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『SFマガジン2018年10月号 特集・配信コンテンツの現在』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2018年10月号の特集は、配信コンテンツの現在ということで、海外ドラマをはじめとするSF映像コンテンツのガイドでした。


『冬の時代』(柞刈湯葉)
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 ここからずっと南に行けばどこかに春の国があるらしい、ということを、ヤチダモの母からぼんやりと聞いていたからだ。
 しかし、半年ほど南下を続けても人の気配は少なくなるばかりで、見かけるのはゲノムデザインによって生まれた人工動物たちと、人間の都市の遺物と、そして永久に続いているような雪原だけだった。
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SFマガジン2018年10月号p.83

 国境の長いトンネルを抜けると……。気候変動による寒冷化により凍りついた日本。旅に出た二人の若者が、科学文明の遺物を頼りに雪原をひたすら歩いてゆく。どこかに春の国があると信じて。意外にもストレートなポスト・アポカリプスもの。


『火星のオベリスク』(リンダ・ナガタ、中原尚哉:訳)
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 スザンナは火星のオベリスクのビジョンを語った。光り輝く白い尖塔。建設に使用するファイバータイルがそのまばゆい白のもとだ。砂漠の丘から希薄な大気中に立ち上がり、ファイバータイルの強度と火星の重力と苛烈な砂嵐から定まる技術的限界点が最頂部となる。火星の風の浸食力からすると、オベリスクは十万年後はもちろん、そのはるかあとまでそびえていると期待できる。(中略)深宇宙に放たれて回収不能なひとにぎりの小さな無人探査機をのぞけば、人類の存在をしめす最後の記念碑になる。
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SFマガジン2018年10月号p.100

 疫病の蔓延により絶滅しつつある人類。ある建築家が最後のプロジェクトとして火星のオベリスク建造を開始する。放棄された植民地に置き去りにされた建設機械を地球から遠隔操作して、人類の記念碑を火星に遺そうというのだ。だが、想定外の事態が起きて、厳しい決断が迫られることに……。絶望的な状況のなかでも未来を向こうとする人間の姿を描いた、感傷的で力強い物語。


『サヨナキが飛んだ日』(澤村伊智)
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 瑠奈が言ったとおり、技術的に同等だからこそ機械の方が信頼できる、という考え方もあります。むしろそれが世の中の一般的な感覚でしょう。(中略)それでも私はサヨナキを信用できませんでした。それどころか嫌悪し、憎悪していました。あの機械は娘を、瑠奈をおかしくしてしまったからです。
 多くの人々と同じように。
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SFマガジン2018年10月号p.212

 鳥の形をした小型ドローン、家庭用医療ロボット「サヨサキ」。診断から軽度の手当て、病院への連絡まで日常的な医療ケアを任せられるサヨサキに懐いてゆく娘の姿を見て、母親は不快感を覚える。やがてそれは激しい憎悪となって……。ロボットに対する人間の愛憎を描くサイコホラー短篇。


『博物館惑星2・ルーキー 第五話 白鳥広場にて』(菅浩江)
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「ワヒドさん。私には理解できません。壊れるかどうかの今の状況は、確かにスリリングで観客受けしています。けれど、オブジェが本当に壊れたら、あなたの活動は造型ではなくパフォーマンスとしてしか評価されなくなってしまいます」
 アーティストは、軽く頭を上げた。
「上等ですね。創作活動がジャンルを超えて多角的に捉えてもらえるだなんて、現代アートの極みですよ」
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SFマガジン2018年10月号p.242

 既知宇宙のあらゆる芸術と美を募集し研究するために作られた小惑星、地球-月の重力均衡点に置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。その広場に設置されたのは、自律粘土を使った立体造型だった。観客との相互作用により自律的に形を変えてゆく芸術作品だが、若き警備担当者である主人公にとっては事故が起きかねない危険なオブジェ。安全確保のための介入を断固として拒否する芸術家との「現代アートとは何か」をめぐる論争が始まる。『永遠の森』の次世代をえがく新シリーズ第五話。


『検疫官』(柴田勝家)
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 ジョン・ヌスレは自分の職業に誇りを持っていた。
 空港で働く検疫官だった。感染症を国内に持ち込ませないという、崇高な使命を持った仕事である。ただし動植物や食べ物に対する検疫ではない。それは人から人へ伝染し、流行すれば甚大な被害を及ぼすもの。比喩的には病原体とも言えるだろうが、感染した時には体よりも思想に害をなすだろう。
 つまり物語である。
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SFマガジン2018年10月号p.345

 人々を煽動する有害な感染症、すなわち「物語」を国内に持ち込ませない。それが検疫官の使命である。あるとき、帰国した女性が空港で検疫に引っ掛かり、隔離される。彼女が連れていた幼い子供は、物語に感染していないか観察するため、空港内に留め置かれることに。物語感染者の疑いはなかなか晴れず、やがて隔離処置そのものが「母親から引き離され、空港内で暮らす子供」という強力な物語を発生させてしまう……。

 人類の思考から物語を排除できるかというテーマを扱った寓話的な作品ですが、「物語」を「フェイクニュース」に入れ換えると……。



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