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『裏世界ピクニック ファイル6 果ての浜辺のリゾートナイト』(宮澤伊織) [読書(SF)]

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 この世の果ての浜辺に、鳥子と二人きり。
 こんなに静かな場所で、一緒に過ごせるなら、ずっとここにいてもいいかなあ……。
 そんな思いが、ふっと心をよぎった。
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Kindle版No.368


 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知を超える超常現象や危険な生き物、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア怪異が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、その第6話。Kindle版配信は2017年7月です。


 『路傍のピクニック』(ストルガツキー兄弟)をベースに、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。ファイル1から4を収録した文庫版、そしてファイル5の紹介はこちら。

  2017年03月23日の日記
  『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23

  2017年07月05日の日記
  『裏世界ピクニック ファイル5 きさらぎ駅米軍救出作戦』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-05

 最初の4話はSFマガジンに連載された後に文庫としてまとめられましたが、セカンドシーズンは各話ごとに電子書籍として配信することになったようです。おそらく何話か溜まった時点で第2巻として文庫化されると思われます。


 さて、ファイル6はタイトル通り、きさらぎ駅米軍救出作戦を生き延びた二人がリゾートビーチでいちゃつくという、まあ水着回、だと思えたのですが……。


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「はー、大学サボって沖縄のビーチで呑むビール超おいしい。私もうだめかもしれない」
「だめかもねー」
「普通に飛行機で帰るつもりだったけどさ、考えてみたら銃どうする気だったんだろ私」
「ゆうべ呑んでるときには、ばらして郵便とか宅配で送ろうって話してたけど」
「えっ無理でしょ、沖縄からだと飛行機だし、X線検査すると思うよ。パーツに分けたって相当うまくやらないと。特に弾なんか形見たらバレバレだし……」
 自分で言ってて、あまりに反社会的な会話でびっくりした。
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Kindle版No.344


 やっぱり裏世界に放り出され、でもせっかくの無人ビーチだし、遊んじゃえ、と。裏世界に馴染みすぎ。最初の頃の恐怖心はどこ行ったのか。

 と思っていたら、ほーら、たぶん怖さという点ではシリーズ中でも最大級の怖い目に。海辺の怪談は恐ろしいと決まってるし。


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「青い光の向こうにいる何かが、人間を恐怖させて、狂わせることで、私たちに接触しようとしてる。あのとき、そう言ったの、鳥子憶えてる?」
 何も言わずに私を見返す鳥子の顔は、完全に無表情だった。
 数秒後、私の手のひらの下で、鳥子の肌がぶわっと粟立った。「っは……」
 喘ぐように息を吸う鳥子。見開かれた目が、狂気の中で口走った自分の言葉を思い出したことをはっきりと物語っていた。
「あ、あ」
「気をしっかり持って。こ、これ、ヤバい。〈かれら〉が私たちを狂わせにくる。はっきり私たちに狙いを定めてる。私たちを個体識別してる!」
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Kindle版No.505


 ただ怖いだけでなく、はっきりと「ヤバい」状況に陥った二人。ファーストシーズンでも仄めかされていた「恐怖による狂気と極限状況、それそのものがファーストコンタクト」というSF的設定のもと、あちら側から狙い定めてコクタクトを試みてくるという嫌状況。

 逃げ道を塞がれ、火力ではもうどうしようもない窮地に陥った二人に活路はあるのか。そして満を持して姿を現すラスボス、たぶん。

 というわけで、状況が大きく動き始めたセカンドシーズン。今後のシリーズ展開を楽しみに待ちたいと思います。


タグ:宮澤伊織
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