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『七人のイヴ (3)』(ニール・スティーヴンスン、日暮雅通:翻訳) [読書(SF)]

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 一同はその場で黙ったまま数分立ち尽くすと、遺物について考えながら、それを手から手へと渡していった。製造された工場、設計したエンジニア、トラックを組み立てた作業員、それを運転した運転手、そして〈ハード・レイン〉が始まった日のことを。そうしてわかったのは、70億人の運命を想像することは、ひとりの運命を想像することよりも、はるかに心を揺さぶらないということだった。
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新書版p.212


 〈ハード・レイン〉から5000年後。七人のイブたちの子孫は軌道上で繁栄し、七つの人種を合わせると最盛期の半分にまで人口が回復していたが、人種間の複雑な関係から政治的いざこざは絶えず、ある種の冷戦状態が続いていた。そんなとき、七つの人種から一人ずつ代表を集めたチーム〈セブン〉が結成され、極秘の任務を果たすために地表に降りることになった……。ニール・スティーヴンスンのハードSF大作、その第3巻、最終巻です。新書版(早川書房)出版は2018年8月、Kindle版配信は2018年8月。


 連続的な巨大隕石落下〈ハード・レイン〉による人類滅亡。軌道上で生き延びた人々も次々と命を落とし、最終的に子孫を残せたのは七人の女性だけ。ちなみに第1巻と第2巻の紹介はこちら。


2019年01月21日の日記
『七人のイヴ (1)』
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2019-01-21

2019年01月31日の日記
『七人のイヴ (2)』
https://babahide.blog.so-net.ne.jp/2019-01-31


 本書はその続きで、第2巻の終りから5000年後が舞台となります。前巻までに語られた〈ハード・レイン〉前後の出来事は、監視カメラに残された詳細な映像記録が伝えられており、5000年後の今も何度も繰り返し再生され、論じられ、会話の一つ一つが引用されている。これ、想像するとちょっと嫌な気分になるなあ。


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 そのときの会話の一部は、現代の話し合いの場でもよく引用されている。
 キャス・ツーは、いつものように思った。〈エピック〉の人々は、5000年後に何十億もの人々が自分たちのことをビデオの画面で見たり、例に挙げたり記憶から引用したりすると知っていたら、同じことを言ったり行なったりしただろうかと。
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新書版p.97


 人類は七人のイヴたちを始祖とする七つの人種に分岐し、静止軌道上に建造された巨大なリング状の「都市」で暮らしています。人口は増加し、今や30億人に達しました。


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 本質的に、全人類30億人が住んでいる世界は、“上”から表現すると(北極のはるか上空から全体を「見下ろす」と)、直径がおよそ8万4000キロに及ぶ、髪の毛のように細い環(リング)である。これは、その中心にある青と白の惑星の直径のざっと7倍だ。
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新書版p.31


 さらに、〈ハード・レイン〉の影響を終息させ、地球環境を安定させるための再テラフォーミングが続いています。


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〈ハード・レイン〉は最初は徐々に減少し、第四ミレニアムに、洞窟から出てきたコウモリのようにニッケルと鉄の要塞から放たれたロボットの大群が空の一掃を始めると、急激に減少した。ロボットたちは瓦礫の雲をかたづけ、微小片や小石を集め、それらを静止軌道上から制御された軌道へと螺旋状に落としたのだ。これらの作業の大半は太陽光の圧力を用いて行なわれたが、これは効果が出るまでに数百年を要する、弱い推進力によるものだった。
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新書版p.33


 地表の自然環境も回復してきており、もうすんなり地表に戻ればいいかというと、そこは様々な政治上の対立が起きているのです。また、七つの人種間にある複雑な関係、政治軍事にまつわる緊張関係が、大きな影を落としてきます。


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 最初の数世代のうちに明らかとなったのが、七つの人種は永遠に残るということだった。足の指の爪や脾臓と同じく、人間の実態において永続するのである。それに関しては公式の政策があったわけではなかったが、人々は移動することによって意思を表明した。
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新書版p.34


 そんな時代に、七つの人種から一人ずつを選んで集めたチーム〈セブン〉が結成され、地表に降りることに。メンバーの大半が目的を知らない極秘任務……。

 というのは建前で、実のところ読者には薄々どういう事情なのか推測できてしまうでしょう。何しろ前巻で印象的に書かれていた伏線が回収されないまま残されているので。



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