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『世界樹の素描』(吉岡太朗) [読書(小説・詩)]

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世界樹のこれから描こうとするもんとかかれるもんのあわいに繁る
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 アイルランドの妖精からキングギドラ菩薩まで。おやじ関西弁さえわたる歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2019年2月、Kindle版配信は2019年6月です。


 まず最初に出会うのは、一人称「わし」に関西弁という、アイルランドのおやじくさい妖精。誰かにひっついて日本までやってきてぼそぼそ呟くのです。


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みずうみのほとりの町へおりてゆく夜空に翅をひろげてわしは
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電話する君の肩へと腰掛けるどっこらしょとかゆわへんように
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写真にはアイルランドの海岸と君とほんまは肩に乗るわし
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なんかようわからんけれど泣いてきた様子やブーツ脱いどる君は
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ねむる君 家事は禁止とされとるがぶどうの皮をかわりにほかす
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君の見る夢んなかにもわしはいてブルーベル咲く森をゆく傘
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みどりいろの飛行機 君の夢んなかのアイルランド旅行が終わりをむかえ
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君がだんだんわしと話さんようになるそしてはじめて降る雪の夜
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もう夢に入れんくなり寝るすがた見とると案外ねぞうがわるい
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そうやってわしが見えんくなるまでの梅のつぼみの雪にふくらみ
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 関西弁の威力すさまじ。同じ勢いで、関西弁による情景描写。


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敷石がはがれて空がみえとるとおもうたら三月のみずたまり
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ゆうぐれをポストの上で過ごしとるポストのうえは見晴らしがよい
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帰りきて回すつまみにガスが火をともしおえたるまでの力みは
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クレーンは夜更けんなるとあらわれてゆうたら町のみる夢やろう
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 突然、はっとするような発見があったり。


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街灯にあつまってくる自動車はみな腹這いにねむるけものや
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中指のあらん限りを立てている松のさびしき武装蜂起は
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わしよりも闇のふかさをわかっとる封のなかなるポテトチップは
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中空に尻をとどめておくもんを前提として机ゆうんは
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なぜこんな大虐殺のじゃこを見てわしのこころは動かへんのか
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 どんどん調子に乗ってゆきます。


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こんなにも余白を背負いこまされて歌集の歌はしんどいやろう
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とうだいのねじれゆくたびゆうれいがざんぎょうだいをわりましにくる
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洞窟をたまの散歩にだしてやる洞窟用のリードをつけて
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すれちがうおとこも洞窟連れておりたがいのうつろしばし見せ合う
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 特に強烈なのは、降下、托鉢、半跏、仁王といった仏教用語の関節を外すような一連の作品。


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念仏をくちにしながらパラシュート菩薩部隊が降下(こうげ)してくる
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腕のない菩薩が首のない菩薩が町に来たりて托鉢(りゃくだつ)をする
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たくましき咆闘怪(ほとけ)にいつかなりたしと弥勒は半跏でスクワットせり
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合体を終えし仁王が一王となりて真冬の空にたたずむ
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奥底にとどいた声のこだまして念仏を馬の耳がはねかえす
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 なるほど仁王が合体すると一王になるのか。

 最近、キングギドラが登場するたびに般若心経の読経が大音量で流れる映画を観たので、もう怪獣テーマの作品としか思えない。個人的な話ですいません。



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