『メメント1993 34歳無職父さんの東大受験日記』(両角長彦) [読書(小説・詩)]
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タカコは柴田をじっと見て言った。「無駄よ。いくら努力したって結果はわかってる。あなたは大学には入れない。作家にもなれない。奥さんからも子供からも見捨てられる。何ひとつあなたの思いどおりにはならない。この世界のどこにも、あなたの居場所はないのよ」
「そうかもしれない。すべての努力は無駄に終わるかもしれない。それでも、いまがんばらないと後悔することになる」
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単行本p.174
作家を目指して努力するもデビューできないまま33歳になってしまった男が、一念発起。「俺は、東大に合格するぞ」意味不明な決意で受験勉強に邁進するが……。著者の自伝的要素も入った、滑稽で熱いおじさん受験物語。単行本(KADOKAWA)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。
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おれは成功が欲しかったんだ。失敗、失敗、失敗ばかりの人生の中、作家としての成功でなくてもいい、どんな形でもいいから成功がしたかった。成功者になりたかったんだ。しかし、今のおれに手の届く成功といったら何だろう。職歴も人生経験もないおれにとって、できることといったら大学受験くらいしかないじゃないか。だから――
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単行本p.14
大学を中退し、作家を目指して頑張る柴田。だが、書いても書いても新人賞に落ち続けるうちに、ふと気が付けばもう33歳。このまま作家にはなれないのか。負け犬として生きるのか。嫌だ。自分は何かを成し得る人間だということを証明したい。
というところまではよくある話ですが、そこで「よし、東大に合格するぞ」となるところが、視野が狭いというか、追い詰められている感というか。
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「これで目がさめたでしょ」ナミは、いくら腹立ちをぶつけてもぶつけたりないという表情で言った。「三十三にもなって大学受けるなんてみっともないまねは、もうやめるのよ」
「何が――」柴田はうなだれたまま、ぼそっと言った。
「えっ?」
「何がみっともないんだ」柴田は顔を上げて言った。「三十三で大学を受けるのが、どうしてみっともないんだ」
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単行本p.14
33歳で大学を受けるのは、決してみっともないことではありません。でも、33歳にもなって「社会的成功=東大合格」という発想しか出来ないのは、それはどうなの。
誰もが呆れるなか、本気で受験勉強を始める柴田。最初は激怒していたものの、やがてその熱意に何となくほだされてゆく妻。典型的です。
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この一年が正念場よ。あなたが、たとえ小さなことでも何かをやりとげるか、何ひとつやりとげることのできないクズで終わるか。
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単行本p.38
というわけで、これまでのサスペンスミステリーから大きく作風を変えてきた長篇。情けない中年男の一年間の受験生活を描いた、おじさん受験記というべき作品です。
といっても勉強の進捗と模試の成績だけが書かれているわけではなく(そりゃそうだ)、十年前に起きた少女誘拐監禁事件がとんでもない形で絡んできたり、知人が人質立てこもり事件を起こしたりと、ドラマチックなプロットがいくつも並行して展開。先が気になって、するする読み進めてしまいます。
全体的にユーモラスな雰囲気ですが、ダメ男がすべてに絶望しつつも最後のところで矜恃を守り抜く姿には思わず引き込まれて熱くなります。あちこちに1993年当時の新聞記事の見出しが散りばめられ、世相を浮かび上がらせるところも巧み。
著者略歴を見ると、かなり自伝的な要素が入っていることが分かります。ちなみに著者がその後、作家としてデビューしたのは50歳になってから。それを知っていると、また味わいが深くなるように感じられます。
タカコは柴田をじっと見て言った。「無駄よ。いくら努力したって結果はわかってる。あなたは大学には入れない。作家にもなれない。奥さんからも子供からも見捨てられる。何ひとつあなたの思いどおりにはならない。この世界のどこにも、あなたの居場所はないのよ」
「そうかもしれない。すべての努力は無駄に終わるかもしれない。それでも、いまがんばらないと後悔することになる」
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単行本p.174
作家を目指して努力するもデビューできないまま33歳になってしまった男が、一念発起。「俺は、東大に合格するぞ」意味不明な決意で受験勉強に邁進するが……。著者の自伝的要素も入った、滑稽で熱いおじさん受験物語。単行本(KADOKAWA)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。
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おれは成功が欲しかったんだ。失敗、失敗、失敗ばかりの人生の中、作家としての成功でなくてもいい、どんな形でもいいから成功がしたかった。成功者になりたかったんだ。しかし、今のおれに手の届く成功といったら何だろう。職歴も人生経験もないおれにとって、できることといったら大学受験くらいしかないじゃないか。だから――
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単行本p.14
大学を中退し、作家を目指して頑張る柴田。だが、書いても書いても新人賞に落ち続けるうちに、ふと気が付けばもう33歳。このまま作家にはなれないのか。負け犬として生きるのか。嫌だ。自分は何かを成し得る人間だということを証明したい。
というところまではよくある話ですが、そこで「よし、東大に合格するぞ」となるところが、視野が狭いというか、追い詰められている感というか。
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「これで目がさめたでしょ」ナミは、いくら腹立ちをぶつけてもぶつけたりないという表情で言った。「三十三にもなって大学受けるなんてみっともないまねは、もうやめるのよ」
「何が――」柴田はうなだれたまま、ぼそっと言った。
「えっ?」
「何がみっともないんだ」柴田は顔を上げて言った。「三十三で大学を受けるのが、どうしてみっともないんだ」
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単行本p.14
33歳で大学を受けるのは、決してみっともないことではありません。でも、33歳にもなって「社会的成功=東大合格」という発想しか出来ないのは、それはどうなの。
誰もが呆れるなか、本気で受験勉強を始める柴田。最初は激怒していたものの、やがてその熱意に何となくほだされてゆく妻。典型的です。
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この一年が正念場よ。あなたが、たとえ小さなことでも何かをやりとげるか、何ひとつやりとげることのできないクズで終わるか。
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単行本p.38
というわけで、これまでのサスペンスミステリーから大きく作風を変えてきた長篇。情けない中年男の一年間の受験生活を描いた、おじさん受験記というべき作品です。
といっても勉強の進捗と模試の成績だけが書かれているわけではなく(そりゃそうだ)、十年前に起きた少女誘拐監禁事件がとんでもない形で絡んできたり、知人が人質立てこもり事件を起こしたりと、ドラマチックなプロットがいくつも並行して展開。先が気になって、するする読み進めてしまいます。
全体的にユーモラスな雰囲気ですが、ダメ男がすべてに絶望しつつも最後のところで矜恃を守り抜く姿には思わず引き込まれて熱くなります。あちこちに1993年当時の新聞記事の見出しが散りばめられ、世相を浮かび上がらせるところも巧み。
著者略歴を見ると、かなり自伝的な要素が入っていることが分かります。ちなみに著者がその後、作家としてデビューしたのは50歳になってから。それを知っていると、また味わいが深くなるように感じられます。
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