『ワン・モア・ヌーク』(藤井太洋) [読書(小説・詩)]
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テロリストがプルトニウムを持ち込んだ東京には、七十五年前、マンハッタン計画の時代には夢にすら見ることのなかった高精度な工作機械と十億分の一秒を刻む時計、そしてそれらを操れる女性エンジニアがいる。
それが意味するところを想像するのは難しくない。
東京で原子爆弾が炸裂する。
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文庫版p.164
《ユー・シュッド・フィアー、ワン・モア・ヌーク(もう一度、核の怖さを味わってください)》。ネットに投稿された核テロ予告動画が東京をパニックに陥れた。天才エンジニアが今の技術を駆使して作り上げた原爆。それは本当に起爆するのか。そしてテロの目的は。爆発の規模をめぐって決裂するテロリストチーム、核技術のエキスパートが集まった専門家チーム、テロリストを追う公安の刑事、それぞれのグループが予告期限を目指して奮闘する。軌道上のテロをリアルに描いてみせた『オービタル・クラウド』の著者による核テロパニック長編。文庫版(新潮社)出版は2020年1月、Kindle版配信は2020年2月です。
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「多段爆縮レンズの構造だ……田ノ浦さんが考えていた、というかシミュレーターの予想に出てきていた。C-4を自由自在に造形できれば、小さな爆縮レンズを何段階にも積み重ねて、必要な地球の中心核ほどの圧力を得る方法の一つになる――まさか実現しているとはね」
ナズを見て、舘埜は囁くように言った。
「但馬は、今までにない原爆を産み出した」
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文庫版p.261
比較的容易に入手できる低濃度核燃料で実現可能な核爆弾。ある天才エンジニアが超精密3Dプリンタや小型原子時計など現代の技術を駆使して作り上げた新型原爆の設計は、世界の核セキュリティを根底から覆す恐るべき可能性を秘めていた。東京に小規模な核汚染を引き起こす計画を立てた彼女に対して、協力者であるISISのテロリストは、低濃度核燃料と偽って高濃度核燃料を搭載する。
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「もしも但馬が、IAEAのレポートを読んでイスラム国の核燃料を20パーセント濃度だと考えていたら、どうなると思いますか」
舘埜の背中をぞくりと悪寒が走った。
「つまり――?」
「但馬が、あらゆる困難を乗り越えて20パーセント濃度の核燃料で0.1キロトンの核爆発を引き起こせる原子爆弾のケースを作り、そこに、70パーセント濃度の燃料をセットしたら、想像を超える規模のエネルギーが放出されます」
画面に表示された無数の数字の一つを、田ノ浦は指差した。
「2100テラジュール――500キロトンの核爆発が起こります」
矢上がのけぞり、椅子の脚を鳴らして立ち上がった。
「出力で? それ戦略核じゃない。一発で東京二十三区が灰になる。比喩じゃなくて」
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文庫版p.165
東京全体を消滅させる規模の爆発を起こすため起爆時刻まで核爆弾を防衛しなければならないテロリスト、当初の計画通り小規模核汚染にとどめるために現地へと向かうエンジニア、核爆発も核汚染も阻止すべく必死の努力を続ける専門家、そして公安。それぞれのグループが持てる情報をフルに活用して活路を見いだそうとするなか、セットされた爆発時刻、それは3月11日。日本は、核汚染という現実の脅威に今度こそ真正面から向き合うことを強いられることになった。
というわけで、地に足のついた『オービタル・クラウド』というべきサスペンス小説。もしも核兵器開発の難易度が劇的に下がり、それこそ個人が3Dプリンタで出力できるようなものになったら、世界はどうなってしまうか。その問いを背景に、いずれもプロフェッショナルで有能な登場人物たちが激しい頭脳戦を繰り広げます。『オービタル・クラウド』を気に入った読者には文句なくお勧めです。
テロリストがプルトニウムを持ち込んだ東京には、七十五年前、マンハッタン計画の時代には夢にすら見ることのなかった高精度な工作機械と十億分の一秒を刻む時計、そしてそれらを操れる女性エンジニアがいる。
それが意味するところを想像するのは難しくない。
東京で原子爆弾が炸裂する。
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文庫版p.164
《ユー・シュッド・フィアー、ワン・モア・ヌーク(もう一度、核の怖さを味わってください)》。ネットに投稿された核テロ予告動画が東京をパニックに陥れた。天才エンジニアが今の技術を駆使して作り上げた原爆。それは本当に起爆するのか。そしてテロの目的は。爆発の規模をめぐって決裂するテロリストチーム、核技術のエキスパートが集まった専門家チーム、テロリストを追う公安の刑事、それぞれのグループが予告期限を目指して奮闘する。軌道上のテロをリアルに描いてみせた『オービタル・クラウド』の著者による核テロパニック長編。文庫版(新潮社)出版は2020年1月、Kindle版配信は2020年2月です。
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「多段爆縮レンズの構造だ……田ノ浦さんが考えていた、というかシミュレーターの予想に出てきていた。C-4を自由自在に造形できれば、小さな爆縮レンズを何段階にも積み重ねて、必要な地球の中心核ほどの圧力を得る方法の一つになる――まさか実現しているとはね」
ナズを見て、舘埜は囁くように言った。
「但馬は、今までにない原爆を産み出した」
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文庫版p.261
比較的容易に入手できる低濃度核燃料で実現可能な核爆弾。ある天才エンジニアが超精密3Dプリンタや小型原子時計など現代の技術を駆使して作り上げた新型原爆の設計は、世界の核セキュリティを根底から覆す恐るべき可能性を秘めていた。東京に小規模な核汚染を引き起こす計画を立てた彼女に対して、協力者であるISISのテロリストは、低濃度核燃料と偽って高濃度核燃料を搭載する。
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「もしも但馬が、IAEAのレポートを読んでイスラム国の核燃料を20パーセント濃度だと考えていたら、どうなると思いますか」
舘埜の背中をぞくりと悪寒が走った。
「つまり――?」
「但馬が、あらゆる困難を乗り越えて20パーセント濃度の核燃料で0.1キロトンの核爆発を引き起こせる原子爆弾のケースを作り、そこに、70パーセント濃度の燃料をセットしたら、想像を超える規模のエネルギーが放出されます」
画面に表示された無数の数字の一つを、田ノ浦は指差した。
「2100テラジュール――500キロトンの核爆発が起こります」
矢上がのけぞり、椅子の脚を鳴らして立ち上がった。
「出力で? それ戦略核じゃない。一発で東京二十三区が灰になる。比喩じゃなくて」
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文庫版p.165
東京全体を消滅させる規模の爆発を起こすため起爆時刻まで核爆弾を防衛しなければならないテロリスト、当初の計画通り小規模核汚染にとどめるために現地へと向かうエンジニア、核爆発も核汚染も阻止すべく必死の努力を続ける専門家、そして公安。それぞれのグループが持てる情報をフルに活用して活路を見いだそうとするなか、セットされた爆発時刻、それは3月11日。日本は、核汚染という現実の脅威に今度こそ真正面から向き合うことを強いられることになった。
というわけで、地に足のついた『オービタル・クラウド』というべきサスペンス小説。もしも核兵器開発の難易度が劇的に下がり、それこそ個人が3Dプリンタで出力できるようなものになったら、世界はどうなってしまうか。その問いを背景に、いずれもプロフェッショナルで有能な登場人物たちが激しい頭脳戦を繰り広げます。『オービタル・クラウド』を気に入った読者には文句なくお勧めです。
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