SSブログ

『鉄砲百合の射程距離』(内田美紗:俳句、森山大道:写真、大竹昭子:編集) [読書(小説・詩)]

――――
十年ほど前、森山大道さんの関係者に取材した際に、内田美紗さんにお会いした。俳句をやっておられるというので句を拝見させていただいたところ、その破天荒ぶりに驚愕し、森山さんの写真と合わせて一冊の本にしてみたいという野望を抱いた。言葉が写真に、あるいはその反対に写真が言葉に寄りかかることなく、互いが独立していながら刺激しあい、新たな地平を切り開くことは果たして可能かと、それ以来、自問しつづけてきたが、本書はそれへの一つの答えである。
――――


 森山大道さんのモノクロ写真と内田美紗さんの句が化学変化を起こし、何やらとてつもないインパクトを秘めた不穏さが生まれる。写真集にして句集という破天荒な一冊。単行本(月曜社)出版は2017年4月です。


――――
待たれゐる死やかすかなるバナナの香
――――

――――
おとうとと揚羽と覗く墓の穴
――――

――――
慕情いま鉄砲百合の射程距離
――――


 女体接写、不穏な風景、工場や機械のクローズアップ、何が写っているのかもさだかでないぼやけた写真。昭和感あふれる薄気味悪いモノクロ写真に、思わず「はっ」とするような不穏さを漂わせる句が重ねられています。写真と句の間には明白な関係はないのですが、両者がそこで出会ったことで何かが生じた、生じてしまった、そんな印象を与える作品集です。


――――
亀鳴くや携帯電話飼つてをり
――――

――――
口中に残りし麻酔遠くに火事
――――

――――
海鼠腸に昵懇の箸汚しけり
――――

――――
をとこ来て穴堀りはじむ花の下
――――

――――
ががんぼや賛同の手のまばらなる
――――


 写真を選び、句を選び、それぞれを組み合わせて新しい表現を創り出す。大竹昭子さんの編集は、どうもこの世の調和を崩してしまう錬金術にも似ています。


――――
昼寝覚この世の水をラツパ飲み
――――

――――
ミック・ジャガーの小さなおしり竜の玉
――――

――――
瘡蓋のかぱとはがれて冬来る
――――

――――
目の玉の奥行き想ふ春の闇
――――

――――
台風のほかにもなにか待つ気分
――――


 句だけ読んでも何やら迫り来る感じですが、実際にこれらの言葉が写真の上に乗せられたとき、何が起きたのか、実際に本書を開いて確認してみて下さい。



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。