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『トリックといかさま図鑑 奇術・心霊・超能力・錯誤の歴史』(マシュー・L・トンプキンス、定木大介:翻訳) [読書(オカルト)]

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 これまでに多くのマジシャンが、霊能力や超能力者を自称する人々の正体を暴くことにプロとしての充足を感じてきた。いかさま師たちはマジシャンと同じように仕掛けとミスディレクションを利用していながら、自分たちの芸をイリュージョンとは認めず、磁場や霊魂や超能力(ESP)に由来する力のなせるわざだといいつのる。そういう出まかせを暴くために、手の込んだ捏造や詐術が使われたこともあったのは、逆説的というほかない。
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単行本p.15


 奇術(マジック)と霊媒、超能力、実験心理学。その長く錯綜した関わり合いの歴史を大量の写真やイラストとともに解説する一冊。単行本(日経ナショナルジオグラフィック社)出版は2020年10月です。


 降霊会の場で「心霊現象」を起こす霊媒、その仕掛けを暴露すべく策略をめぐらす奇術師。執着、対立、相互利用。19世紀からそういった切っても切れない関係を続けてきた奇術とオカルトの長い歴史を様々なビジュアルを使って解説。マジックショーのポスター、降霊術の様子を撮影した写真、様々な奇術用道具、トリックの図解など、めくっているだけでも楽しめます。


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 現代の研究者たちは、健康な人間の知覚と記憶と認識に潜むさまざまな偏りが、真にせまったゆるぎないイリュージョンをもたらす仕組みを日々実証している。多くの場合、私たちの心がどのようにしてイリュージョンを生み出せるかという科学的な説明の不思議さは、超自然的な説明とあまり変わらない。
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単行本p.15


〔目次〕

第1幕 初期の催眠術と心霊現象
第2幕 マジックの巨匠たち
第3幕 心霊研究家
第4幕 超心理学者
第5幕 錯覚の心理学




第1幕 初期の催眠術と心霊現象
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 1848年にフォックス姉妹が世に出たことが、アンドリュー・ジャクソン・デービス予言するところの霊的な大躍進であったかどうかは議論が分かれるところだが、時流に乗ってひと儲けしようともくろむ詐欺師やぺてん師にとって、当時大きなチャンスが存在したことは間違いない。さらに、物理的な現象や実演は心霊主義の1つの側面に過ぎなかった。実演可能な宗教的奇跡というアイデアが、欺瞞や自己欺瞞、詐欺や捏造の温床になったことに議論の余地はない。当時はそのいずれもが、もっと大きく複雑な社会文化的潮流の一部だった。
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単行本p.49

 メスメリズムから催眠術へ。心霊主義(スピリチュアリズム)の興隆、降霊会で起きる様々な現象。19世紀後半、目の前で起きる超常現象という神秘に惹きつけられた人々の歴史が語られます。




第2幕 マジックの巨匠たち
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 ドイルとフーディーニの関係は、霊媒とマジシャンを隔てる境界がロベール=ウーダンのいうほど明確でないということを、よく表している。実際、霊能者と霊能者の欺瞞を暴く者との境界はあえて曖昧にされることが多かった。
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単行本p.103

 偉大な奇術師たちの歴史。そのなかには霊媒のトリックを暴くことに注力した者や、さらにその挙げ句に自身が霊能者としてデビューした奇術師者さえいました。両者の境界がしばしば曖昧で流動的だったことを解説します。




第3幕 心霊研究家
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 心霊主義者とマジシャンの対立が続く中、科学者たちは、霊の出現やアポート(引き寄せ)などの物理現象加え、テレパシー(思考伝達)や死後生存の可能性などの問題を客観的に調査するための方法論を確立しようとした。心霊主義的な、あるいは超常的な問題に直面した科学者たちは、良識的な懐疑主義の旗を掲げて共同戦線を張ると思いきや、仲たがいして喧嘩別れすることが多かった。物理世界の観測に長けた科学者も、人間相手の実験となると種々の問題にうまく対処できなかったのだ。
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単行本p.108

 ここで科学者たちが登場。心霊現象を科学的に解明しようとする彼らの努力は、奇術師と霊能力者に翻弄され、混乱し、内輪もめに終始することが多かったのです。それはなぜでしょうか。




第4幕 超心理学者
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 方法論的な課題やあからさまなぺてんが超常現象の研究を惑乱する状況は、20世紀に入っても変わらなかった。詐欺の告発が絶えなかったことで、初期の霊媒が行ったラップ音やエクトプラズム、石盤書記といったこけおどしは信用されなくなったが、それによって生じた隙間を、新しい現象、といって悪ければ、新しいレッテルが埋めていった。すなわち、超感覚的知覚(ESP)、遠隔視、サイコキネシス(念力)などである。
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単行本p.167

 20世紀に入ると、霊媒は超能力者と名前を変え、心霊研究も超心理学となり、ESP研究の方法論は次第に洗練されたものになってゆきました。しかし、それでも超常現象の解明には手が届かなかったのです。




第5幕 錯覚の心理学
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 実験心理学は現在、「マジックを科学する」ことにおいて、いわばルネサンスの真っただ中にある。2000年以降、マジックをテーマにした実験科学の論文の総数は、それ以前に発表されたすべての実験研究論文の4倍を超える。(中略)今日、見て、考え、記憶する仕組みを探る新たな手法を開発しようとする人々の、マジックのトリックに対する関心は募る一方だ。それこそ世界中の教室、研究室、学術会議でマジックのトリックが活用されているし、査読付き科学論文の主題にされることも増えてきている。
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単行本p.208

 21世紀になると、実験心理学が飛躍的に発展してゆきました。何世代にも渡って奇術師たちが蓄積してきた知識を使って、人間の知覚や記憶には驚くべき偏りがあること、判断や記憶は簡単に操作できること、などが次々と立証されてゆきました。すべての超常現象がこのような実験心理学の成果により説明される日が来るのでしょうか。





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