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『結局,ウナギは食べていいのか問題』(海部健三) [読書(教養)]

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 ニホンウナギが絶滅しない可能性はあります。しかし、だからと言って現状を放置することはリスクの高い博奕にすぎず、そのような博奕を受け入れる社会は、健全とは言えません。ある程度の不確実性はあっても、絶滅リスクを回避するために、予防原則に従って「ニホンウナギは絶滅するかもしれない」と考え、適切な対応をとる必要があります。
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単行本p.16


 ウナギは絶滅危惧種。いやいや漁獲高が減っているだけでウナギが減っているという証拠はない。食べるなんてとんでもない。いやむしろ食べて応援すべき。密漁を取り締まれば、稚魚を川に放流すれば、石倉カゴを設置すれば、完全養殖が実現すれば、それで解決する問題でしょう。いやいや多国間の取り決めやワシントン条約こそが大切。何となくモヤモヤが晴れないウナギ問題に関して、現時点で可能な限りの科学的知見と社会状況解説をQ&A方式で分かりやすくまとめた一冊。単行本(岩波書店)出版は2019年7月です。


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 ウナギの問題は、小さく見れば多様な問題の1つにすぎません。しかし、さまざまな要素を内包しているうえ、日本では社会の注目を集めるため、河川環境の問題や生物資源の持続的利用に関する問題、密漁や密売の問題を解決に向かわせるシンボルになりえます。ウナギの問題を解決することが、同じような問題を抱えている別の魚種、別の生物資源を守ることにつながるかもしれないのです。
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単行本p.vi




[目次]

1.ウナギは絶滅するのか

 ・ウナギは絶滅危惧種なのですか?
 ・ウナギはどの程度減っているのですか?
 ・なぜウナギは減ったのでしょうか?
 ・ウナギは数が多いから絶滅しない、という話を聞きましたが……
 ・結局のところ、ウナギは絶滅しますか?

2.土用の丑の日とウナギーーウナギを食べるということ

 ・なぜ土用の丑の日にウナギを食べるのですか?
 ・我々は、どのくらいウナギを食べているのでしょうか?
 ・ウナギを将来もずっと食べ続けることは不可能なのですか?
 ・安いウナギを食べるのは,よくないことですか?
 ・ウナギの代わりにナマズを食べればよいのでしょうか?
 ・結局のところ、土用の丑の日にウナギを食べてはいけないのですか?

3.ウナギと違法行為ーー密漁・密売・密輸

 ・法律に違反したウナギが売られている、って本当ですか?
 ・なぜ違法行為が行われるのですか?
 ・密漁や密売は暴力団がやっているのですか?
 ・シラスウナギはなぜ密輸されているのですか?
 ・法律に違反することと、ウナギの減少に関係はありますか?
 ・ウナギをめぐる違法行為は根絶できますか?

4.完全養殖ですべては解決するのか

 ・完全養殖とはどんな技術ですか?
 ・完全養殖が実用化されれば、天然のシラスウナギを捕らずにすみますか?
 ・完全養殖によって、どんな問題が解決されるのですか?

5.ウナギがすくすく育つ環境とは

 ・ウナギは川に戻ってくるのですか?
 ・ウナギが川で成長するにあたって、最も大きな問題は何ですか?
 ・ウナギを増やすには、「石倉カゴ」がよいのですか?
 ・どうすればウナギの住む環境を守れますか?

6.放流すればウナギが増えるのか

 ・なぜウナギを放流するのですか?
 ・放流すればウナギは増えますか?
 ・子供たちがウナギを放流することで、環境学習の効果が期待できますか?
 ・結局、ウナギの放流は行うべきですか?

7.ワシントン条約はウナギを守れるか

 ・ワシントン条約とは、どんな条約ですか?
 ・ニホンウナギの取引はワシントン条約で規制されるのですか?
 ・ワシントン条約でウナギを守ることはできますか?

8.消費者にできること

 ・行政は、ウナギの問題にどう対応していますか?
 ・政治は、ウナギの問題にどう対応していますか?
 ・消費者にできるのはどんなことですか?
 ・どんなウナギを選べばいいですか?




1.ウナギは絶滅するのか
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 リョコウバトの絶滅でも明らかなように、個体数が多いから絶滅しないとは言い切れません。むしろ個体数の多い生き物の場合は、「個体数が多い」状況が維持されなければ生存できない、という可能性すら考えられます。個体数の減少がある限界を超えたとき、一気に崩壊して絶滅に至る可能性があるのです。(中略)現在のところ、近い将来ニホンウナギがこの限界(ポイント・オブ・ノーリターン)を超えるのか、判断に必要な情報はありません。しかし、その生態とアリー効果を考慮したとき、ニホンウナギがある瞬間から急激に減少し、崩壊へ向かうことは十分に想定できるのです。
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単行本p.14


 ウナギは本当に絶滅するのか。現状、科学的にどこまでのことが判明しているのかを詳しく解説します。


2.土用の丑の日とウナギーーウナギを食べるということ
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 適切な消費量の上限が設定されていれば、値段や食べる時期など、食べ方は個々人がそれぞれの価値観に基づいて決めるべきことです。(中略)消費に関する最大の問題は、適切な消費量の上限が設定されていないことにあります。現在必要とされていることは、早急に適切な消費量の上限を設定し、誰もが後ろめたさを感じることなくウナギを消費できる状況を作り出すことです。
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単行本p.28


 日本人の食生活とウナギの関係について詳しく考えてみます。


3.ウナギと違法行為ーー密漁・密売・密輸
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 2015年漁期に国内の養殖池に入ったシラスウナギ18.3トンのうち、約7割にあたる12.6トンが、密輸、密漁、無報告漁獲など違法行為を経ていると考えられます。これら違法行為を経たウナギと、そうでないウナギは、シラスウナギが流通される過程や養殖の過程で混じり合い、出荷される段階では業者でもほとんど判別できません。(中略)シラスウナギの密漁や密売は、ウナギに関連する産業界ではごく当たり前のことであり、シラスウナギをスムーズに入手させてくれる「必要悪」だと信じられています。
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単行本p.32、38


 密漁などウナギに関する犯罪とその背景、影響について詳しく見てゆきます。


4.完全養殖ですべては解決するのか
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 今後、技術の革新が進み、ニホンウナギ人工種苗の商業的利用が可能になったとしても、費用対効果の面で人工種苗が天然のシラスウナギを凌駕する日は、さらにずっと後になるか、永久にやって来ないかもしれません。また、もし人工種苗が商業化されても、現状では天然のシラスウナギの漁獲量を削減する効果は期待できません。
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単行本p.55


 ウナギの完全養殖の現状と今後の見通しをまとめます。


5.ウナギがすくすく育つ環境とは
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 ニホンウナギは海の産卵場に集まって産卵し、その子どもは東アジアの各地へ分散します。ニホンウナギのこのような性質は、この魚の管理や生息環境の回復を難しくします。(中略)ある地域でウナギを取り尽くしたとしても、次のシーズンには産卵場からシラスウナギが運ばれてきます。このため、ウナギは保全のための努力が報われにくいのです。
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単行本p.59


 ウナギが成長しやすい河川環境を守るにはどうすればいいのかを考えます。


6.放流すればウナギが増えるのか
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 「放流すれば魚が増える」という考え方は非常にシンプルで説得力があります。しかし、現実はそう単純ではなく、放流はむしろ有害である可能性も高いということが、近年の研究で明らかになってきました。それでも放流が盛んに行われる背景には、放流に関する情報、特に放流がもつ負の側面が、適切に伝達されていないことが挙げられます。
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単行本p.81


 川に放流することでウナギを増やそう、という素朴な考えにはどのような問題があるのかを見てゆきます。


7.ワシントン条約はウナギを守れるか
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 ワシントン条約に頼らなくとも、科学的な知見に基づいて、適切な消費量の上限を設定すれば、過剰な漁獲を抑制し、ニホンウナギを含むウナギの仲間を持続的に利用することは可能なはずです。しかし、第2章で説明したように、現在のニホンウナギの消費量の上限は過剰であり、消費を抑制する機能を果たしていません。また第3章で紹介したように、シラスウナギの漁獲と流通には違法行為が蔓延しています。現状では、適切な管理が行われているとは言えません。このような状況が継続すれば、強制力を伴った国際的な枠組みであるワシントン条約による規制を望む声は、必然的に大きくなるでしょう。
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単行本p.93


 ワシントン条約でウナギを守ることが出来るのか、それは望ましいことなのかをを考察します。


8.消費者にできること
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 水産行政に関わる人間がそろって極悪人で、業界からの賄賂を懐に入れ、ニホンウナギを絶滅に追い込むことに至上の喜びを感じているという状況は、どう考えてもありえません。私の知る限り、水産行政の方々は、可能であればウナギの持続的な利用を実現したい、と考えています。
(中略)
 水産行政の科学的知識の欠落は、科学的な知見に基づいて問題を解決しようという姿勢が欠けている、という根本的な問題も関係している可能性がありますが、おそらくは主に、人員というリソースの不足によるものでしょう。
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単行本p.97、98


 行政や政治がどれほどウナギ問題に取り組んでいないのか、そして消費者に出来ることは何かを探ります。



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