『職業、女流棋士』(香川愛生) [読書(随筆)]
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思い出そうと思えばどの経験も昨日のことのように思い出せます。自分への怒り、はらわたの煮えくり返るようなマグマのような感情が押し寄せてくるのです。でも感情に流されていては、感情的な将棋しか指せません。傷はうまく意識から消すことも大切です。時間がやわらげてくれた深いところに眠っている傷がたくさんあるのです。きれいごとのように決着をつけることはできませんし、過去は昇華できても消化はできません。
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新書版p.107
囲碁界にはなく将棋界だけにある「女流棋士」という職業。女流棋士・香川愛生女流三段が、自身の人生と生活について語った一冊。新書版(マイナビ出版)出版は2018年8月、Kindle版配信は2018年8月です。
[目次]
第一章 女性棋士とは
第二章 女流棋士になるまで
第三章 対局
第四章 女流タイトル戦
第五章 勝負への思い
第六章 普及活動
第七章 教養・趣味
第八章 将棋界に生きる女性として
終章 女流棋士の未来
第一章 女性棋士とは
――――
皆さんが囲碁の先生がたをお呼びになるときは、わざわざ「女流」とつける必要はありません。
男女平等を実現している囲碁界は素直に羨ましく、素晴らしい環境だと思います。
(中略)
女流棋士第一号だった蛸島彰子先生も、もとは奨励会の出身ですが、当時の記事で、男性奨励会員からの目線の厳しさを指摘しています。「孤独だった。戦う以前の問題だった」という当時の観戦記のことばからは、ただでさえ過酷な奨励会で、ひとりで多くを背負っていたことが窺えます。いま在籍している女性奨励会員も、決して変わらないと思います。
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新書版p.22、23
将棋界における女流棋士の立場について率直に語ります。
第二章 女流棋士になるまで
――――
このおじいちゃんとの出会いがなければ、私はプロになることはありませんでした。
のちに聞くと調布市屈指の強豪で、段位にしてアマチュア六段。県代表相当の、プロとも渡り合える実力です。柴崎にある将棋道場で、63連勝という驚異的な記録を打ち立てたとか。またウソのようなホントの話なのですが、中盤で相手が投了したときに局面をひっくり返し、敗勢の側から指し直し、もう一回勝ったという逸話もお持ちです。
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新書版p.40
将棋との出会いから女流棋士になるまでの歩みを語ります。
第三章 対局
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10時に対局が始まる場合は9時40~50分ごろに入室される対局者が多いです。将棋会館の最寄り駅は総武線の千駄ヶ谷駅と、副都心線の北参道駅。朝は混雑や遅延があるので、早めの行動をとるに越したことはありません。多くの棋士が寝坊や遅延で不戦敗になる悪夢を見ると語られているので、朝は気が張っているかもしれませんね。最近はスマートフォンを含む電子機器はすべてロッカーに預ける規則になっていますし、金属探知機による手荷物検査が実施される場合もあるので、いままでより早めに将棋会館に着くよう行動しているかたも。
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新書版p.60
対局はどのようにして行われるのかを語ります。
第四章 女流タイトル戦
――――
棋道を志す者であればだれもが目指し、憧れるなかで、一握りの人間しか手にすることができない称号がタイトルです。実績によって評価が決まる勝負の世界で最も尊重され、その有無だけで人生が一変すると言っていいほど、夢と残酷さを併せ持つものです。一年ごとに行われる番勝負を「人生のかかった」と形容するのは、最も適切な表現でしょう。
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新書版p.80
様々な女流タイトル戦と年間スケジュールなどを語ります。
第五章 勝負への思い
――――
未熟な自分も、荒波に飛び込めば希望が見えてくると信じていました。でも実際には、波に飲み込まれ、闇に飲み込まれる絶望的な日々でした。奨励会での1年半の日々は、後にも先にも、これほどつらかったことはありません。
(中略)
奨励会を退会した前後は最も脆弱な時期でした。細くて繊細な糸が、音もたてずに静かに切れてしまったような幕切れでした。2012年2月、退会。家族にも、棋友にも、恩師にも告げず、奨励会の退会を決めたことは、私にとって自殺を決意したようなものでした。
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新書版p.110、113
勉強、体力づくり、メンタルケア、そして奨励会。自身がぶつかった勝負の厳しさと苦難について語ります。
第六章 普及活動
――――
実は、私自身も今年会社を設立しました。まどかさんをはじめ、他業種で活躍する身近な女性の影響が少なからずありましたが、まぎれもなく新しい挑戦です。まだ事業内容として詳しくお話できる段階ではないですが、将棋にまつわるコンテンツやイベントの企画・プロデュースなど、将棋の普及を主眼とした事業を手がけていければいいなと思っています。
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新書版p.157
指導対局から様々なイベントまで、将棋の普及活動について語ります。
第七章 教養・趣味
――――
学業と将棋の両立は、想像を絶する苦労がありました。実際、入学したものの中退を余儀なくされたプロの例も一人や二人ではありません。タイトルを獲るまで、東京で対局がある日は、キャリーバックを引いて教室に入り、授業を終えたらバスで駅へ移動、新幹線に飛び乗って上京。対局の後は夜行バスで京都に戻り、シャワーをー浴びて一限の授業に出る、という生活でした。
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新書版p.168
大学生活との両立の苦労、ゲームや読書などの趣味について語ります。
第八章 将棋界に生きる女性として
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社会で活躍される女性のかたがたがワークライフバランスを考えるのと同じように、勝負とプライベートとのバランスは、多くの女流棋士が抱える悩みだと思います。妊娠してトーナメント戦に出場する場合は、残念ながら進行の都合で不戦敗を余儀なくされるケースもままあり、いまなお課題が山積しています。
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新書版p.195
結婚や出産による影響など、女流棋士という職業につきものの悩みを語ります。「恋も感想戦ができればいいのに」。
思い出そうと思えばどの経験も昨日のことのように思い出せます。自分への怒り、はらわたの煮えくり返るようなマグマのような感情が押し寄せてくるのです。でも感情に流されていては、感情的な将棋しか指せません。傷はうまく意識から消すことも大切です。時間がやわらげてくれた深いところに眠っている傷がたくさんあるのです。きれいごとのように決着をつけることはできませんし、過去は昇華できても消化はできません。
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新書版p.107
囲碁界にはなく将棋界だけにある「女流棋士」という職業。女流棋士・香川愛生女流三段が、自身の人生と生活について語った一冊。新書版(マイナビ出版)出版は2018年8月、Kindle版配信は2018年8月です。
[目次]
第一章 女性棋士とは
第二章 女流棋士になるまで
第三章 対局
第四章 女流タイトル戦
第五章 勝負への思い
第六章 普及活動
第七章 教養・趣味
第八章 将棋界に生きる女性として
終章 女流棋士の未来
第一章 女性棋士とは
――――
皆さんが囲碁の先生がたをお呼びになるときは、わざわざ「女流」とつける必要はありません。
男女平等を実現している囲碁界は素直に羨ましく、素晴らしい環境だと思います。
(中略)
女流棋士第一号だった蛸島彰子先生も、もとは奨励会の出身ですが、当時の記事で、男性奨励会員からの目線の厳しさを指摘しています。「孤独だった。戦う以前の問題だった」という当時の観戦記のことばからは、ただでさえ過酷な奨励会で、ひとりで多くを背負っていたことが窺えます。いま在籍している女性奨励会員も、決して変わらないと思います。
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新書版p.22、23
将棋界における女流棋士の立場について率直に語ります。
第二章 女流棋士になるまで
――――
このおじいちゃんとの出会いがなければ、私はプロになることはありませんでした。
のちに聞くと調布市屈指の強豪で、段位にしてアマチュア六段。県代表相当の、プロとも渡り合える実力です。柴崎にある将棋道場で、63連勝という驚異的な記録を打ち立てたとか。またウソのようなホントの話なのですが、中盤で相手が投了したときに局面をひっくり返し、敗勢の側から指し直し、もう一回勝ったという逸話もお持ちです。
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新書版p.40
将棋との出会いから女流棋士になるまでの歩みを語ります。
第三章 対局
――――
10時に対局が始まる場合は9時40~50分ごろに入室される対局者が多いです。将棋会館の最寄り駅は総武線の千駄ヶ谷駅と、副都心線の北参道駅。朝は混雑や遅延があるので、早めの行動をとるに越したことはありません。多くの棋士が寝坊や遅延で不戦敗になる悪夢を見ると語られているので、朝は気が張っているかもしれませんね。最近はスマートフォンを含む電子機器はすべてロッカーに預ける規則になっていますし、金属探知機による手荷物検査が実施される場合もあるので、いままでより早めに将棋会館に着くよう行動しているかたも。
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新書版p.60
対局はどのようにして行われるのかを語ります。
第四章 女流タイトル戦
――――
棋道を志す者であればだれもが目指し、憧れるなかで、一握りの人間しか手にすることができない称号がタイトルです。実績によって評価が決まる勝負の世界で最も尊重され、その有無だけで人生が一変すると言っていいほど、夢と残酷さを併せ持つものです。一年ごとに行われる番勝負を「人生のかかった」と形容するのは、最も適切な表現でしょう。
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新書版p.80
様々な女流タイトル戦と年間スケジュールなどを語ります。
第五章 勝負への思い
――――
未熟な自分も、荒波に飛び込めば希望が見えてくると信じていました。でも実際には、波に飲み込まれ、闇に飲み込まれる絶望的な日々でした。奨励会での1年半の日々は、後にも先にも、これほどつらかったことはありません。
(中略)
奨励会を退会した前後は最も脆弱な時期でした。細くて繊細な糸が、音もたてずに静かに切れてしまったような幕切れでした。2012年2月、退会。家族にも、棋友にも、恩師にも告げず、奨励会の退会を決めたことは、私にとって自殺を決意したようなものでした。
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新書版p.110、113
勉強、体力づくり、メンタルケア、そして奨励会。自身がぶつかった勝負の厳しさと苦難について語ります。
第六章 普及活動
――――
実は、私自身も今年会社を設立しました。まどかさんをはじめ、他業種で活躍する身近な女性の影響が少なからずありましたが、まぎれもなく新しい挑戦です。まだ事業内容として詳しくお話できる段階ではないですが、将棋にまつわるコンテンツやイベントの企画・プロデュースなど、将棋の普及を主眼とした事業を手がけていければいいなと思っています。
――――
新書版p.157
指導対局から様々なイベントまで、将棋の普及活動について語ります。
第七章 教養・趣味
――――
学業と将棋の両立は、想像を絶する苦労がありました。実際、入学したものの中退を余儀なくされたプロの例も一人や二人ではありません。タイトルを獲るまで、東京で対局がある日は、キャリーバックを引いて教室に入り、授業を終えたらバスで駅へ移動、新幹線に飛び乗って上京。対局の後は夜行バスで京都に戻り、シャワーをー浴びて一限の授業に出る、という生活でした。
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新書版p.168
大学生活との両立の苦労、ゲームや読書などの趣味について語ります。
第八章 将棋界に生きる女性として
――――
社会で活躍される女性のかたがたがワークライフバランスを考えるのと同じように、勝負とプライベートとのバランスは、多くの女流棋士が抱える悩みだと思います。妊娠してトーナメント戦に出場する場合は、残念ながら進行の都合で不戦敗を余儀なくされるケースもままあり、いまなお課題が山積しています。
――――
新書版p.195
結婚や出産による影響など、女流棋士という職業につきものの悩みを語ります。「恋も感想戦ができればいいのに」。
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