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『マヨネーズ』(仲田有里) [読書(小説・詩)]

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マヨネーズ頭の上に搾られてマヨネーズと一緒に生きる
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菓子パンやプリンを食べるのが一番楽であとはしんどい
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このシャツもカーディガンもスニーカーもいつかどこかで私が選んだ
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マンガにも映画にもおっぱいは出る 湯船に浮かぶ 胸は大切
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君のこと考えながら考えすぎないようにわたし桃のように寝る
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 暮らしのなかにある小さな喜び、ささやかな感動、みたいもの絶対に詠まない。日々の疲弊感を、ある種の諦念を、そのまま無感動に、ぶっきらぼうに、差し出すような生活歌集。単行本(思潮社)出版は2017年3月です。


 普通、頭からマヨネーズとかそういう面倒事が降りかかってきたり、過労で倒れて病院に行ったり、台風や母親が来たりすれば、何らかのアクションを起こすか、少なくとも心が動くわけですが、そういうそぶりを見せず、無感動に事実をただ述べた、そんな印象を受ける作品が並びます。


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マヨネーズ頭の上に搾られてマヨネーズと一緒に生きる
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点滴で治しましょうと寝ころんで透明な液大量に
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生きている人がたくさんやってきて帰っていくのを毎日見てる
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ベランダを掃いたら埃がすごくて、台風が来て、母親が来る
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ハブラシが一本立ったコップにも黴が生えてる埃が降ってる
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 マヨネーズまみれでも、過労で倒れても、部屋が埃だらけでも、抜本的な対処まで手が回らず、とりあえずそのまましのぐ、そんな生活。

 食事をうたった作品でも、美味しいとか、不味いとか、とにかく味覚描写というものが欠落していて、いつもと同じものをただ食べる、それも「しんどい」と思いながら食べる、そんな作品が続きます。全体的に感じられるのは、疲弊感というか、抑鬱感というか、何もかも面倒になったときの、あの気だるさのようなもの。


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食パンとヨーグルトとゆで卵大切な朝食がいつもと同じ
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つまらない電車が過ぎるつまらないコンビニへ行くご飯を食べる
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菓子パンやプリンを食べるのが一番楽であとはしんどい
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いちごかグレープフルーツが食べたくてそれを買ってくる想像をする
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ベランダに外れた網戸が立てかけてある豚肉とキャベツ炒める
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食べ物を食べてしまう 蛍光灯をつけたらまぶしい 布団を着る
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 浴室でも、もう面倒なことはぜんぶ明日まわし、という気持ちが見えます。メディアで性的消費の対象にされるパーツだけ「大切」という表現からは、自分というものに価値を見いだせない悲しみも伝わってきます。


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食事中降ってくる虫 ぬるぬるの浴槽 人目を気にしない朝
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マンガにも映画にもおっぱいは出る 湯船に浮かぶ 胸は大切
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お風呂場で20分ほど水底を見つめていてもわたしはひとり
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浴槽に浮いた髪も濡れたまま寝た髪もいずれは乾く日々
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星を見て体を洗って洗い物大量に残しわたしは寝ます
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 「あきらめ」「無反応」「考えすぎないように」といった諦観を感じさせる言葉も多用され、生々しい印象を残します。


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しんしんと降る雪何も起こってない事については無反応です
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何もかもある世界で何も起きなくてもいいと思うあきらめ
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このシャツもカーディガンもスニーカーもいつかどこかで私が選んだ
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君のこと考えながら考えすぎないようにわたし桃のように寝る
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 というわけで、「日常のなかにあるささやかな感動」みたいなものを絶対に詠んでやるかという意地を感じさせる歌集です。その依怙地な姿勢の背後から、静かな哀しみのようなものが立ち上ってきます。



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