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『明け方の狙撃手』(夏野雨) [読書(小説・詩)]

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                          いつか証言
台に立つときがきたら、胸に手を当てて告白する。赤いペンキを、ば
らに塗ったのはわたし。電車のこない地下鉄の駅で、ふるい切符を切
りつづけている。もう沈没した船がついて、岸を離れる。りんかくだ
けがのこっているから、心臓のままに鳴りつづける。あかるく、しろ
く、すべての色が失われても、しゃべりつづけるのをやめないでほし
い。尻尾を上げろ、ちいさなねずみ。明け方の狙撃手。きみがあけ
た、ほんのすこしのまるい夜空は、せかいじゅうで誰も知らない。
――――
『明け方の狙撃手』より


 尻尾を上げろ、ちいさなねずみ。明け方の狙撃手。
 軽快なビートを刻みつつ疾走する言葉が第二宇宙速度に達するリズミック詩集。単行本(思潮社)出版は2018年12月です。


 個人的に、宇宙に関連する言葉が入っている詩に弱いのです。ほぼ反射的にかっこいいと思ってしまう。


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ケンタウリ、アルファは三連星です。三つの重力がきょう
もながい鎖編みをしています。彼らが地球に及ぼす力はい
ま天文学者に問い合わせ中ですがみなみじゅうじせいのガ
イドとしてはとても優秀です。でもこの町でそれをみるこ
とはできません。あしのうらでかんじるだけです。インタ
ーネットで指名すれば本は買えますがこのよでいちばん売
れているばあいさまざまなバージョンがありすぎてこまり
ます。
――――
『ケンタウリ、アルファ』より


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今夜 靴を移植する
僕もまた吸い込まれる
事象の地平面
電話機の穴にも誰何されない
ブラックホール間際では
物質は停止して見える
書かれた住所は筆跡でしかない
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『ホール』より


 エントロピーもりもり増えまくるひらがなのちから、そういうのもかっこいいのです。


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いつも かんえがて いる とめういな かお をして
かりもの の たまんつ の まっねこ スパイ の
ひみつ つしうん
へしんん は かっえて きても かっえて こくなても
いい *# ひごとみ を すぬりけて すちれがう とき
みぎ か ひだり で ちうょしょく の ゆたでまご
みたいに われて あ みぎ だたっね きみ って
わかる くいらの はんぶん

舌にふれる塩がしょっぱいたいよう

――――
『中洲』より


 言葉のスタッカートが小気味よく、そうだあと宇宙だけでなくけなげな翼竜にも弱いのだった。


――――
みどりいろの目をした翼竜は、脊椎動物のなかでいちばんは
じめに空をとんだ。地面にいるものたちと分かれて。仲間は
ずれのまま。そしてたいようがしんだとき、墜落して、みん
ないっしょにぜつめつした。その目がひらいて、とじるとき、
けしきはにどあかくうるんだろう。わたしはそのどちらもし
らない。ここはあお いうみ の まんなかで まだみえな
い朝と夜とのさかいめ。ねむるねむるちへいせん。
――――
『あおのせなか』より


 クールな詩集なのですが、ところどころ意外にウェットというか妙に感傷的な箇所があって、それもまたかっこいいと思ってしまう。


――――
いつか太陽がしんだら、あおむしはどうする? そんな
質問をなんども、かさねあわせながら、夜がねむっていく。
あおむしの青はブルーで、草原はグリーン。視界はクリア。
みはらしのよいけしき。
――――
『あおのせなか』より


――――
そして
もういちど渦巻きがはじまって
わたしたちは目撃する
みじかいひかりを
――――
『中央平原より』より



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