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『SFマガジン2019年6月号 追悼・横田順彌』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2019年6月号の特集は「追悼・横田順彌」でした。1月に死去した横田順彌さんを振り返ります。


『かわいた風』(横田順彌)
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 かれがもし宇宙放浪者などではなく、地球の調査を目的とした調査隊の科学者であれば、この灰濁色の建物がこの滅びさった星の住人たちを知るために、いかに重要なものであるか理解できたかもしれない。しかし、ロアは単なる宇宙放浪者でしかなかった。
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SFマガジン2019年6月号p.16


 人類存続のために、核戦争で滅びる直前に行われた絶望的な試み。遠い未来、一人の宇宙放浪者がその痕跡に触れる。並行して進む複数のプロットが最後に結びつく短編。


『大喝采』(横田順彌)
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「あれは、いったいなんだったのだ……」
 春浪が、これまで何回いったか分からないことばを、また吐き捨てるようにいった。
「分かりません。ぼくも確かに裏映しの活動を、ほんの数分かもしれませんが見ました。時子さんも同じことをいっています。でも、理由はわかりません」
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SFマガジン2019年6月号p.33


 活動写真のヒルムが裏映しに上映されるという椿事、その背後には超常的なものの片鱗が。押川春浪とその知人たちが活躍する著者お得意の明治SF。


『ムジカ・ムンダーナ』(小川哲)
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「なあ、ダイガ。お前はこの島に何をしに来た?」
「ある音楽を聴きに」
「どんな音楽だ?」
「この島でもっとも裕福な男が所有していて、これまで一度も演奏されたことがないという、歴史上もっとも価値のある音楽だよ」
「聴けるといいな」とロブが笑った。
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SFマガジン2019年6月号p.199


 島民それぞれが「音楽」を所有しており、それを「貨幣」「財産」として使うという独特の文化を発展させたルテア族。これまで一度も演奏されたことがないという「最も価値が高い音楽」を求めて島に渡った音楽家は、そこで自分の父が遺した音楽の秘密を知る。宇宙を体現するものとしての音楽をテーマにした音楽SF。


『ピュア』(小野美由紀)
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 人類全員が抱える同じ営みから、私は逃れられない。みぃんな同じ、誰かか誰かか誰かか誰か、どうあがいても、他の誰かがやってることを、そっくりそのまま繰り返すしかない。それが正義でそれが倫理。今は、男よりも女がエライ、女のほうが人生得だってみぃんな言うけれど、男も女も、その意味では同じじゃないか。クニを守って男食って、子供産んで、それで終わりは名誉の戦死、それが私たちの使命です、なんて、なんだかとってもイケてない。
 名誉女性になんて、別になりたくない。けど、それ以外の何かになる方法を、今の私は知らない。
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SFマガジン2019年6月号p.220


 男を狩っては殺戮交尾して喰う(そうしないと妊娠しない)ことが当たり前になった時代。女は戦争してクニを守り、男を喰い殺して子供を産む。女に喰われるのが男の幸せ。喰われない男は残飯あつかい。それこそが人間の自然なありかたというものです。世間のルールに沿ってひたすら殺戮と交尾に励む友達のなかにあって、語り手の少女は悩んでいた。ある男を好きになってしまったのだ。喰いたい、殺したい、でも、一緒にいたい……。

 性差別の「根拠」はつまるところ肉体的な強弱だけ。ならそれを逆転させればどうなるか。そういう視点から様々なジェンダーSFが書かれていますが、『ジュラシックパーク』におけるヴェロキラプトルなみの肉体的パワーと攻撃性を持った女たちが圧倒的暴力により男たちを殺戮交尾、性暴力が社会制度に組み込まれているという本作の設定は、最もストレートでピュアなものかも知れません。


『鬚を生やした物体X』(サム・J・ミラー、茂木健:訳)
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 自分のなかになにかが潜んでいることを、マクレディは自覚している。それは、いつも心の片隅で見え隠れしており、その声は遠い谺となって聞こえてくる。失われた時間と、点々と残る瓦礫の山。
 マクレディは、自分がとてつもなく獰猛な狂人ではないかと疑っている。ときどき意識を喪失するのだが、そのあいだに身の毛もよだつような罪を犯し、その痕跡を消しているのではないかと思ってしまう。
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SFマガジン2019年6月号p.247


 壊滅した南極基地からニューヨークに戻ってきたヘリ操縦士のマクレディ。あそこで何があったのか、記憶がすっぽり欠落している。だが、自分がときどき意識を失い、周囲の人が行方不明になることに、漠然とした不安を持っている。自分のなかに化け物が潜んでいるような気がする。だが、それなら自分以外の人々は、はたして人間なのだろうか。

 家族や親戚の人が突然、差別意識をむき出しにした言葉を「悪意なく」言い出すときの困惑。親しい友人や恋人がSNSで暴言を吐いていることに気づいたときの衝撃。そして自分も意識せず差別や憎悪を誰かに向けているに違いないという不安。誰の心にも潜んで暴力を煽っているものを、もともと共産主義への恐怖から生まれたのであろう「遊星からの物体X」に託して語る物語。


『博物館惑星2・ルーキー 第七話 一寸の虫にも』(菅浩江)
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 ――あなたの微表情や拍動パターンが、他の人の緊張とは違っています。こちらへの伝達レベルに満たない意識の気配からしても、あなたは虫が……。
 ――言うな!
 健は鋭く〈ダイク〉を制した。
 孝弘ですら身構えているほどの事態なのだから、個人的なトラウマと向き合ってはいられない。ただひたすらに手を握り合わせて、自分はVWAだ、虫なんか怖くない、と言い聞かせ続けるのが最善の策。
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SFマガジン2019年6月号p.345


 既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。そこに遺伝子改変された虫が放たれた。もし繁殖してしまったら、閉鎖空間でかろうじて均衡を保っている生態系にどんな壊滅的被害が出るか分からない。速やかに駆除しなければならないが、警備担当である主人公は、虫に単するかなり強い恐怖症を持っていたのだった。やばーい。
 若き警備担当者が活躍する『永遠の森』新シリーズ第七話。



タグ:SFマガジン
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