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『どうぶつの修復』(藤原安紀子) [読書(小説・詩)]

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宙空に単独で位置することは発生の潜像であり、絶望のまま快活に歩きだした兄妹の握ったてのひらは自立している。硬質にみえて湿度も粘度もあるかれらが地上に位置するためには破壊的な浮力が必要だが、集団に歩調を合わせられないことを卑下する知脳もない。「ぼくらの視力が七色以上を見分けたころ、綿毛のような人智に傷つくばかりが不毛だった」、そうモスキート音で話す。翳のないかれらの下膨れの頬。臆病で慎重、それでいて複雑な階調で眼筋をうごかす。兄妹を見た誰かが思い出したようにデラソーワと発語したことが契機となり、論争がはじまった。主題は、聖なる翼と退廃した言語だという。
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 もともと世界観を共有できない異語を無理やり日本語に変換したようなことばで理解の及ばない壮大な物語を語っているようなそうでもないような、かつて海外翻訳SFというものが放っていたあのときめきを今に伝える、なつかしかっこいい詩集。単行本(港の人)出版は2019年10月です。


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一目でわかることだが緑の生成はじかん軸を食いつくすことで増殖する。
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朱色が黄土色に、黄金色が土気色に、諧調が残滓のほうへ傾きかけています。もう交錯では済まされない、堆積がはじまっているのです。
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 こういう、意味ありげなぐっとくるフレーズが散りばめられた、というかほぼそれだけで構成された、驚くべき作品。不思議なひびきの造語が散りばめられ、よく分からないけどきちんとした設定のある別世界の物語を読んでいるという感触はあるけどやっぱりよく分からない。昔、こういう感じの海外翻訳SFが好きだった。今から思えば、あれは詩として読んでいたのだ。


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緑のファクトとはおそらく、ファクトリー(国家)に疲憊した修復師たちがもどってきてリハビリテーションする場所である。偽証に溢れた地上では自己解析についての臨床例など吐き捨てるほどあるのだが、六角形の、あるかなきかの天上では、擦り切れるまで磨耗した固有名詞が光りを内包し、霧散している。地底から汲みあげられた古い水は愛すべき小もの(じぶん)の名ではなく能力別のIDへ記載され、スタンプとして登録された。一連の行程を、半永久的ユートピアふう心象スケッチといわれてなお修復師が平気でいられるのは、グレーのなかでも一等古い水を含む緑があみはじめられているからである。円環という古代の文字が、まだ湿度のある表皮に彫られているためでもある。
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涌くようにあがる調音のボールは縦横無尽に廻らされ
すべての星をすくえるほどに細かいあみ目は、交差を無限にくりかえしても
縺れないと、舞いちる自身がしっている。からまないのも人道のルール? でも
ないね、方向性の問題だろう。二次元でみれば接点、三次元ならおさえた穴
四から六は逆算のブーメラン、八なら一族一家のピラミッド
ほら、喪木のほとりから、石火のおしゃべりがきこえる
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キュポスを引くチェーンの爆音とともに到着し、なだれ込んだ先、最上階へと最初に飛び降りたのは虚言クジラを自称するひとりの賢者だった。汚濁した霧状のすすのなかを勇敢にも搔きいって行く。二番手で追う毛むくじゃら(翼ナシ)は、前進をはばむような濁声がしたので振りかえる。背後から、栗毛とどんぐり目はよばれびとのようでもほかはまったく似たところのないデラソーワが、白衣をまとって近づいてきた。ヴォイドの方角からだった。きのうデラソーワはエキップにいた、百年前は飛行場からジョンドウンを見送った、ここ数年の赴任地であるここでは翼の研究をしている。油断している。
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