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『新しい分かり方』(佐藤雅彦) [読書(教養)]

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 この書籍には、「こんなことが自分に分かるんだ」とか「人間はこんな分かり方をしてしまうのか」というようなことを分かるための機会をたくさん入れようと構想しました。そういう意味で、本のタイトルを『新しい分かり方』としました。順番としては、一見、ばらばらの内容がランダムに並んでいるように見えるかもしれませんが、いろんな側面で次から次へと「新しい分かり方」を誘因する表現を並べた結果なのです。ご自分の中で起こる希有な表象やまったく新しい表象を確認してみてください。
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単行本p.262


 物理的にあり得ない変化が起きたと感じさせる。空白だと確認した上でページに置いた指の下に何かがあるように錯覚させる。ただの抽象図形に感情移入させて物語を勝手に読み取らせる。読者の参加意識や罪悪感を引き出す。様々な表現を駆使して、今まで知らなかった、意識してなかった、そんな、新しい分かり方、を実感させる本。単行本(中央公論新社)出版は2017年9月です。

 並べられた二枚の写真から、私たちはどうしても因果関係や連続的な変化を読み取ってしまう。たとえそれが物理的にナンセンスであっても。NHK教育番組『ピタゴラスイッチ』の監修でも知られる著者による、ものごとが直感的に分かるとき私たちは何をどうして分かるのかを直感的に分からせる興味深い表現を集めた一冊です。


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 さらに正直な事を言うと、この書籍に収められた表現のなかには、分かること自体が難解なものも、いくつかあります。しかし、それらも、その「分からなさ」をご自分で反芻すると、いままで知っている「分からなさ」とは一線を画すものだということを感じられるのではないでしょうか。私は、「新しい分からない方」と呼んでいます。うーん、よく分からないけれど、この分からなさは初めてだなあと感じていただければ、してやったり、幸いであります。
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単行本p.263


 野暮になりがちな解説は最小限で、とにかく自分で見て首をかしげてから「分かってみる」という姿勢が大切。個人的には、『ピタゴラスイッチ』はもちろんのこと、『デザインあ』や『0655/2355』などNHK教育番組における“変なコーナー”とも共通する感覚を覚えました。

 最後にいくつかエッセイが収録されており、これらの表現に至る思考が書かれている(こともある)ので、参考にするとよいでしょう。


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 私は、表現を作る時には、いきなり表現に入るのではなく、どう作ったらかっこいいもの・面白いもの・かわいいものができるかということを、まず考える。別の言葉にすると、手法をまず考えるのである。この時には、ある質感の中に別の質感のものが嵌まっていると、それだけで関心が生まれるということを意識していた。「ある質感の中に別の質感がある」ということは、何も、私の発明ではまったくない。
 日本では、そんな手法が古えからあった。【象嵌】である。
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単行本p.246


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 この、手と指を巡る考察をした後で、私はさらにこう考えた。
 指をあるモノに置いた途端、その置かれたモノは他人事では済まされず、「自分事」になってしまうのではないか。
 もしかして、私が何を言っているのか、分からないと思うので、まずは、ご自分でこの訳の分からないことを体験してみていただきたい。
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単行本p.198



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