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『ユニバース2.0 実験室で宇宙を創造する』(ジーヤ・メラリ、青木薫:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 これまで本書では、実験室で新しい宇宙を作ることは可能なのかどうかを調べてきた。それによると、標準理論の枠には収まらないとはいえ、まずまず妥当な拡張をすれば、宇宙を作ることが現実的に視野に入っているという理解に到達しているように見える。LHCの空洞内や、さらに強力な次世代加速器内で生じたミニブラックホールの内部に、ベビーユニバースが潜んでいるかどうかもわかるかもしれない。
 そうなるといよいよ、このテーマの底流にある倫理的な問題にきちんと向き合うべきときだ。ベビーユニバースの内部に、そうとは知らずに新しい生命を創造してしまうかもしれないとしたら、それでもわたしたちはベビーユニバースを作るべきなのだろうか? そうして作った子ども宇宙の神々として、被創造物に対し、わたしたちはどんな責任を負うべきなのだろうか?
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単行本p.345


 実験室で宇宙を創り出すことは可能なのか。可能だとして実施すべきなのか。「フェッセンデンの宇宙」の中で発生した生命に対して、私たちはどのような責任を持つことになるのだろう。そして、私たちの宇宙もまた意図的に創造されたものだとしたら、それを検証する方法はあるのだろうか。ベビーユニバース創造の可能性と倫理、そして科学と宗教の相互作用について探求した一冊。単行本(文藝春秋)出版は2019年7月、Kindle版配信は2019年7月です。


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 本書を他に類のない独特のものにしている重要な要素は、メラリが信仰を持っていることだと思う。本書の中で明らかにしているように、彼女は「人格神」を信じているのである。本書をこの「訳者あとがき」から読み始めてその事実を知り、「そんなやつが書いたポピュラーサイエンスの本なんて、読むに値しないね」と放り出しそうになった人がいたとしたら、ちょっと待ってほしい。本書の科学的な内容がまっとうで重要なものであることは請合おう(わたしが請合うことにどれほどの意味があるかはともかく)。それだけでなく本書は、科学とはどんな営みで、科学者とは何をする人たちなのかという、科学の根本にかかわる深い問題を提起していると思うのだ。
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単行本p.383


[目次]

第一章 ビッグバンの残像という手がかり
第二章 空間と時間を取り去っても、そこには量子が残る
第三章 何が宇宙を膨張させたのか?
第四章 新インフレーション理論の幕開け
第五章 宇宙のはじまりは「無」だったのか?
第六章 粒子加速器で生まれ、ワームホールでつながる
第七章 ひも理論が導く無数の平行宇宙
第八章 宇宙の種「磁気単極子」を捕まえる
第九章 ベビーユニバースに手紙を送る方法
第十章 わたしたちは宇宙を創造するべきなのか?




第一章 ビッグバンの残像という手がかり
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 スーと話すことで、わたしはふたたびエネルギーをもらった気がした。彼は宇宙建造プロジェクトをまじめに受け止め、そこから倫理的な問題が生じることに気づいている。そして、もしもわたしたちを作った存在からの隠されたメッセージが空にあるなら、宇宙マイクロ波背景放射を測定すればそれが見つかる可能性があると言って、わたしを正真正銘わくわくさせてくれた。
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単行本p.54


 実験室で宇宙を創造する。それが可能なら、私たちの宇宙もまた人為的に創られた可能性を考慮しなければならない。どうすればそれを検証できるだろうか。宇宙マイクロ波背景放射のパターンに「先輩」からのメッセージが隠されている可能性を検討する。


第二章 空間と時間を取り去っても、そこには量子が残る
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 アシュテカーからは、量子的な場についての初歩的な考え方や、一見すると何もなさそうなところから粒子を取り出す方法を教えてもらった。量子的な場は、わたしたちの宇宙が誕生したのち――ビッグバンで誕生したにせよ、エキゾチックなビッグバウンス〔大きな反跳〕で誕生したにせよ――なぜ激烈な膨張を始めることになったのかを説明するうえで、決定的な役割を演じることになるだろう。
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単行本p.100


 ループ量子重力理論研究者へのインタビューを通して、宇宙の起源を解明するために必要となる「量子的な場」の基礎を学ぶ。


第三章 何が宇宙を膨張させたのか?
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 グースが概略を示したインフレーション理論は、宇宙に関するビッグバン理論の問題をいくつも解決してくれたが、それには代償があったのだ。インフレーションはビッグバン直後に一瞬だけ起こり、その後、激烈な膨張を起こす偽の真空は、今日の宇宙が占めている安定した真の真空に転じるはずだった。ところが、なぜそうなるのかを確かめようと自分のモデルを調べてみたグースは、そのモデルによれば、インフレーションはいつまでも止まらないことに気づいたのだ。
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単行本p.142


 ビッグバンよりも前に空間そのものが激烈な膨張を起こし、光速をはるかに越える速度で広がった。ビッグバン理論に残されていた難問をいくつも解決したインフレーション理論。それは大成功を納めたが、しかし問題は残されていた。


第四章 新インフレーション理論の幕開け
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 インフレーションを再度修正しようというリンデの試みは、これもまたソビエト出身の、わたしたちの宇宙を何もないところから生じさせる、いわゆる「無からの創造」を可能にする方法を考えたアレックス・ビレンキンの研究と絡み合っていく。ビレンキンはまた、わたしたちの宇宙は無限の広がりを持つマルチバースに無数に存在するパラレル宇宙のひとつだという可能性に気づくことにもなるだろう。「無からの創造」とマルチバースはともに、実験室で宇宙を作るための青写真につながっていく。
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単行本p.172


 インフレーション理論が抱えている問題を解決するために行われた様々な試みからは、「無からの創造」や「マルチバース」など様々な結論が生み出されて行く。そしてそれらは、実験室における宇宙創造というアイデアに理論的な基盤を与えることになるのだ。


第五章 宇宙のはじまりは「無」だったのか?
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 リンデとビレンキンは、宇宙の誕生はもはや唯一無二の始まりではなく、ひとつの始まりにすぎないことを見出した。このバージョンのインフレーション理論では、わたしたちの宇宙はただひとつの存在ではなく、フツフツと湧きあがり、それぞれが誕生、膨張、そしてもしかすると収縮を経験する、無数の泡のひとつにすぎない。
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単行本p.199


 インフレーション理論の展開から得られたのは、インフレーションからは沸き立つ泡のように無数の宇宙が次々と生まれるという結論だった。現代宇宙論がたどり着いた驚くべきビジョンを解説する。


第六章 粒子加速器で生まれ、ワームホールでつながる
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 グエンデルマンが、その発見の意味に気づいたのはそのときだ。宇宙を作ることに関する問いが、抽象的で理論的な思索から、現実の実験室で遂行できることに変化したのだ。もしも重さにしてわずか25グラムばかりの偽の真空の泡が手に入れば(どこでそれを見つけるのかという問題はひとまず棚上げして)、その泡は、あなたの目の前でインフレーションを起こし、まったく新しい一人前の宇宙に成長するだろう。
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単行本p.228


 偽の真空がインフレーションを起こすための臨界質量の発見。それは、有限なエネルギーから無限大の宇宙を発生させることが可能だということを意味していた。いまや実験室における宇宙創造は、抽象的なたとえ話ではなく、実現可能な目標となったのだ。


第七章 ひも理論が導く無数の平行宇宙
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 ひも理論からもたらされた一連の論拠は、ポルチンスキーにベビーユニバースの研究プロジェクトを中止させ、微調整問題への解決策として、ストリング・ランドスケープに全力で取り組ませるほど説得力があった。しかしこれから見ていくように、もしもひも理論が正しければ、実験室でベビーユニバースを作るのは当初の予想よりもはるかに簡単になり、宇宙創造という行為に人間の手が届くようになるかもしれないという、いささか皮肉な事実が明らかになるのである。
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単行本p.240


 超ひも理論から得られる「ストリング・ランドスケープ」。それが示しているのは、物理法則や物理定数などが異なる無数の宇宙の存在だった。ストリング・ランドスケープと人間原理の組み合わせによる微調整問題(なぜ物理定数などの値は人間の存在にとってここまで都合がよいように「微調整」されているように見えるのか)の解決、そして隠された次元の存在。超ひも理論の発展から得られた新しいマルチバース像を解説する。


第八章 宇宙の種「磁気単極子」を捕まえる
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 2006年、坂井と共同研究者たちはついに、これまで本書の各章で述べてきたアイディアのジグソーパズルに最後のピースをはめ込み、実験室で宇宙を作るというプロジェクトを、実現に向けて新たなレベルに押し上げる論文を発表した――そしてその論文は、宇宙を作ることに伴う心配のレベルも押し上げた。彼らの計算によれば、もしも粒子加速器の中で、粒子が十分に大きなエネルギーで磁気単極子に衝突すれば、磁気単極子はインフレーションを起こし、新たな宇宙を作り出すはずだった。
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単行本p.281


 最後のピース、それは初期宇宙で大量に作られたと考えられている磁気単極子だった。十分に大きなエネルギーを持った粒子を磁気単極子にぶつければ、インフレーションが生じて、新たな宇宙が誕生する。ついに「宇宙創造のレシピ」が具体化したのだ。


第九章 ベビーユニバースに手紙を送る方法
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 創造の神々とは言っても、所詮はこんなものだ。自分たちの目的のために利用したりコントロールしたりする力もなければ、その世界の住人が助けを必要としていても、救いの手を差し伸べることもできない。しかしリンデはもうひとつの可能性を考えていた。わたしたちが創造した世界とコミュニケーションを取る方法ならあるかもしれない、と。
 成功しそうなアイディアはただひとつ。未来の住人たちがいつの日か見出してくれそうなメッセージを、宇宙そのものに書きつける方法を見つければいい。
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単行本p.340


 人為的に発生させたベビーユニバースは、外部からはミニブラックホールにしか見えない。通常のブラックホールと、ベビーユニバース(との接続点)であるブラックホールを見分ける方法はあるのだろうか。また、ベビーユニバースにメッセージを送ることは可能だろうか。実験室における宇宙創造のその後始末についての考察。


第十章 わたしたちは宇宙を創造するべきなのか?
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 もしも、より多くの(そしてより良い状態の)生命を未来に伝えることが良いことなら、そして行動を起こさずに生命の出現を妨げるのが悪いことなら、道徳的観点からなすべき良い行いはベビーユニバースを作ることだと論じることもできるだろう――そしてベビーユニバース作りを自粛するのは間違っているということになるだろう。(中略)わたしはどこかホッとしながら、サンドバーグに感謝の言葉を述べ、別れを告げた。彼が正しいことを期待したい。なぜなら、そこには文字通りの意味において、天文学的に大きなものがかかっているのだから。
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単行本p.366、267


 私たちが勝手に作った宇宙に、生命、さらには意識が生じたら、私たちは倫理的な責任を負うことになる。もしそうなら、宇宙創造には、それが可能だとしても、手を出さないほうが正しいことなのだろうか。それとも生命や意識(魂)の創造は望ましい、正しい行いなのだろうか。実験室における宇宙創造というアイデアがはらむ倫理的側面についての考察。科学と宗教が交差する地点に立って、私たちの存在とその意味を考える。





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