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『繕い屋 金のうさぎと七色チョコレート』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

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「夢なのに、お母さんに会えないの?」
 せめて夢の中でくらい、会えたっていいじゃない。
「これはただの夢じゃないの。花は悪夢を見ている」
「そんな……怖いこと言わないで」
 薄々感じてはいたけれど、はっきり言われると恐怖が増してしまう。
「悪夢はその素を探しだして、消さなくちゃならないの」
「どうやって消せばいいの?」
 それを消せば、お母さんに会える?
「食べるんだよ。その素を食べるの。悪夢を見ている人に、食べさせるの。忘れちゃったの?」
 わけのわからないことを言われて、花は言葉もなかった。
「それに間に合わなかったら、戦いなさい。勇気を出して、花」
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Kindle版No.1476


 他人の悪夢の中に入り、心の傷を調理して食べさせることで本人を癒す「繕い屋」。平峰花は、今日も「繕い屋」としての危険な仕事に取り組む。誰かを悪夢から救うために。ぶたぶたシリーズで知られる著者によるシリーズ第二弾。文庫版(講談社)出版は2019年12月、Kindle版配信は2019年12月です。


 『繕い屋 月のチーズとお菓子の家』から二年、待望のシリーズ第二弾です。ちなみに前作の紹介はこちら。


2017年12月26日の日記
『繕い屋 月のチーズとお菓子の家』
https://babahide.blog.ss-blog.jp/2017-12-26


 平峰花はどのような事情で繕い屋になったのか。主人公の過去が明らかにされます。いつも他人のダークサイドに接触しなければならない仕事というのはキツい。まだ若いのにお気の毒というか、これじゃ性格が暗くなるのも仕方ないというか。でもお菓子は美味しそうです。


〔目次〕

「金のうさぎ」
「石の記憶」
「青い花びら」




「金のうさぎ」
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「悪夢を見る人は、とても傷ついていたり、疲弊していたり、心がギリギリまで追い詰められていたりするんです。そして、そういう状態を放っておくと、身体も傷つくというか、ヒビが入るんです。わたしはそれが見える人間で、心の傷を繕って、ヒビを直すことを仕事にしています。繕い屋って言われてます」(中略)
「よくわからないけど、ヒビを直そうとしているってことは、あなたはあたしを助けようとしているの?」
「そうです。悪夢の素を見つけて、それを食べれば、あなたはこの夢を見なくなります」
 またとんでもないことを言われた。食べる? 何を? せめてもっとSFっぽいこと言ってよー。なんかこう、機械でビヤーッて何か照射するとか……これもSFっぽくないか。
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Kindle版No.170


 職場のあれこれで心が疲弊してつぶれかけている女性の前に現れた謎の少女と猫。繕い屋という仕事についてきちんと説明してくれるので、前作を読んでない方でも大丈夫です。


「石の記憶」
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「この石はね、この人の忘れていた記憶なの」
 そう言われても、よくわからない。
「ここはね、この男の人の夢の中なんだよ」
「夢……」
 なんでおじさんの夢の中に僕が?
「この人からあなたは、いつも石を一つ渡されたんだよね」
「うん」
「それは、忘れたい記憶だったの。ていうか、捨てたい記憶? 憶えていると困る記憶」
「……どうして困るの?」
 その質問は、花にすべきか、おじさんにすべきか、秀臣にはわからなかったので、なんとなく空に向かって言った。
「さあ、なんでだろうね?」
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Kindle版No.690


 忘れたい記憶、覚えているとまずい記憶。それを美味しいチョコレート菓子にしてどんどん食べる。とってもメルヘンな物語、かと思ったら、非常にシビアな話です。でも読後感は悪くないので、胸焼けを恐れず食べてみてください。


「青い花びら」
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 どうして苦しんでいたかは、本当は知らない方がいいことなんだと思う。悪夢の素を食べさせないといけないから仕方ないけれど、本当は知りたくないというのが本音だった。千穂の場合、それを聞き出せる時間がなかったということだ。
 だって、人の悩みや迷いは、重い。受け止める必要などないとわかっているが、一時的であっても一緒に持たないとならないのだ。それはたとえ一瞬でも重くて、つらい。
――――
Kindle版No.1722


 両親のこと、謎の一族との関わり合い、猫の(猫なのか?)オリオンとの出会い、そして初めての「繕い」。いよいよ明かされる平峰花の過去。まだまだ謎は数多く残されているものの、暗くてちょっと不気味にすら感じていた主人公に思い入れが出来る大切な物語です。





タグ:矢崎存美
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