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『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』(宮澤伊織) [読書(SF)]

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「空魚は、私と一緒に裏世界を探検したいって思ってくれてるんだよね」
「うん」
「私も同じだよ。私も、空魚と一緒にいたい。二人でずっと、どこまでも行きたい」
「……それが鳥子のやりたいこと?」
「うん」
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Kindle版No.719


 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知をこえる超常現象や危険な存在、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第4巻。文庫版(早川書房)出版は2019年12月、Kindle版配信は2019年12月です。

 タイトルからも分かる通りストルガツキーの名作SF『路傍のピクニック』をベースに、ゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』の要素を取り込み、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。

 もともとSFマガジンに連載されたコンタクトテーマSFだったのが、コミック化に伴って「異世界百合ホラー」と称され、やがて「百合ホラー」となり、「百合」となって、ついには故郷たるSFマガジンが「百合特集」を組むことになり、それがまた予約殺到で在庫全滅、発売前なのに版元が緊急重版に踏み切るという、すでにストルガツキーもタルコフスキーも関係ない世界に。

 ファーストシーズンの4話は前述の通りSFマガジンに連載された後に文庫版第1巻としてまとめられましたが、セカンドシーズン以降は各話ごとに電子書籍として配信。ファイル5から8は文庫版第2巻、ファイル9から11は文庫版第3巻に収録されています。既刊の紹介はこちら。


2017年03月23日の日記
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-03-23

2017年11月30日の日記
『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-11-30

2018年12月17日の日記
『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』(宮澤伊織)
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2018-12-17


 というわけで、ファイル12から15を収録した第4巻です。カルト集団と特殊部隊がドンパチ派手にやった後始末から始まって、原点回帰というか、二人で怖い目にあって命からがら逃げるという基本に戻ります。

 明らかに空魚をターゲットに定めて積極的に狙ってくる怪異。一人暮らしの部屋を襲撃、入浴中でも容赦なく襲撃、さらには裏世界での夜明かし。怪異のヤバさもエスカレートしていますが、二人の関係のエスカレートっぷりの方がむしろヤバい。これ作者による悪質な罠か何かじゃないの、と勘繰ってしまうレベル。


[収録作品]

『ファイル12 あの牧場の件』
『ファイル13 隣の部屋のパンドラ』
『ファイル14 招きの湯』
『ファイル15 裏世界夜行』




『ファイル12 あの牧場の件』
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 腕にぶら下がる鳥子と至近距離で目が合って、私は動揺した。
「ていうか、今日なんか距離近くない?」
「そう? 普通でしょ」
 私の疑問をさらっと流して、鳥子が腕をほどく。
 いや絶対近いって。
 るなのDS研襲撃の日以降、鳥子の私に対する距離はなんだか縮まったと思う。物理的な距離の話だ。以前はここまで頻繁に手を繫いでこなかったし……。
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Kindle版No.608


 あちこちに裏世界ゲートが開き、化物が潜伏している「山の牧場」の掃討戦。やたらと距離を詰めてくる鳥子。スタートからしてすでに色々とヤバい。


『ファイル13 隣の部屋のパンドラ』
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 あいつは私の名前を呼んだ。
 間違いない。103の住人と、ドアをノックした何者かは、裏世界からの干渉だ。
「くっそ……」
 私は呻いて、深々とため息をついた。
 ここまで来るのか。私の家まで──。
 玄関前にゲートが出現した小桜屋敷や、裏世界と繋がってしまった鳥子の部屋を見ていたから、あり得ることと覚悟はしていたけど──実際に我が身に降りかかってみると、めちゃめちゃ嫌だった。
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Kindle版No.893


 空魚が一人暮らししているアパートの自室、その隣室から襲ってくる怪異。弱みにつけ込むようにして強引に空魚の自室に上がり込んでくる鳥子。色々な意味でストーカーがストーカーに狙われる話。


『ファイル14 招きの湯』
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 鳥子の挙動不審ぶりはそんなレベルじゃなかった。視線が私の顔と、首から下を行ったり来たりしてるし、それを私に気付かれたと悟ってからは私の目を見たまま動かなくなってしまった。
 ──一緒に温泉入ろうね、空魚……!
 私に向かってそう言ったときの鳥子の顔が忘れられない。耳まで真っ赤で、今まで見たこともないほど照れて、恥じらっていた。(中略)
 このままではヤバい。鳥子と私の関係が、危険なコーナーに差し掛かっていて、このままだと曲がりきれずに大事故を起こす──。そんな危機感が膨れ上がり、私の思考は盛大に火花を散らしながら空転した。
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Kindle版No.1638


 ファイル6の水着回に続いて、今度は温泉回。まあ、二人はいちゃついてればいいと思うけど、小桜さんにはもっと人生を楽しんでほしい。


『ファイル15 裏世界夜行』
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 鳥子のことは怖くない。多少挙動不審でも、鳥子は鳥子だ。私の大事な、二人といないパートナーだ。
 怖いのは、鳥子に対して、どう反応したらいいのかわからないことだった。どんなに恐ろしい場所にもついてきてくれて、ずっと隣にいてくれる、信頼できるこの女が、さらに踏み込んできたとき、どんな態度で接すればいいのか──私の中には何の答えもなかった。
 知識もない。経験もない。
 何も知らない子供のころに戻ってしまったようだ。
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Kindle版No.2329


 ついに裏世界での夜明かしに挑戦する二人。過去から襲ってくる怪異、伏線を回収しつつ、空魚に最大の脅威が訪れるという表プロットと、クリスマスに二人でラブホにお泊まりはじめての××という裏プロットが、表裏一体となって進行する。




タグ:宮澤伊織
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