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『会いに行って――静流藤娘紀行(第二回)』(笙野頼子)(『群像』2019年7月号掲載) [読書(小説・詩)]

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 文学をやるという事は自分を作るという事、私小説はことに、小説の自分と実在の自分、その両方を厳しく全力で作ってゆくしかない。
 というとなんか人ごとのようだが、いい年をして私でもまだそれをやっている。というか最初に師匠をカッとさせてしまった。あれがもしかしたら私の文学的自我かもしれなかった。
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『群像』2019年7月号p.191


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第126回。


「病名が付いて納得したのはこの病と一生使うしかない薬の作用で、自分が人より早く老けていくしかないという事であった。ならばもう七十だと思って書いてみよう、となった」(『群像』2019年7月号p.185)
 群像新人賞に選んでくれた恩人であり、また師と仰ぐ「私小説」の書き手、藤枝静男。渾身の師匠説連載その第二回。


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 ただしそれはいざ書くと決めたときには、自分の私小説的な自由な見方により、師匠についての勝手な持論を展開していくというものに変容してしまっていた。
 本作は師匠の文章の引用をその中核とし、さらに、重要なリアリティを描写ではなく引用で示していくものだが、にも拘らず、研究ではなく、論考でもなく、しかも評伝とは言えないほど偏ったものだ。
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『群像』2019年7月号p.186


 師匠と一度だけ体面したときの記憶から、『志賀直哉・天皇・中野重治』の引用を核として、天皇に対する師匠の怒りについて書いてゆきます。


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 で、第二回(と第三回)は、そういう師匠の残した、天皇についての記述を引用して、目の前のあの不毛な改元について追いかけてみる。つまりかつて師匠の危惧した人間天皇のあり方や天皇の発言への怒りを引用していく。
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『群像』2019年7月号p.187


 天皇制批判は簡単ですが、問題は、天皇制をめぐる言説はそれこそ簡単に捕獲され、いいように分断に利用されてしまうということ。


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 師匠は天皇制をそのままは攻撃しない。なぜなら、人間が一筋縄でいかない事をしっているからだ。同時にあの天皇も人間だ、という捕獲装置的な視点を彼は知り抜いている。
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『群像』2019年7月号p.193


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 次回も書くけれど、ここにまず書いておく。志賀は特権階級で天皇に親しく、既にそこに捕獲されてしまっているのである。なので制度と知り合いを分ける事が出来ない。一方中野は人間と制度をきちんと分けている。しかし分ける事によって、人間をその行為ではなく人間性によって判断するという、文学としてもっとも適切な行為を禁じられてしまったのである。これもまた政治に捕獲されてしまった。
 噫、平野も師匠も本多も好きな、大切な志賀さんと大好きな中野、それをなんという悲しい分断であろう。もしもこの優れた二人を分断させる相手方をロコツに書くなら、この師匠の題名は「志賀直哉・人間性・中野重治」になっていたかもしれない。
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『群像』2019年7月号p.200


 天皇個人の人間性という話題。そこにある捕獲装置的なものを、笙野頼子さんは、前の改元のときに、既に書いているのです。三十年前の改元小説『なにもしてない』に。


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 リセット元年、ゼロ和、しかしなんであれ政権の行いは前の改元時をなぞるだけだ。つまり君主の人間性というものをいま正に話題にして来ている。しかも皇族のドレスの色とかと交えてである。しかしそんな皇族のドレスの色がどういうものかを、(正確にはドレスではなくスーツなのだが)私は既に三十年前に書いているのである。つまり平成の改元の時に。
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『群像』2019年7月号p.199


 それから三十年たっても同じようなことが繰り返される不毛。そのかげに隠れて何がどう進行しているのかを文学はちゃんと「報道」してるんだから、きちんと読みましょう。


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 改元、それは基地も原発も自由貿易も隠せる、便利なぺらぺらの紅白幕、政府は今きっとここに隠れて何かひどい法律でも通してるに違いない。それは多分、専門家が見ても一瞬では判らないような何かひどい法律。
 連中? 読まないで言うんだな、文学は、文学はって、どこにでもそんなやつ昔からいたけれどどうせ今もきっと読まないで「文学は年号について何も言わない、僕は文学は判らない読まないけど」って言いながらどうせこそこそサブカル年号の本でも出して生きているはずだよニセ文学は。
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『群像』2019年7月号p.196


 というわけで、師匠の怒りを引用しながら、師匠のことだけでなく、自身のこと、今のこと、目の前のことを書く。師匠説にして私小説でもある連作は、第三回に続きます。



タグ:笙野頼子
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