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『既視感製造機械』(大橋弘) [読書(小説・詩)]

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なぜという理由もなしに茄子を切るそれが宇宙のはじまりでした
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キャベツ半個とあとは時折ぶり返す軽い怒りで炒めてみました
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これだからネコはやめろと言ったのに鼓動以外のひととおりかよ
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世の中は遅々と進まぬ猫なのよ猫なのになぜ努力するんだ
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疲れたと言ってはならぬ猫のおなかから立ちのぼる秋の霊気になるぞ
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 ありふれた食材を使いながら意表をつく調理法で読者をうならせる歌集。単行本(六花書林)出版は2020年4月です。


 まずは、庶民的な料理を予想外のものとつなげてみせる作品が印象に残ります。


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トンカツの衣といえば夕闇の滲む速度で揚げるものです
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反時計回りのタコ焼き、暗号がダダ漏れとなり冷めてしまった
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海もいつか滅びるだろうわたくしが焼飯なんかを食ってるうちに
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泣きそうな恐れあります肉まんの持ってきどころのない金曜日
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オムライス生きてみますかやめますかそういう色の添え物付きで
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たまごやき、いつもこっそり入れ知恵をしているだけに輝かしくて
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現身にいいからはやくおでんでも買ってあげろよ(東京が死ぬまえに)
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こんにゃくをつらぬきとおす串があるおとなのきみにはつきさせなかった
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真夜中を雨ふりやまず寝落ちするまでは聞こえる蒲鉾の音
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ひとがみな竹輪と化したあの冬の朝焼けとなり眠るのでした
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目に見えぬ圧力なんてお餅かもしれないのになぜ焼いてみないの
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あたためなおすだけですぐ食える不倶戴天の敵なのでした
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蜆汁、百年昔のことすらも覚えていそうなほどぬるかった
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 デザートや駄菓子もあります。


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埋め立ててしまった海に人類は栗まんじゅうを泳がせている
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またひとつアップルパイが潰されてゆく東京の日の出なのです
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未来からきたジャムパンに違いない明けても暗い京都の冬は
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たましひをもてるわれらはたましひをゆらゆらさせて汁粉など食す
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見もしらぬ朝が隣にやってきてモナカになれと昨日も今日も
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朝死んで夕暮れ生まれ変わるのをロールケーキの定めとします
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仕事には行きたくないがクッキーの缶には蓋がついているので
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「世の中はお互い様」と言い募る奴にはやらんオレの乾し芋
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 食材や果物の意表をつく扱いにも注目です。


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なぜという理由もなしに茄子を切るそれが宇宙のはじまりでした
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ごく軽い憂い沼に浮かびくるこのクルトンはひとだまかしら
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キャベツ半個とあとは時折ぶり返す軽い怒りで炒めてみました
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ピーマンに「お」をつけるなよいずれくる死の刹那にはつけちゃうかもな
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「玉ねぎを埋めてきた顔をするきみに仕事を語る資格などない」
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ぴくるすはおそらくこのよをとうめいにするためなのねよるにつけこむ
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数千万、苺の顔が押し寄せてききわけのよいやつらから死ぬ
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メロンの中心にあるはずだから必要な数だけ撃って早く寝なさい
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貯めて貯めて悪意を貯めて世間並みのグレープフルーツと取り替える
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タネのない西瓜が好きな歌人かな西瓜が嫌い歌人も嫌い
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あの理屈一辺倒の西瓜なら便所の窓から落としてやった
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 お仕事つらい、という気持ちをうたった作品。


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逃げ出してしまいそうなり夕方の会議を前に論理の猿が
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岩礁に息づく貝のねむりにも見えてこのまま続くの会議
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西鶴がごっこ遊びをしているという前提で今日の残業
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残業が終わってやっとバニラまで戻る小道が現れていた
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仙人掌ね、とりわけ指示待ち族なんて呼ばれた以上もう仙人掌ね
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雨樋をとにかくここに置けばいいどうせ部長は怒るのだから
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 そして忘れてはいけない、ねこのうた。


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これだからネコはやめろと言ったのに鼓動以外のひととおりかよ
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ネコに謝罪を求めるきみらのセンスではラーメンライス食う資格なし
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みなさまの意見が一致しないなか俺は見てるよねこのしっぽを
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わたくしが眠りにおちてわたくしが部屋になるまで、猫よ見ていて
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かわたれの(ねえ、それだけは捨てないで。)猫になるため描いた切符
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何もかも見てきたような顔をしてねこはわたしに知らん顔する
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俺だって懺悔のねこを一匹は持つが夜明けになくしてしまう
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天地ってあいまあいまが広すぎて人と猫には狭すぎるのね
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猫のイデアを枕にしたら眠れるよ眠れるはずよおすがりなさい
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あずさゆみ春の目盛を思うさまもとに戻している猫のやつ
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世の中は遅々と進まぬ猫なのよ猫なのになぜ努力するんだ
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疲れたと言ってはならぬ猫のおなかから立ちのぼる秋の霊気になるぞ
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うそつきと罵られたがのらねこの背中が見えているからへいき
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おしつつみつきはてらせりやねやねをものいうねこのいるやねやねを
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