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『世界の終わり/始まり』(倉阪鬼一郎) [読書(小説・詩)]

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回転寿司の二番目の皿を間違えつづけてきた人生のささやかな終わり
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見るな きみのうしろを全速力で飛び去っていくあのバーコードの群れを
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どんなにこわれていても大丈夫ですと廃人回収車が巡回する町
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赤い屋根につづくはるかな道 眼圧測定器の中の
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いまはまだ何も始まっていないからさんかくの耳もつものをいだいて眠る
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 世界の終わりと始まりを詠む。「多少なりとも希望のある歌を詠もうと考えて」いたのに、やっぱり「できるのは相も変わらず終末のほうに傾いた歌ばかり」と作者が語る終末歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2017年2月、Kindle版配信は2017年2月です。


 俳句アンソロジー『怖い俳句』と『猫俳句パラダイス』の二冊が強烈な印象を残してくれたので、個人的に、倉阪鬼一郎さんといえば俳句の人、というイメージが強い。というか実は『活字狂想曲』のイメージの方が強いのですが。

 ちなみに二冊の俳句アンソロジーの紹介はこちら。

  2012年08月01日の日記
  『怖い俳句』(倉阪鬼一郎)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-08-01

  2017年01月31日の日記
  『猫俳句パラダイス』(倉阪鬼一郎)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-31

 しかし、本書あとがきによると、もともと短歌を詠んでいて、後から俳句に転向したのだそうです。本書はその倉阪鬼一郎さんの最新歌集。

 まずは終末風景を詠んだ作品が目につきます。


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終末の朝には一つとうめいな花火のようなものがあがるよ
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晴れわたる終末の地の上空を赤い飛行船ゆるゆる流れ
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姿なき飛行機通り過ぎていく人滅びたる夜明けの空を
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鉄橋を渡りきってもだれもいないあの町もこの町も無人
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 世界の終わり、人類の滅亡、といったおおごとではなく、ごく局所的な風景を詠んだ作品にも、それとなく終末感が漂っているような気がします。


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カーブミラーの代わりに無数の蝋燭が立つだれも通らぬ崖沿いの道
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水の中の階段何も動かない水だけが静かに充ちている場所
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 自身の人生を自嘲的に詠んだ作品は、苦いユーモアがほどよくきいていてスパイシー。


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この地球という星に生まれてベビースターラーメンを一袋買う
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おいしい唐揚げもいかがですかと問われて全体重をかけて「いらない」と答える
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回転寿司の二番目の皿を間違えつづけてきた人生のささやかな終わり
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鹿くれば鹿にえさやり猫くれば猫にえさやる人生なりき
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 個人的には、奇妙な、SF的な光景を詠んだ作品、ありがちな言葉の文脈をはずして笑わせるような作品、そういったものにも惹かれます。


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見るな きみのうしろを全速力で飛び去っていくあのバーコードの群れを
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どんなにこわれていても大丈夫ですと廃人回収車が巡回する町
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火星にも土星にもおれ もしくはおれに似たのっぺらぼうの何か
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赤い屋根につづくはるかな道 眼圧測定器の中の
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なかったことにしてくれと言われてなかったことにしてあげる夏の光
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おはなしはぜんぶ終わったからたぬきのたの字を抜いてください
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 そして、短歌というもの、あるいは短歌を詠むという行為、それについて詠んだメタ短歌。


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短歌を一首忘れてしまった 永遠に閉ざされてしまうささやかな世界の入口
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短歌から遠く離れてふりかぶるバックネット直撃の球
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べたべたとまとわりつくわたくしを斬りつくしてこんなにも晴れやかなわたしの短歌
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落丁だらけのおれの人生の歌集を読めるものなら読んでみやがれ
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だれが詠むか家族人生政治などおれの言葉は無の断片だ
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断片以前の言葉の波の間に浮かんで消える純粋短歌
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 最後に、『猫俳句パラダイス』の著者らしい素敵な猫短歌を一首あげておきましょう。


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いまはまだ何も始まっていないからさんかくの耳もつものをいだいて眠る
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