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『「猫」と云うトンネル』(松本秀文) [読書(小説・詩)]

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行方不明の世界を探すために
カタツムリの丘にある図書館に出かける猫たち
あらゆる書物のページを注意深くめくりながら
「世界はおそらく元気です」と結論(まとめ)
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単行本p.62


 犬のアレが神様の自伝『神です』を書いている
 「猫」と云うトンネルに入る前に、あなたは考えなければならない
 この世のことわりについて語りそうで語らない猫詩集。
 単行本(思潮社)出版は2017年10月です。


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「猫」というトンネルに入る前に
あなたは考えなければならない
今あなたが考えていることは
どれもくだらないことで
気にすることなど何ひとつない
そのトンネルに入ってしまうと
何もかもくだらないことだと
はっきりとわかる
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単行本p.104


 猫のように気ままに、犬のように熱心に、この世のしくみを洞察するかのような作品が並びます。個人的に猫びいきなので、猫が登場するところばかり引用してしまう。


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哲学猫
朝は寝て昼は書棚に一日中見惚れることが仕事です
「いい加減お仕事をしてください」と妻
夜はさみしがり屋の先祖に首輪をつけて鈴を鳴らす
暗鬱な世界をパッと明るくするのが哲学の仕事です
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単行本p.34


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文章が書けなくなったことについて執筆をする哲学猫
石臼をひきつづける古代猫(年齢不詳)からの教えで
文章が書けてしまうことへの疑いを手放さないでいる
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単行本p.38


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「わたしは猫です」と述べるだけでは自分の解説として不充分と考えている猫
わかりやすく伝えるためにうしなってしまうものについて正確に話そうとする
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単行本p.70


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つながらないことを選択した猫
つながることがすべてではない
つながる時はきっと閃光を放ち
一瞬でとだえてほろびるだろう
そんな迷信のようなことを想う
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単行本p.54


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深い孤絶によって自らを成立させている猫がいる
弱さと貧しさを魂の支点として自由に生きている
おしだされるようにしてなきながらうまれてきた
花の名前を忘れてじっと色や香りに見惚れている
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単行本p.66


 猫は哲学者ではなくて、たぶん詩人なんだと思います。

 他にも、猫のトンネルというだけあって、あちらこちらに猫の姿が。そして生と死と存在の有限性について語りそうで語らない気にしない寝る。


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拾われて洗われて煮こまれて死ぬ
湯加減を尋ねる猫の声に煽られて
蜆「いい出汁(ダシ)が出ると思います」
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単行本p.19


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風邪気味の猫がお辞儀してあなたを迎えてくれる
これまでの「生」を要約した映画を共に鑑賞する
「生涯はたった一行の終わりなき反復なのです」
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単行本p.47


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猫たちが並んで月を眺める川沿いの屋台「笹舟」
死んだ友達と酒を飲みながらくだらない話をする
神様は「そろそろ引退ですが……」と前口上して
ゆれる月を見ながら風に気持ちよく吹かれている
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単行本p.43


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晴れた日に坂道をくだりながら
この世界に留まる必要がないことにおびえる
文章を書いては消すだけの幻燈のような一生
青空から誰かの血のように滴り落ちるインク
「夜はおいしいものを食べることにしよう」

空が雲を笑わせているのか
雲が空を笑わせているのか
わからないまま猫は昼寝をしている
――――
単行本p.77


 生真面目だけど投げやり、そんな猫らしさが横溢している一冊。


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