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『引きこもりてコロナ書く #StayHomeButNotSilent』(笙野頼子)(「群像」2020年10月号掲載) [読書(小説・詩)]

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 私の言いたいこと? 疫病を軸にして見ないと何も見えないほどこの国は土俗に支配されている。無論世の中には良い土俗も沢山あって私なんかは土俗がなかったらもう死んでいるとまでも思っているけれど、しかし連中のやっている黒土俗は絶対に認めない。だいたい本人たちに土俗も何も何の意識もないのだから。そもそも今、セーフのやっている事それはただの殺神道コロしんとう、黒魔術、死ね死ね団である。
(中略)
 我が国のセーフは古代以下なのだ。最近は特に、古代の来歴とかさえ知らないでやっている。こうしてただ単に苦しむ国びとを出来るだけ無残な方法で苛め殺せば、自分の繁栄は保証されると、悪魔契約などせずに悪魔忖度でやってしまう。
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「群像」2020年10月号p.73、92


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第134回。


 疫病から見えてくるこの国の実態に文学的仮構をもって切り込む。「群像」2020年10月号に掲載された、生き延びるための呪い返し。掲載誌出版は2020年9月です。


「ふん絶望なんかしないよ何でも書いてやる。そして? 生き延びるのだ」
(「群像」2020年10月号p.74)


 なぜ政権は平気で人々を見殺しにし、社会基盤を切り崩し、自分たちのお仲間の利権のためなら国が滅んでもいいという態度を隠そうともしないのか。信じがたいほど怠惰なのか、愚鈍なのか、無慈悲なのか、邪悪なのか。いや、それは古代から続く、というか古代よりも劣化した呪術を何も考えず「勤勉に」実行しているだけなのだ。


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 ひとことでいうとそれは、ケガレ、ハライ、ミソギによる呪術である。最近はリセットなどと表現する悪魔もいる。とはいえ、一般的になら、これ、ケガレの悪用さえしなければ普通のおまじない。ていうか、権力の手に渡った時に怖いだけのもの。なのに……。
(中略)
 このケガレをハライとセットにして強者から弱者に向かって使うようになった瞬間、小さい御祓いは恐怖の権力芸に化けてくるのである。それは強者から弱者への、……。
 罪のなすり付け、不幸の原因よばわり、存在自体を悪者扱いする差別、貧乏や苦しみを押しつけた上での、自己責任化。むろんそうしておいて追放、時には処刑するのである。要するに……、弱い善人に何かひどい事の「責任」を取らせるのだ。
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「群像」2020年10月号p86


 とにかく自分より弱い立場の相手にケガレを押しつけてつぶし、なかったことにする。声をあげる人を叩く。それは政権だけでなく日本中に蔓延している呪い、黒土俗、邪法。


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 土俗の中には古代の民を苦しめるために当時の権力が使っていたものがある。それを退化した今の時代のセーフが、鈍感で冷たい「市民」に叩き込んで、誰かを殺して富を生む、そういう経済システム(というかただの悪魔信仰)に仕立て上げたのだ。というか第二次大戦の頃とかも結局そんなもので、新世紀に来てさらに「なんでもあり」になって、……でも思えばそんなに飛躍した結論ではなかったのだった。(中略)そもそも二十年近くも前から書いている事なのだ。ところがそれが二〇二〇年とうとう時代そのものと一致、リアル私小説になってしまった。
 結果、「古代日本の邪悪な権力土俗」のはずが今まさに現代が邪悪な古代となってしまっている。
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「群像」2020年10月号p.99


 ところで、その昔、日本人撲滅の呪詛をかけていた死ね死ね団って結局勝ったんじゃないの?


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 今までにその事はさんざん書いた。つまり感情を動かしている人々を見たときに、見なかったことにしてなかったことにする、薄ら笑いして横を向いている(そういう彼は昔の私を古臭いルサンチマンだけのヒステリーのフェミニズムだと言った)それは少しも科学的でも開明的でもない態度だと思う。むしろそれこそがこの国の一番無知蒙昧で鈍感で低劣な死ね死ね団殺神道、令和まで続くハヤト殺しの「国家神道」そのものなのだ。
(中略)
 要するに徹底して何にも対処しない。不幸も犯罪もなかった事にする、その被害者までも沈黙させる。もしそれでも被害者が負けなければ、いないことにする。ついに被害者が死ねば死者に自分達の罪を被せ、黒歴史の責任をすべて押しつける。
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「群像」2020年10月号p.100


 そういう世の中で、疫病感染が致命的になりかねない難病を抱えた作家は、マスク確保など生き延びるために手を尽くす。だが貯金はどんどん減ってゆく。難病、貧困、猫を抱えて引きこもるしかない作家。こんなとき、国に、政治に、なにを期待すべきなのか。


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 ではそのような「今の政権に期待するものは」? 無論、私にはある。それは一択である。さあ、……。
 閉店しろ。今の内閣には真先に閉店して貰いたい。何がセーフかお前らこそがもっともアウトでデンジャラスだ。なのでコロナを消すまでにまずお前らが消えろ。
 この土俗を奪って科学や神道のふりだけしてきたネオリベ悪魔教、グローバル死ね死ね団め! だってお前らが辞めなかったら私が死ぬんだよ。(中略)医療費がなくなる前にお前らをやっつけて生き延びないと駄目だ。
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「群像」2020年10月号p.77


 もうこうなったら呪術には呪術、というか祈りと文学で対抗するしかない。


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 今、セーフが逮捕されるように呪いをかけている。というかあの変なマスク等に込められていた(後述)呪いを叩き返すために家の荒神様に祈っている。生きるための頑張りで味噌汁にも凝っている
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「群像」2020年10月号p.77


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 結局私はここ七年ほどもずっとセーフを批判してきた。
 ていうか何よりも身の回りを書いていた。そこから全てが未来までも見えると今も、信じているからだ。
(中略)
 だって生霊返しの根本はまず、それが誰からの呪いなのかというか呪われているという事実を自覚する事だから。本来、儀式なしでもそれだけでも返しは出来てしまう。権力に怒る、それは観音経さえもお許しになる事だ!
 返すぞ、返してやる! マスク早く来い!
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「群像」2020年10月号p.78、125


 身の回りの「瑣末な」ことをひたすら書くことで古代と現代をつなぎ、見えなくされたものを見せる。邪悪な呪術の正体を見破る。それが文学の力。そう、「読者は私の本がないと生きていけない」(「群像」2020年10月号p.121)


 ちなみに、その後の展開については以下をお読みください。

笙野頼子資料室 お礼とお知らせ近況報告 2020年9月7日付け追記
https://restless.adrgm.com/text/kinkyo202008.html#PS





タグ:笙野頼子
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