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『滑走路』(萩原慎一郎) [読書(小説・詩)]

 非正規社員として使い捨てにされる若者が短歌にかけた思い。J-POP歌詞をめざしてもがいた記録のような悲しみの歌集。単行本(KADOKAWA)出版は2017年12月、Kindle版配信は2018年10月です。


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箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる
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シュレッダーのごみ捨てにゆく シュレッダーのごみは誰かが捨てねばならず
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コピー用紙補充しながらこのままで終わるわけにはいかぬ人生
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階段をのぼりくだりて一日のあれこれあっと言う間に終わる
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ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる
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頭を下げて頭を下げて牛丼を食べて頭を下げて暮れゆく
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 労働疎外と未来の見えない生活の苦しみをストレートに訴えるような作品が並びます。


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この街で今日もやりきれぬ感情を抱いているのはぼくだけじゃない
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目の前をバスがよぎりぬ死ぬことは案外そばにそして遠くに
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今日という日を懸命に生きてゆく蟻であっても僕であっても
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夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから
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今日も雑務で明日も雑務だろうけど朝になったら出かけてゆくよ
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 屈託のなかで何とか生きようともがく若者の、無理やり前向きなJ-POP歌詞調の言葉がやるせない。


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きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい
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空を飛ぶための翼になるはずさ ぼくの愛する三十一文字が
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抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ
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達成はまだまだ先だ、これからだ おれは口語の馬となるのだ
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クロールのように未来へ手を伸ばせ闇が僕らを追い越す前に
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もう少し待ってみようか曇天が過ぎ去ってゆく時を信じて
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 あえてベタな表現を多用することで、メジャーになりたい今の生活から脱出したい、という切実な気持ちが伝わってきます。実際にはそうはならなかったという結果を知って読むと、やりきれない悲しみが残る歌集です。



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