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『黄色い夜』(宮内悠介) [読書(小説・詩)]

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「ひどい国だな」
「ああ。でも、じきにそうじゃなくなる」
 兵士の背を目で追いながら応じると、一瞬、ピアッサが怪訝そうな顔をした。
「なぜ?」
「ぼくがE国を乗っ取るからさ」
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単行本p.13


 カジノで成立している砂漠の国。そこに建つ塔の最上階では掛け金の上限がなく、勝てば国を乗っ取ることも出来るという。その最上階を目指す日本人、ルイの目論見とはなにか。単行本(集英社)出版は2020年7月です。


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 いまも昔も、E国の産業はカジノ一本。
 石油は出ず、ろくに作物も育たない。E国のカジノは、そんな土地に建った巨大な螺旋状の塔だ。塔にはカジノのためにホテルがあり、銀行があり、商店があり、その他あらゆる営みが集約されている。塔は常に建設途中で、いまも上へ上へと伸びているという。(中略)階が上がるにつれて、賭けの金額は上がっていく。刺激に飢えたヨーロッパのハイローラーたちは、六十階のヘリポートに直接乗りこんでくる。そのさらに上、最上階では掛け金の上限がないという。仮に世界ランクの富豪が最上階に乗りこみ、全財産をルーレットの赤に賭け、それで赤が出たとする。そうすれば、この国はもう彼のもの。これがE国の原則だ。
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単行本p.10、21


 塔の姿をしたカジノに乗りこんできた一人の若者が、真剣勝負を通じて仲間を一人また一人と増やしてゆき、彼らの協力を得てついに最上階に到達する。死闘の果て、塔の頂点で待ち受けている最後の勝負の行方やいかに……。というといかにもギャンブル漫画にありそうな設定とプロットに思えますし、実際その期待は裏切られません。舞台となるカジノがいかにもバベルの塔なのでラストも予想できてしまうし、そっちの期待もちゃんとかなえてくれる親切設計。

 しかし、『あとは野となれ大和撫子』や『遠い他国でひょんと死ぬるや』といった政治や戦争をめぐるシリアスな物語を独特のゆるさで一気に読ませてしまう作品を書いた作者のことですから、本作も一筋縄ではゆきません。スリルあふれるギャンブル勝負の背後で、国や文化という誰もが抱える普遍的な狂気とその共存をめぐる物語が流れてゆきます。個人的には『エクソダス症候群』との関係が気になりました。





タグ:宮内悠介
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