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『THE GREAT TAMER』(ディミトリス・パパイオアヌー) [ダンス]

 2019年6月30日は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行ってディミトリス・パパイオアヌーの公演を鑑賞しました。10名の出演者による95分の舞台です。

 舞台上には、たくさんの板を重ねて置いて作った「奥が盛り上がっていて観客席に向かってなだらかに下ってゆく丘」のような斜面が作られています。ここがステージとなります。

 開演時刻になる前から、すでに一人の出演者が渋いスーツ姿で立っています。気取った仕草で服を調整したり、観客に向かって目線を投げたりして、段々と親しみが湧いてきます。この人が主役なんだろうか、とか思っていると、いきなり全裸になって股間を観客席に向けた姿勢で「丘」の斜面に寝ころがって、これはとても遺体。

 この「遺体」に白い布をかけて隠そうとする出演者と、その布を吹き飛ばして遺体をあらわにしようとする出演者の、機械的なまでのフリップフロップが執拗に繰り返され、横たわっている人が遺体どころかただのモノに感じられるようになってゆきます。さっきまで親しみを持っていたはずの人が。

 人や遺体から尊厳を剥ぎ取ってモノ扱いしたり、バラバラにしたり(巧みな演出で人体をばらばらにしたり、人体を継ぎ接ぎ再構成したりする)、しまいには解剖して皆で食べてしまったりといった悪趣味な演出を、いちいち西洋絵画の有名作品になぞらえて美しく見せてしまうところが強烈。よく考えたら、そもそも西洋絵画とくに宗教画って、たいてい悪趣味で暴力的で猟奇だよな。

 「丘」には、下から出入りできるようにあちこちに穴が用意されていて、遺体を掘り出したり、泉が湧いてきたり、ふと気がつくと出演者が下から這い出てきたり、とにかく次に何が起きるのか予想がつかず、緊張を強いられます。

 プロットは特にありませんが、ろくな扱いを受けられず人としての尊厳を奪われた遺体が地面の下でばらばらになっているという状況に対する怒りや悲しみは一貫しており、宗教的なモチーフが繰り返されます。

 個人的に最も印象的だったのは、いきなり宇宙飛行士が登場して「丘」が月面になるシーン。二人の出演者が向かい合ったままアクロバティックに身体を浮かせて脚をゆらゆら浮遊させる、といった低重力の動きと演出が素晴らしく、さらに月面を掘ると遺体が出てきて、そこから宇宙飛行士が脱衣して、ここぞというタイミングでピエタ、という流れには感服させられました。そのあとの展開もえぐい。



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