちアフリカ納豆探検隊はナイジェリア取材のあと、「納豆」の類似商品じみた謎の「ネテトウ」の正体を突き止めるべく、セネガルの首都ダカールへ飛んだ。
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単行本p.61

 パルキア豆を使ったアフリカ納豆、ナイジェリアの“ダワダワ”やセネガルの“ネテトウ”を取材した著者は、アフリカにおける納豆文化の豊かさに驚く。というより質・量ともにアジアを抜いてアフリカこそが世界納豆文化の頂点にあることを発見する。


第3章 韓国のカオス納豆チョングッチャン/DMZ(非武装地帯)篇
第4章 韓国のカオス納豆チョングッチャン/隠れキリシタン篇
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 日本では38度線といえば、北朝鮮軍と韓国軍がにらみ合い、とくに私が取材に行っていた2016~18年ごろは北朝鮮の核開発やミサイル実験などから、一触即発の危険地帯のように思われていた。私もそう思っていたのだが、いま韓国ではDMZ内で自然観光ツアーが催され、野生のカワウソやワシが見られるとか、「星がきれい」などと若い女子の間でも人気だという。「大自然が残された韓国最後の楽園」的なイメージらしい。そして、その大豆を使っているからこそ、パジュに韓国納豆汁の有名店が存在する……。
 なんという皮肉。なんという不可思議な現実。納豆を追っていくといつも不思議な場所にたどりついてしまうが、今回はまた特別である。
 しかし、DMZで農作業なんかしていいのだろうか。
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単行本p.121

 謎の納豆はアフリカ納豆だけではない。韓国における“チョングッチャン”は果たして日本の納豆と同じものなのか。取材のため僻地の隠れキリシタンの里から南北軍事境界DMZ(非武装地帯)までどんどん踏み込んでゆく。


第5章 アフリカ納豆炊き込み飯
第6章 キャバレーでシャンパンとハイビスカス納豆
第7章 幻のバオバブ納豆を追え
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「あ、納豆の匂いがする! する!」カメラを持ったまま、竹村先輩が大声をあげ、同時にアブドゥルさんも「コロゴ、コロゴ!」と騒ぎだした。
 置き去りにされた私が、今度は大量に土塊を口につっこんでみた。「おおっ!」
 噛んでいると懐かしい風味が少しずつ口の中に浸透してきて、飲み込むときにはわずかに開いた鼻孔から古く甘い香りがすっと抜けた。「納豆だ!」
「できちゃったよ」「できちゃいましたね」「いやあ、これでできちゃうのか」「できちゃうんですね」……。
 私たちは馬鹿のようにくり返した。
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単行本p.273

 舞台は再びアフリカへ。ブルキナで広く食されている“スンバラ”、さらにはハイビスカスやバオバブの種を使ったアフリカ納豆の噂を聞きつけて飛び回る著者。謎のバオバブ納豆なんてものが本当にあるのだろうか。


第8章 納豆菌ワールドカップ
第9章 納豆の正体とは何か
エピローグ そして現れたサピエンス納豆
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 現在こそ西アフリカが世界最大の納豆地帯だが、人類史上ずっとそうであったとはかぎらない。というより、私はかつてアジアに、超大陸パンゲア並の巨大な納豆の支配区が存在したと考えている。
 ミッシングリンクは漢民族エリアである。あまりにも広大なのでミッシングリンクに見えないが、かつては間違いなく納豆を食べていたはずだ。(中略)
 失われてしまったのは返す返すも残念だが、最近は中国でも北京、上海など都市部を中心に日本の納豆がブームだという。もしかすると、十年後、二十年後には漢民族もふつうに納豆を食べるようになり、ネパールから日本までつながるアジア納豆超大陸が復活するかもしれない。
 その過程で、世界納豆界の盟主の座をかけた、アジアとアフリカの最終戦争が起きる可能性がある。
 それはきっと眺めて楽しい、食べて美味しい、極めて平和的な激戦となるにちがいない。
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単行本p.340

 アフリカ納豆とアジア納豆から代表菌を選んで培養し、同じ条件で納豆にして試食し点数を競わせるという納豆菌ワールドカップを企画実行する著者。はたして優勝するのはどの納豆菌か。そしてその先に浮かび上がってくる納豆超大陸の姿、古代人にとって豆よりも先に納豆があったとする「サピエンス納豆仮説」。アフリカとアジアが、現代と古代が、すべてが納豆でつながり糸をひく壮大なビジョン。





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